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[SSS26-24] 地震波形解析から地震波動場解析へ:Seismic Gradiometry法の広帯域化Hi-net記録への適用可能性
キーワード:地震波動場, 広帯域, 表面波, 到来方向
はじめに
防災科学技術研究所Hi-netは,固有周波数1 Hzの速度型地震計を用いた稠密高感度地震観測網である.Hi-netでは1 Hz以上の高周波帯を主たる解析対象としているが,収録機器の広ダイナミックレンジと良好なS/Nにより,特に振幅の大きな大地震に対しては,超稠密な長周期アレイとしても充分に機能しうることが明らかにされてきた[Maeda et al., 2011, 2014].波長が観測点間隔よりも長くなる長周期帯においては,地震波形は独立した観測点の時系列というよりも,その集合として2次元の面的波動場としての情報をもたらしうると期待される.実際に,地震動の補間された空間分布から,不均質構造に起因する散乱波を検知した事例が報告されている.
近年,空間的に稠密な記録を用いて地震動の空間勾配を推定することにより,地震動の到来方向のみならず幾何減衰や震源輻射特性を分離できるSeismic Gradiometry(以下SG法)が提案されてきた[Langston, 2007a,b,c; Liang and Langston, 2009].本報告では,SG法をHi-net観測点配置に基づく理論地震波形に適用することで,周期数10秒から100秒の長周期帯においてより定量的に面的波動場を推定し,波動伝播特性を抽出することの可能性を検討した.
Seismic Gradiometry
SG法とは,離散的な観測点における地震波形の空間分布からその空間勾配を推定し,空間勾配と波形振幅から波動伝播を特徴付ける特徴量を推定する一連の手法である.空間勾配を推定するために,地震波動場が2次元の空間的に連続な関数であるとの仮定の下にそれをTaylor展開し,周辺観測点の記録から逆問題によって空間微分係数を求める手法が提案されている.また,地震波動場の関数形状としては,時間とともに平行移動する項と,それとは独立な空間分布項を持つものが提案されている.この仮定の下では,到来波の位相速度と到来方向に加え,波の幾何減衰や震源輻射パターンに伴う空間変動が同時に推定できる.これは,主として平面波を仮定してその位相ずれから到来方向と位相速度を求めるアレイ解析とは大きく異なる特徴である.
Hi-net観測点への適用可能性
Hi-netの実観測点配置に基づいた数値実験を行った.位相速度3 km/sで水平方向に同心円状に広がるガウス型関数形状をもち,かつ表面波と同様な距離の平方根に反比例する幾何減衰と水平角度方向に四象限型の輻射パターンをもつ理論波動場を生成し,Hi-net観測点位置に相当する部分での理論地震波形を計算した.生成した波動場は波長に相当する特徴的な空間スケールが60 kmであり,周期20秒程度の表面波と同程度である.これらを仮想観測記録として,日本列島および周辺の0.1度間隔の等間隔グリッドにおいて,周辺50 km内の観測点の波形振幅を用いた最小自乗法によって波動場とその空間微分係数を推定した.波動場とその微分推定は常に優決定問題であり,その解を求めるための逆行列を予め計算しておくことが可能である.したがって,波動場と空間微分の推定は観測点波形の重み付き和というきわめて単純な演算に帰着される.推定された波動場と解析解との比較から,波動場と微分量がそれぞれ相対誤差5%と10%程度の精度で推定可能であることが明らかになった.さらに,推定された空間微分量と変位波動場,速度波動場から,スローネスベクトルおよび幾何減衰と輻射パターンの空間変動量を推定した.スローネスベクトルは震源からの放射線上によく一致したほか,輻射パターンの空間分布は,仮定した輻射パターンにより振幅が0になる位置でその振幅が急変し,震源からの方位角方向に緩やかに変化する様子が確認された.
本報告の予備的な検討から,SG法は広帯域化された大地震のHi-net記録に,周期20秒程度以上の帯域において充分に適用可能であることが明らかになった.本手法はアレイ解析と比べても空間的に均一な推定が可能であること,輻射パターンのような振幅情報を抽出できることが確認できた.SG法は,単一の地震の地震動解析だけで表面波位相速度の空間分布を直接推定することを可能にする点も,特筆に値する.また,波線平均された観測量の逆問題という経過を経る必要が無いため,位相速度ゆらぎの絶対値やその入射方位角の依存性を議論できる可能性がある.さらに,従来のアレイ解析に基づくような伝播方向が空間的に一様なグリッドで求まるため,不均質構造等に起因するコヒーレントな散乱波の検知ならびに波源同定にも有効であると期待される.
防災科学技術研究所Hi-netは,固有周波数1 Hzの速度型地震計を用いた稠密高感度地震観測網である.Hi-netでは1 Hz以上の高周波帯を主たる解析対象としているが,収録機器の広ダイナミックレンジと良好なS/Nにより,特に振幅の大きな大地震に対しては,超稠密な長周期アレイとしても充分に機能しうることが明らかにされてきた[Maeda et al., 2011, 2014].波長が観測点間隔よりも長くなる長周期帯においては,地震波形は独立した観測点の時系列というよりも,その集合として2次元の面的波動場としての情報をもたらしうると期待される.実際に,地震動の補間された空間分布から,不均質構造に起因する散乱波を検知した事例が報告されている.
近年,空間的に稠密な記録を用いて地震動の空間勾配を推定することにより,地震動の到来方向のみならず幾何減衰や震源輻射特性を分離できるSeismic Gradiometry(以下SG法)が提案されてきた[Langston, 2007a,b,c; Liang and Langston, 2009].本報告では,SG法をHi-net観測点配置に基づく理論地震波形に適用することで,周期数10秒から100秒の長周期帯においてより定量的に面的波動場を推定し,波動伝播特性を抽出することの可能性を検討した.
Seismic Gradiometry
SG法とは,離散的な観測点における地震波形の空間分布からその空間勾配を推定し,空間勾配と波形振幅から波動伝播を特徴付ける特徴量を推定する一連の手法である.空間勾配を推定するために,地震波動場が2次元の空間的に連続な関数であるとの仮定の下にそれをTaylor展開し,周辺観測点の記録から逆問題によって空間微分係数を求める手法が提案されている.また,地震波動場の関数形状としては,時間とともに平行移動する項と,それとは独立な空間分布項を持つものが提案されている.この仮定の下では,到来波の位相速度と到来方向に加え,波の幾何減衰や震源輻射パターンに伴う空間変動が同時に推定できる.これは,主として平面波を仮定してその位相ずれから到来方向と位相速度を求めるアレイ解析とは大きく異なる特徴である.
Hi-net観測点への適用可能性
Hi-netの実観測点配置に基づいた数値実験を行った.位相速度3 km/sで水平方向に同心円状に広がるガウス型関数形状をもち,かつ表面波と同様な距離の平方根に反比例する幾何減衰と水平角度方向に四象限型の輻射パターンをもつ理論波動場を生成し,Hi-net観測点位置に相当する部分での理論地震波形を計算した.生成した波動場は波長に相当する特徴的な空間スケールが60 kmであり,周期20秒程度の表面波と同程度である.これらを仮想観測記録として,日本列島および周辺の0.1度間隔の等間隔グリッドにおいて,周辺50 km内の観測点の波形振幅を用いた最小自乗法によって波動場とその空間微分係数を推定した.波動場とその微分推定は常に優決定問題であり,その解を求めるための逆行列を予め計算しておくことが可能である.したがって,波動場と空間微分の推定は観測点波形の重み付き和というきわめて単純な演算に帰着される.推定された波動場と解析解との比較から,波動場と微分量がそれぞれ相対誤差5%と10%程度の精度で推定可能であることが明らかになった.さらに,推定された空間微分量と変位波動場,速度波動場から,スローネスベクトルおよび幾何減衰と輻射パターンの空間変動量を推定した.スローネスベクトルは震源からの放射線上によく一致したほか,輻射パターンの空間分布は,仮定した輻射パターンにより振幅が0になる位置でその振幅が急変し,震源からの方位角方向に緩やかに変化する様子が確認された.
本報告の予備的な検討から,SG法は広帯域化された大地震のHi-net記録に,周期20秒程度以上の帯域において充分に適用可能であることが明らかになった.本手法はアレイ解析と比べても空間的に均一な推定が可能であること,輻射パターンのような振幅情報を抽出できることが確認できた.SG法は,単一の地震の地震動解析だけで表面波位相速度の空間分布を直接推定することを可能にする点も,特筆に値する.また,波線平均された観測量の逆問題という経過を経る必要が無いため,位相速度ゆらぎの絶対値やその入射方位角の依存性を議論できる可能性がある.さらに,従来のアレイ解析に基づくような伝播方向が空間的に一様なグリッドで求まるため,不均質構造等に起因するコヒーレントな散乱波の検知ならびに波源同定にも有効であると期待される.