日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

インターナショナルセッション(ポスター発表)

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GG 地理学

[H-GG01] International comparison of landscape appreciation

2015年5月27日(水) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*Christoph Rupprecht(Griffith School of Environment, Griffith University)、高瀬 唯(千葉大学大学院園芸学研究科)、古谷 勝則(千葉大学大学院園芸学研究科)

18:15 〜 19:30

[HGG01-P02] 路地環境における鉢植えの役割-京都を事例として-

*水上 象吾1 (1.佛教大学)

キーワード:路地, 鉢植え, あふれ出し, 緑, 地域コミュニティ

はじめに
 都市における景観評価には、緑の存在が強く寄与することが多くの既存研究により示されている。しかし、都市は土地利用の点から緑の確保が困難である。都市の土地利用の多くは住宅が占めていることからも、今後、行政による緑政策に加え、住民自らが住居の庭等において緑を育むことが緑環境の創出へ向け期待されている。
 住居の庭以外においても、鉢植えの緑は可動性の緑被空間を構成し、庭などの土壌を確保した特定の土地利用に制約されない設置が可能である。特に、路地には鉢植えのあふれ出しが多く観察されており、公的な街路空間から見た緑量増加にも寄与することが予測される。
 路地は人々の生活に密着した空間であり、公的と私的の両方の雰囲気を持ち合わせる場として、地域コミュニティの基盤となっている。路地にあふれ出した鉢植えが、緑や花を通じた会話や挨拶等のきっかけとなり、地域コミュニティを活性化するひとつの要因になり得ているのではないだろうか。
 以上の問題意識のもと、本研究では、京都市中心市街地を事例として、路地景観を形成する要因として鉢植えの緑に着目し、住民意識とのかかわりを検討する。自宅前の路地に関する意見を把握し、路地に対する認識や課題点における緑や鉢植えの位置づけを検討する。また、路地の環境条件と鉢植え設置のかかわりを調べ、緑環境の形成が地域コミュニティの促進に貢献しているかを検討する。鉢植えの緑が、路地の緑景観の形成に加え、地域コミュニティの活性化要因として機能し得る可能性を考察する。

研究方法
 調査は、歴史的な路地の多い京都市中心市街地を対象とし、126路地を調査した。住民に対するアンケートは路地に接する住戸1000軒に配布し、回収は278票となった。
(1)テキストマイニング
住民が路地に関して感じていることに関し、自由記述により回答を得た。記述回答の質的データは、テキストデータを分解し、その構造を数量的に解析するテキストマイニングによる対応分析、クラスター分析により解析した。
(2)物理的環境条件の調査
 住戸の表に置かれた植木鉢数をカウントし、路地形態と路地幅員との関係を調べた。路地形態は進行方向の塞がりと路地の折れ曲がりの2要因により6分類にし、幅員は2m未満から10m以上までを2m区分で分類した。
(3)住民の意識調査
 地域コミュニティにかかわる質問として、町会・自治会活動への参加程度と近所づきあいの程度について尋ね、鉢植え設置との関係を探った。


結果
(1)テキストマイニング
 住民の路地に関する考えを頻出キーワードより探り、得られたキーワードをグループ化し整理した。その結果、路地に存在する物としては、「鉢植え」、「バイク」や「自転車」等のあふれ出し物があげられた。また、「緑の状態」に関する意見が5つの概念のうちの一つを構成した。
(2)物理的環境条件の調査
 路地形態と植木鉢数との間には有意差が認められ、通り抜けしにくい路地ほど植木鉢数が多いことが示された。また、幅員が狭い路地ほど、植木鉢数が多い傾向が示された。
(3)住民の意識調査
 家の前に設置された鉢植えの数が多い人ほど、近所の人との立ち話やおすそわけの行為など、つきあいが深くなる傾向が示された。また、鉢植えの設置が多い人ほど、町会・自治会活動への参加も高い傾向が示された。

考察
 路地環境を構成するものとして鉢植えの存在に関する住民の認識は高く、路地の評価指標の一つとして緑の状態があげられる。路地の形態や幅員等の環境条件の違いが、設置される植木鉢数に影響しており、住民の私的領域に関する意識が私的所有物としてのあふれだしを促すと考えられる。鉢植えの緑は、手入れなどで路地に出る機会を増やし、近所づきあいや地域活動への参加などを高める。鉢植えの緑の存在が、路地環境の景観形成と地域コミュニティに寄与すると示唆される。