17:15 〜 17:30
[SSS26-23] 長周期地震波動場の特徴を利用した自動CMT解の精度向上のための手法開発
1.はじめに
地震・津波被害の迅速な対応には適切なセントロイドモーメントテンソル (CMT) 解を短時間に推定する必要がある。フィリピン・インドネシア地域には地震・津波警報のために広帯域地震観測網が配備され、この波形記録の解析にNakano et al. (GJI, 2008) が開発したSWIFT震源解析システムが用いられており、長周期 (50-100 s) の波形から波形インバージョン法を用いて自動でCMT解(自動解)を決定されている。広帯域地震計に地震波が到達すると、非地震性の長周期のノイズ波形(異常波形)が不定期に発生することが知られている。この波形は地震波形と比べ相対的に振幅が大きく、波形インバージョンによる震源解析に影響を与えるが、この波形を適切に除去あるいは補正する手法は確立されていない。そこで、本研究では長周期地震波動場の特徴を利用して、この異常波形を簡便に短時間で判別する手法の開発を行った。
2.手法
長周期の地震波形の最大振幅について表面波を仮定し、震源までの距離と非弾性による減衰を考慮したものを震源振幅と定義する。CMT解の推定に使用した全波形記録について震源振幅を推定し、モーメントマグニチュード (Mw) と比較することで地震波形と異常波形の振幅の違いを利用した波形の判別法を検討した。また、震源振幅の幅とMwの関係について、その物理的意味を調べるため、フィリピンの観測点配置と格子状に密に置いた観測点配置の場合について合成波形を用いた数値計算を行った。
3.結果
フィリピン・インドネシア地域で2012年に発生した地震について、手動で波形を選択し推定したCMT解(手動解)の震源振幅とMwを比較した。震源振幅は地震波の放射パターンによりばらつくが、手動解において、この幅はMwが変化しても一定であり、イベントごとの震源振幅の最小値(最小震源振幅)と各震源振幅との比(震源振幅の比)を取ると、ほとんどの波形の震源振幅の比は10以内に収まった。一方で2013年から2014年までにフィリピン地域で発生し不適切な自動解を推定した25のイベントにおける震源振幅には手動解の震源振幅の幅より大きい値を持つ波形が見られ、震源振幅の幅は一定に集まらなかった。手動解の震源振幅の幅より大きい値を持つ波形は異常波形に対応しており、震源振幅の比は10以上であった。この結果より、震源振幅の比について10付近にしきい値 (R) を設け、パルス状波形を判別する手法を検討したところ、R=11とすると手動解との震源の距離の差が最小となり、Mwおよび震源メカニズムに大幅な改善が見られた。数値計算より、震源振幅の幅は地震波の放射パターンがゼロとなる方向(ノード)と観測点との間の角度が小さくなる程広がり、観測点密度が増加すると震源振幅の幅が広がる傾向が見られた。そこで、観測点間隔が200~300 km程度であるフィリピン・インドネシア広帯域地震観測網と比べ、間隔が約100 kmである観測点密度の高い日本の広帯域地震観測網F-netの観測記録について、Mwが4~8の範囲で震源振幅を推定したところ、本研究で調べたイベントにおいて、震源振幅はMwに依存せず一定の幅に集まり、ほとんどの波形の震源振幅の比が10程度になる結果が得られた。
4.議論
波形判別法について、R=11としたとき手動解との合いが最も良くなり、本手法が適切な波形の選択を行う上で有効である事が示された。数値計算では観測点密度が高くなると震源振幅の幅が広がる傾向が見られたが、観測点密度の異なるフィリピン・インドネシア広帯域地震観測網およびF-netの観測記録において震源振幅の比はどちらも10程度で一定であった。この結果は震源振幅の幅が観測点密度に依存しない可能性を示しており、その解釈として震源の複雑性や地球内部の不均質構造により地震波の放射パターンが崩れる事で震源振幅の比が10程度になる可能性が指摘できる。本手法は、他の広帯域地震観測網においても異常波形の簡便な判別に有効であると考えられる。
謝辞:本研究には(独)防災科学技術研究所F-netのデータを利用した。
地震・津波被害の迅速な対応には適切なセントロイドモーメントテンソル (CMT) 解を短時間に推定する必要がある。フィリピン・インドネシア地域には地震・津波警報のために広帯域地震観測網が配備され、この波形記録の解析にNakano et al. (GJI, 2008) が開発したSWIFT震源解析システムが用いられており、長周期 (50-100 s) の波形から波形インバージョン法を用いて自動でCMT解(自動解)を決定されている。広帯域地震計に地震波が到達すると、非地震性の長周期のノイズ波形(異常波形)が不定期に発生することが知られている。この波形は地震波形と比べ相対的に振幅が大きく、波形インバージョンによる震源解析に影響を与えるが、この波形を適切に除去あるいは補正する手法は確立されていない。そこで、本研究では長周期地震波動場の特徴を利用して、この異常波形を簡便に短時間で判別する手法の開発を行った。
2.手法
長周期の地震波形の最大振幅について表面波を仮定し、震源までの距離と非弾性による減衰を考慮したものを震源振幅と定義する。CMT解の推定に使用した全波形記録について震源振幅を推定し、モーメントマグニチュード (Mw) と比較することで地震波形と異常波形の振幅の違いを利用した波形の判別法を検討した。また、震源振幅の幅とMwの関係について、その物理的意味を調べるため、フィリピンの観測点配置と格子状に密に置いた観測点配置の場合について合成波形を用いた数値計算を行った。
3.結果
フィリピン・インドネシア地域で2012年に発生した地震について、手動で波形を選択し推定したCMT解(手動解)の震源振幅とMwを比較した。震源振幅は地震波の放射パターンによりばらつくが、手動解において、この幅はMwが変化しても一定であり、イベントごとの震源振幅の最小値(最小震源振幅)と各震源振幅との比(震源振幅の比)を取ると、ほとんどの波形の震源振幅の比は10以内に収まった。一方で2013年から2014年までにフィリピン地域で発生し不適切な自動解を推定した25のイベントにおける震源振幅には手動解の震源振幅の幅より大きい値を持つ波形が見られ、震源振幅の幅は一定に集まらなかった。手動解の震源振幅の幅より大きい値を持つ波形は異常波形に対応しており、震源振幅の比は10以上であった。この結果より、震源振幅の比について10付近にしきい値 (R) を設け、パルス状波形を判別する手法を検討したところ、R=11とすると手動解との震源の距離の差が最小となり、Mwおよび震源メカニズムに大幅な改善が見られた。数値計算より、震源振幅の幅は地震波の放射パターンがゼロとなる方向(ノード)と観測点との間の角度が小さくなる程広がり、観測点密度が増加すると震源振幅の幅が広がる傾向が見られた。そこで、観測点間隔が200~300 km程度であるフィリピン・インドネシア広帯域地震観測網と比べ、間隔が約100 kmである観測点密度の高い日本の広帯域地震観測網F-netの観測記録について、Mwが4~8の範囲で震源振幅を推定したところ、本研究で調べたイベントにおいて、震源振幅はMwに依存せず一定の幅に集まり、ほとんどの波形の震源振幅の比が10程度になる結果が得られた。
4.議論
波形判別法について、R=11としたとき手動解との合いが最も良くなり、本手法が適切な波形の選択を行う上で有効である事が示された。数値計算では観測点密度が高くなると震源振幅の幅が広がる傾向が見られたが、観測点密度の異なるフィリピン・インドネシア広帯域地震観測網およびF-netの観測記録において震源振幅の比はどちらも10程度で一定であった。この結果は震源振幅の幅が観測点密度に依存しない可能性を示しており、その解釈として震源の複雑性や地球内部の不均質構造により地震波の放射パターンが崩れる事で震源振幅の比が10程度になる可能性が指摘できる。本手法は、他の広帯域地震観測網においても異常波形の簡便な判別に有効であると考えられる。
謝辞:本研究には(独)防災科学技術研究所F-netのデータを利用した。