日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GG 地理学

[H-GG21] 自然資源・環境の利用と管理

2015年5月27日(水) 14:15 〜 16:00 101A (1F)

コンビーナ:*上田 元(東北大学大学院環境科学研究科)、大月 義徳(東北大学大学院理学研究科地学専攻環境地理学講座)、座長:大月 義徳(東北大学大学院理学研究科地学専攻環境地理学講座)、上田 元(東北大学大学院環境科学研究科)

15:00 〜 15:15

[HGG21-04] 大阪府における人為起源二酸化炭素排出インベントリの空間分布の高度化

*森 豊1町村 尚1松井 孝典1小田 知宏2 (1.大阪大学大学院工学研究科、2.NOAA)

キーワード:点源, 線源, 分布源, ボトムアップアプローチ, トップダウンアプローチ

1.序論
 計画的な温室効果ガス排出削減のため,排出量を計測・公表するとともにその推計方法や削減努力を検証するMRV(Measurement, Reporting and Verification)が重要である.現在,各国が化石燃料消費量などの統計から総排出量インベントリを作成する一方で,衛星データ・大気観測とインバージョンモデルを利用した排出源推定も行われており,これらと比較検証可能な高時空間分解能のインベントリの開発が求められている.現在,最高の分解能を実現した例として,アメリカのインディアナポリスにおけるHestia Projectがあり,道路および建物毎に排出量推計が行われている.日本ではEAGrid2010-Japanが1 kmグリッドの分解能をもつが,衛星および大気観測の高密度化に対応するためには,さらに詳細なインベントリが必要となる.そこで本研究では大阪府を対象とし,500 mより精細な可変空間分解能をもつ二酸化炭素排出インベントリMORI-Grid2014 (Multiscale Osaka-Resolving Inventory for Greenhouse gas information and diagnosis)の開発をおこなった.
2.高空間分解能二酸化炭素排出量推計方法
MORI-Grid2014では高分解能化のために排出源を点源,線源,分布源に分類した.点源は火力発電所,廃棄物処理場,航空機(空港),線源は道路交通(主要地方道以上),分布源は道路交通(一般都道府県道以下),製造業,建設・鉱業,農林水産業,業務,住宅の各部門とした.推計方法としては,点源および線源ではボトムアップ法を用い,発電量(火力発電所),廃棄物種別処理量(廃棄物処分場),機種別発着回数(航空機),路線・車種別交通量(道路交通)と各排出原単位を用いて年間二酸化炭素排出量を推計した.点源の位置はGoogle Map上で空中写真判読により煙突の位置から決定し,線源の位置は国土数値情報(道路)に依った.分布源ではトップダウン法を用い,大阪府における部門別年間二酸化炭素排出量を人口(道路交通,民生),業種別就業者数(製造業,建設・鉱業,農林水産業)または全就業者数(業務)で按分して推計した.ここで部門別年間二酸化炭素排出量は,部門・燃料種別消費エネルギーに二酸化炭素排出係数を乗じて求めた.また人口および就業者数には国勢調査の小地域(丁字)人口を用いたが,500 mメッシュよりも大きい小地域人口は500 mメッシュ人口・全産業従業者数に置換し,業種別就業者数については小地域における産業別就業者比率を用いて500 mメッシュ内の値を推計した.なお,推計に用いた基礎データは入手できる最新のものとした結果,統計年は統一されていない.
3.結果と考察
 MORI-Grid2014よる大阪府の年間二酸化炭素総排出量は73.75 Mt-CO2 y-1となり,EAGrid2010-Japanの74.99 Mt-CO2 y-1より1.7 %小さかったが,これは統計年度のちがいによると考えられる.排出源別の排出量推計結果は,点源39.79,線源,5.04,分布源28.92(単位はすべてMt-CO2 y-1)となった.また部門ごとの内訳は,火力発電所26.72,廃棄物処理場12.49,道路交通12.85,航空機0.58,製造業8.33,農林水産業0.05,建設・鉱業0.74,業務8.18,住宅3.81(単位はすべてMt-CO2 y-1)となった.MORI-Grid2014における分布源の空間分解能は平均0.044 km2,最大0.265 km2となった.EAGrid2010-Japanは平均1.059 km2であることから,空間分解能の向上を達成したと言える。
MORI-Grid2014では,排出量の大きい点源(火力発電所と廃棄物処理場)の位置精度を高めた.EAGrid2010-Japanでは点源の位置を事業所の住所で決定しているが,本研究の点源の位置と比較した結果,両者の差は平均168 mであった.これをEAGrid2010-Japanの3次メッシュに変換した場合,点源の位置が異なるメッシュにおける点源の排出量合計は22.68 Mt-CO2 y-1であり,これは全排出量の30.9 %に相当した.