18:15 〜 19:30
[HQR23-P05] 東北地方三陸海岸南部, 山田平野における完新世の古環境と地殻変動
キーワード:三陸海岸, 沖積低地, 完新世, 地殻変動
1.背景・目的
三陸海岸南部における地殻変動の傾向は, 地形・地質学的時間スケールでは隆起を, 測地学的時間スケールでは沈降を示し, 両者の矛盾を説明する地殻変動のメカニズムは解明されていない(宮内, 2012など).そのため, 約1万年間の地殻変動の記録が保存されていることが期待される沖積平野の堆積物を分析し, 地殻変動を含めた完新世の環境変遷を明らかにする必要がある.三陸海岸南部の沖積平野における先行研究は少なく, 丹羽ほか(2014)が陸前高田において完新世の地殻変動について検討している他は, 精度が十分とは言い難い.本研究では, 三陸海岸南部に位置する山田平野を対象として, 完新世の地殻変動と環境変遷に関する新たな事例を得ることを目的とする.
2.研究地域・研究方法
三陸海岸南部の平野の中で岩手県下閉伊郡山田町(以後, 山田平野と記す)は, 閉塞された環境であるため堆積物の保存状態が良好と考えられることや, 既存ボーリングコア試料が豊富であることから研究対象地に選定した.山田平野における現在の地形を把握するため, 地形分類図を作成し, 堆積環境, 堆積時期の推定のため, 5本のボーリングコアを対象に, 層相観察・記載, 粒度分析, 元素分析, 珪藻分析, 貝化石種の同定, テフラの同定, 放射性炭素年代測定を行った.
3.結果・考察
山田平野における完新世の古地理の復元
層相・粒径・全硫黄量・貝化石の産状等をもとに山田平野のコア堆積物を5つのユニットに区分した.各ユニットの形成年代とそれに基づく古地理の変遷は, 古い年代から順に次の通りである.主に有機質層で構成されるユニット1の形成年代は10,000年前から8,000年前頃にかけての縄文海進初期であり, 山田平野の古地理は泥湿地的環境であった.主に細粒な層で構成され, 貝化石が産出するユニット2の形成年代は8,000年前から4,200年前頃にかけてであり, 縄文海進の影響により古地理は干潟環境になった後, 7,500年前頃に内湾環境になった.海側にのみ認められ, 干潟種の貝化石が産出するユニット3の形成年代は4,200年前から300年前頃であり, 古地理は干潟もしくは浅海域になった.内陸側にのみ認められる粗い堆積物で構成されるユニット4の形成年代は, ユニット?と同様と推定され, 古地理は砂質低地となった.貝化石が産出せず, 盛り土の直下に認められるユニット5の形成年代は300年前頃以降であり, 古地理は海岸付近で浜堤, 内陸側で泥湿地的な環境に変わった.
山田平野および三陸海岸南部における完新世地殻変動
完新世の地殻変動を推定するため, 山田平野の堆積物コアから得られた堆積深度・年代曲線(以後, 堆積曲線)とユースタシーとハイドロアイソスタシーの影響を考慮し, 局所的な地殻変動の影響を捨象した理論的な海水準変動曲線(Okuno et al., 2014)とを比較した. 山田平野が潮間帯であった時期に限れば堆積曲線は, 相対海面高度にほぼ一致するので地殻変動が無かった場合には, 堆積曲線は理論的海水準と重なるはずである. ところが, 前者(下部 ; 標高-18.52 m-17.79m, 上部;-3.88~-3.83 m)は後者(下部;標高約-0.80 m- -7.80 m, 上部;0 m付近)よりも低い. これは当時から現在にかけて沈降傾向であった可能性を示しており, 測地学的傾向と同様である.また, 過去の平均沈降速度は, 約7,500~8,000年間で1.5~2.3 mm/yr程度, 約1,700年間で2.3 mm/yr程度と見積もられた. これらの値は最近数十~百年間の平均沈降速度(5.0~10.0 mm/yr ; 西村, 2012)に比べると遅い. 三陸海岸南部山田平野における完新世の地殻変動は, 約70 km南に位置する陸前高田平野における先行研究(丹羽ほか, 2014)と整合しており, 三陸海岸南部一帯が, 完新世には沈降傾向であった可能性が示唆された.
引用文献 宮内(2012): 科学,82,651-661.西村(2012): 地質学雑誌, 118, 278-293. 丹羽ほか(2014): 第四紀研究, 53, 311-322. Okuno et al.(2014): Quaternary Science Reviews, 91, 42-61.
三陸海岸南部における地殻変動の傾向は, 地形・地質学的時間スケールでは隆起を, 測地学的時間スケールでは沈降を示し, 両者の矛盾を説明する地殻変動のメカニズムは解明されていない(宮内, 2012など).そのため, 約1万年間の地殻変動の記録が保存されていることが期待される沖積平野の堆積物を分析し, 地殻変動を含めた完新世の環境変遷を明らかにする必要がある.三陸海岸南部の沖積平野における先行研究は少なく, 丹羽ほか(2014)が陸前高田において完新世の地殻変動について検討している他は, 精度が十分とは言い難い.本研究では, 三陸海岸南部に位置する山田平野を対象として, 完新世の地殻変動と環境変遷に関する新たな事例を得ることを目的とする.
2.研究地域・研究方法
三陸海岸南部の平野の中で岩手県下閉伊郡山田町(以後, 山田平野と記す)は, 閉塞された環境であるため堆積物の保存状態が良好と考えられることや, 既存ボーリングコア試料が豊富であることから研究対象地に選定した.山田平野における現在の地形を把握するため, 地形分類図を作成し, 堆積環境, 堆積時期の推定のため, 5本のボーリングコアを対象に, 層相観察・記載, 粒度分析, 元素分析, 珪藻分析, 貝化石種の同定, テフラの同定, 放射性炭素年代測定を行った.
3.結果・考察
山田平野における完新世の古地理の復元
層相・粒径・全硫黄量・貝化石の産状等をもとに山田平野のコア堆積物を5つのユニットに区分した.各ユニットの形成年代とそれに基づく古地理の変遷は, 古い年代から順に次の通りである.主に有機質層で構成されるユニット1の形成年代は10,000年前から8,000年前頃にかけての縄文海進初期であり, 山田平野の古地理は泥湿地的環境であった.主に細粒な層で構成され, 貝化石が産出するユニット2の形成年代は8,000年前から4,200年前頃にかけてであり, 縄文海進の影響により古地理は干潟環境になった後, 7,500年前頃に内湾環境になった.海側にのみ認められ, 干潟種の貝化石が産出するユニット3の形成年代は4,200年前から300年前頃であり, 古地理は干潟もしくは浅海域になった.内陸側にのみ認められる粗い堆積物で構成されるユニット4の形成年代は, ユニット?と同様と推定され, 古地理は砂質低地となった.貝化石が産出せず, 盛り土の直下に認められるユニット5の形成年代は300年前頃以降であり, 古地理は海岸付近で浜堤, 内陸側で泥湿地的な環境に変わった.
山田平野および三陸海岸南部における完新世地殻変動
完新世の地殻変動を推定するため, 山田平野の堆積物コアから得られた堆積深度・年代曲線(以後, 堆積曲線)とユースタシーとハイドロアイソスタシーの影響を考慮し, 局所的な地殻変動の影響を捨象した理論的な海水準変動曲線(Okuno et al., 2014)とを比較した. 山田平野が潮間帯であった時期に限れば堆積曲線は, 相対海面高度にほぼ一致するので地殻変動が無かった場合には, 堆積曲線は理論的海水準と重なるはずである. ところが, 前者(下部 ; 標高-18.52 m-17.79m, 上部;-3.88~-3.83 m)は後者(下部;標高約-0.80 m- -7.80 m, 上部;0 m付近)よりも低い. これは当時から現在にかけて沈降傾向であった可能性を示しており, 測地学的傾向と同様である.また, 過去の平均沈降速度は, 約7,500~8,000年間で1.5~2.3 mm/yr程度, 約1,700年間で2.3 mm/yr程度と見積もられた. これらの値は最近数十~百年間の平均沈降速度(5.0~10.0 mm/yr ; 西村, 2012)に比べると遅い. 三陸海岸南部山田平野における完新世の地殻変動は, 約70 km南に位置する陸前高田平野における先行研究(丹羽ほか, 2014)と整合しており, 三陸海岸南部一帯が, 完新世には沈降傾向であった可能性が示唆された.
引用文献 宮内(2012): 科学,82,651-661.西村(2012): 地質学雑誌, 118, 278-293. 丹羽ほか(2014): 第四紀研究, 53, 311-322. Okuno et al.(2014): Quaternary Science Reviews, 91, 42-61.