日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS27] 津波とその予測

2015年5月27日(水) 14:15 〜 16:00 A04 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*林 豊(気象研究所)、行谷 佑一(独立行政法人 産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、座長:遠山 信彦((独)防災科学技術研究所)

15:30 〜 15:45

[HDS27-16] 東京湾内外の津波高さ分布・周期特性と東京湾・相模湾の固有振動

瀧川 朗1室谷 智子1Mohammad Heidarzadeh1Yifei Wu1、*佐竹 健治1 (1.東京大学地震研究所)

キーワード:津波スペクトル解析, 固有振動, 東京湾, 相模湾, 1923年大正関東地震, 2011年東北地方太平洋沖地震

東京湾ではこれまで地震による津波が度々観測されてきたが、1923年大正関東地震(以下、関東地震)のような震源域が湾内にも存在する近傍の地震と、2011年東北地方太平洋沖地震(以下、東北地震)のような遠地で発生する地震とでは、湾内外の波高分布が異なることが知られている(渡辺、1970)。関東地震では湾内で津波が大きく減衰し、湾奥の波高が湾外よりも顕著に小さかった(羽鳥ほか、1973)が、東北地震では減衰が小さくそれらの波高が同程度であった(Sasaki et al., 2012, 都司ほか、2011)。一般的な湾における津波波高は入射波の周期と湾の固有振動周期との関係によって決まる(Watanabe, 1962)ため、両者の特徴を知ることは将来発生する津波を評価する上で重要である。そこで本研究では東京湾・相模湾における津波の周波数解析と固有振動計算を行い、上記 2つの地震津波の湾内での減衰の違いについて考察した。
まず関東地震・東北地震の両津波について、観測波形およびシミュレーションによる再現波形(関東地震はSato et al.(2005)、東北地震はSatake et al.(2013)の断層モデルから計算した。)のスペクトル解析を行い、卓越周期を特定した。その結果、津波の卓越周期が2つの地震で異なること、また同じ地震でも東京湾外(相模湾周辺海域)と湾内では卓越周期が異なることがわかった。具体的には、関東地震では湾外で 70分と30~40分、湾内で110分の周期が卓越したのに対し、東北地震では湾外で60~70分、湾内で 60~70分と110分の周期が卓越した。これらの卓越周期は各海域での波高に大きく寄与しており、特に関東地震では湾外の第一波に含まれる40分以下の短周期成分が湾口付近の神奈川県久里浜―千葉県金谷を結ぶ境界で弱まったことが、振幅の減衰に影響していた。なお、この境界は湾に進入する過程で水深が急激に浅くなる場所である。
次に東京湾・相模湾の固有振動を計算した。これまで東京湾の固有振動は相田(1996)によって計算されていたが、相模湾の固有振動は未だ固有値問題として解かれていなかった。最近になって、今井ほか(2014)が津波シミュレーションから東京湾手前の相模湾の固有振動(周期約 70 分)の存在と、それが東京湾の振動に与える影響を指摘している。我々は東京湾・相模湾を含む広い海域を対象として、線形浅水波方程式を差分化するLoomis(1975)と同様の手法で作成した固有値問題を解いた。その結果、得られたモードの多くが東京湾内のみで特徴づけられるもの(例:周期112分のモード)であったが、東京湾外のみが振動するものや東京湾内外が連動するもの(例:周期72分のモード)も少数であるが確認された。これらのモードを周波数解析で得られた卓越周期およびその分布と比較すると、110分と70分の卓越周期は固有振動が励起されたものとして説明できることがわかった。一方、関東地震において湾外で卓越した周期30~40分の成分が境界で減衰することについては、対応するモードが見られず固有振動では説明できなかった。
今回の結果から2つの地震津波の東京湾内での波高分布の違いの原因について推論すると、以下のようになる。まず関東地震では、湾外で 40 分以下の短周期成分が高い振幅に貢献していたが、湾口付近でそれが大きく減衰し波高も小さくなった。これは固有振動では説明できなかったが、水深が急激に浅くなる場所での波の反射の影響(渡辺、1970)が考えられる。一方東北地震では、湾外での卓越周期が既に 70 分程度であり、それが湾内外が連動する固有振動の周期(72分)と近いものであったため、湾内に振動が伝わりやすかったと考えられる。