10:30 〜 10:33
[SVC46-P01] 結晶度の変化を伴うマグマ混合過程の赤外線集光変形炉による模擬実験
ポスター講演3分口頭発表枠
キーワード:マグマ混合, 流動場, 結晶化, 粘性率
火山岩・深成岩中には,温度・組成の異なる複数のマグマが地殻内で混合したことを示す様々な組織が観察される.このような組織の再現や混合のメカニズム解明のために,様々な実験的研究が行われてきた.特に実際の岩石を用いた実験では,玄武岩とデイサイトを高温で変形させた実験(Kouchi and Sunagawa, 1982)や,粘性の異なるメルト同士を高温で変形させた実験(De Campos et al., 2008, 2011),珪長質メルトと玄武岩を高温・高圧下で変形させた実験などがある(Laumonier et al., 2014).異なる組成・温度のマグマ同士が接触・混合する際には高温マグマでは結晶化し,低温・高結晶度マグマでは部分溶融が起こると考えられる.すなわち,結晶度に関して端成分マグマはいずれも非平衡な状態にある.しかし,過去にこれらを明示的に意識した実験は行われていない.またマグマの機械的混合には流動が伴い,流動場においては結晶の成長が促進される(Kouchi et al., 1986; Vona and Romano, 2013)が,このような流動に伴う結晶化がマグマの混合にどのような役割を果たすかは明らかにされていない.
そこで,本研究では高温のメルトと低温・高結晶度のマグマが接触・混合する際に起こる結晶化・溶融の効果や,流動に伴う結晶化が混合にどのような影響を与えるかを,赤外線集光変形炉を用いた実験により調べた.本実験では,以下に示す二種類の岩石試料とガラス試料(いずれも直径5㎜の円柱状)を接触させた後,集光加熱し上下から試料をねじり回転変形させた.実験の出発試料には,高温側のメルトとして,無水1気圧下でも比較的低い粘性が保たれるアルカリ岩質のガラス試料を用いた.このガラスは,利尻火山の粗面安山岩(種富溶岩)の粉末試料をシリコニット炉内で1400°Cで2時間加熱し合成した.また,高結晶度マグマの出発物質としては,同じ種富溶岩および雲仙火山のデイサイト(平成溶岩)のコア試料を用いた.雲仙火山デイサイトが,集光炉での加熱により最大限,部分溶融した際のメルトの粘性は,高温側のメルト粘性の約200倍である.実験はホットスポット温度HTが約1100°C, 歪み速度が4.2×10-2 s-1の条件下で行った.実験時間は6,30,60分とした.HT = 1100°Cにおいては,粗面安山岩はリキダス相として斜長石を含む状態であり,1400°Cで全溶融させ急冷したガラスは,1100°Cにおいては,過冷却メルト状態となる.そのため,マグマ混合時の高温側マグマの冷却による結晶化を模擬できる.
まず試料の回転を行わない場合の実験によって,高結晶度マグマとメルトの境界から核形成し,過冷却粗面岩質メルト側に斜長石が晶出することが確認された.また,岩石円柱を出発物質とした高結晶度マグマ側では,時間とともに部分溶融の程度が増していた.回転を行った実験では,高結晶度マグマとして粗面安山岩を用いた実験において,30分以降,部分溶融したマグマがメルト中へブロック状に取り込まれた組織が観察された.また,取り込まれたブロック周辺で,(おそらく不均質核形成の促進による)過冷却メルトの結晶化が著しく,60分の実験ではメルトがほぼ完全に結晶化した.すなわち,高結晶度マグマの部分溶融度が増すにつれて機械的混合が開始し,比較的短時間で混合が進行,そしてそれに伴って結晶化が促進されることが観察された.混合は著しくメルトの結晶化を促進させ高粘性化させるため,流動によるメルト同士の均質化を抑制している可能性もある.一方,高結晶度マグマとしてデイサイトを用いた実験では60分の実験で混合と著しい結晶化が確認されたが,30分まで混合・結晶化が全く観察されなかった.これは高結晶度マグマの部分溶融度に加えて,メルト粘性の比が混合速度を支配している可能性を反映している.以上の結果から,結晶度に関して非平衡状態にあるマグマ混合では,単に組成が異なるだけの液体同士の混合とは異なり,①高結晶度マグマの溶融度の上昇による混合の開始 ②それに促進された高温メルトの結晶化と粘性上昇 ③それによる混合の抑制 のような,結晶度の変化と混合過程の相互作用が,現象を支配している可能性があることが見出された.今後,より詳細な実験と溶融度・結晶度の定量化を行い,混合の速度とメカニズムを明らかにする.
そこで,本研究では高温のメルトと低温・高結晶度のマグマが接触・混合する際に起こる結晶化・溶融の効果や,流動に伴う結晶化が混合にどのような影響を与えるかを,赤外線集光変形炉を用いた実験により調べた.本実験では,以下に示す二種類の岩石試料とガラス試料(いずれも直径5㎜の円柱状)を接触させた後,集光加熱し上下から試料をねじり回転変形させた.実験の出発試料には,高温側のメルトとして,無水1気圧下でも比較的低い粘性が保たれるアルカリ岩質のガラス試料を用いた.このガラスは,利尻火山の粗面安山岩(種富溶岩)の粉末試料をシリコニット炉内で1400°Cで2時間加熱し合成した.また,高結晶度マグマの出発物質としては,同じ種富溶岩および雲仙火山のデイサイト(平成溶岩)のコア試料を用いた.雲仙火山デイサイトが,集光炉での加熱により最大限,部分溶融した際のメルトの粘性は,高温側のメルト粘性の約200倍である.実験はホットスポット温度HTが約1100°C, 歪み速度が4.2×10-2 s-1の条件下で行った.実験時間は6,30,60分とした.HT = 1100°Cにおいては,粗面安山岩はリキダス相として斜長石を含む状態であり,1400°Cで全溶融させ急冷したガラスは,1100°Cにおいては,過冷却メルト状態となる.そのため,マグマ混合時の高温側マグマの冷却による結晶化を模擬できる.
まず試料の回転を行わない場合の実験によって,高結晶度マグマとメルトの境界から核形成し,過冷却粗面岩質メルト側に斜長石が晶出することが確認された.また,岩石円柱を出発物質とした高結晶度マグマ側では,時間とともに部分溶融の程度が増していた.回転を行った実験では,高結晶度マグマとして粗面安山岩を用いた実験において,30分以降,部分溶融したマグマがメルト中へブロック状に取り込まれた組織が観察された.また,取り込まれたブロック周辺で,(おそらく不均質核形成の促進による)過冷却メルトの結晶化が著しく,60分の実験ではメルトがほぼ完全に結晶化した.すなわち,高結晶度マグマの部分溶融度が増すにつれて機械的混合が開始し,比較的短時間で混合が進行,そしてそれに伴って結晶化が促進されることが観察された.混合は著しくメルトの結晶化を促進させ高粘性化させるため,流動によるメルト同士の均質化を抑制している可能性もある.一方,高結晶度マグマとしてデイサイトを用いた実験では60分の実験で混合と著しい結晶化が確認されたが,30分まで混合・結晶化が全く観察されなかった.これは高結晶度マグマの部分溶融度に加えて,メルト粘性の比が混合速度を支配している可能性を反映している.以上の結果から,結晶度に関して非平衡状態にあるマグマ混合では,単に組成が異なるだけの液体同士の混合とは異なり,①高結晶度マグマの溶融度の上昇による混合の開始 ②それに促進された高温メルトの結晶化と粘性上昇 ③それによる混合の抑制 のような,結晶度の変化と混合過程の相互作用が,現象を支配している可能性があることが見出された.今後,より詳細な実験と溶融度・結晶度の定量化を行い,混合の速度とメカニズムを明らかにする.