日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG64] 海洋底地球科学

2015年5月28日(木) 14:15 〜 16:00 A05 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)、田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)、石塚 治(産業技術総合研究所活断層火山研究部門)、土岐 知弘(琉球大学理学部)、高橋 成実(海洋研究開発機構地震津波海域観測研究開発センター)、座長:山下 幹也(海洋研究開発機構 地震津波海域観測研究開発センター)、土岐 知弘(琉球大学理学部)

15:45 〜 16:00

[SCG64-36] コスタリカ西方沖の現世底生有孔虫分布と海底環境変動の解明への応用

*内村 仁美1長谷川 四郎2西 弘嗣2 (1.東北大学大学院理学研究科、2.東北大学学術資源研究公開センター総合学術博物館)

キーワード:現世底生有孔虫, 古水深, 削剥型沈み込み帯, コスタリカ西方沖

コスタリカ西方沖には削剥型沈み込み帯である中米海溝が位置し,活発な地殻変動があるという点で地質学的に非常に興味深い地域である.そのため,IODP の研究の一環としてCRISP(Costa Rica Seismogenesis Project)が立ち上がり,削剥型沈み込み帯の直接的・包括的な調査が行われている.また東赤道太平洋地域であるコスタリカ西方沖では表層水として赤道流が流れ込んでいるだけでなく,コスタリカンプールと呼ばれる栄養分の豊富な湧昇流が発達している.これらの事実からコスタリカ西方沖は生物生産の場としても非常に特殊な海域であると言える.
底生有孔虫はカンブリア紀から現在に至るまで汎世界的に海底で繁栄してきた原生生物であり,炭酸カルシウムの殻が化石として豊富に海成堆積物中に保存されることから海底環境変化を捉える指標として用いられてきた.底生有孔虫の化石データから海底の環境変化を導き出すためには,とりもなおさず現世の底生有孔虫の分布データを整備し,それらと化石データを比較する必要がある.しかしながらコスタリカ西方沖では現世底生有孔虫データが非常に少ないという問題があった.
そこでドイツの海洋研究所であるGEOMARが保管する水深54mから5412mのピストンコアトップサンプル(表層から0から2cm)を採取した.本研究ではこれらのサンプルから125μmメッシュ以上の大きさの成体個体の底生有孔虫を拾い出し,同定,カウントをして各種有孔虫指標を求め,現世底生有孔虫群集を求め,現在の水塊構造や地形とどのような関係性があるのか探った.また,コスタリカとは起源の違う表層水を持つニカラグア沖で現世底生有孔虫分布を調べたSmith(1963,1964)と比較し,地域的な差があるか調査した.
 その結果,深度毎に6つの群集変化を見ることができた.浅部からⅠ~Ⅵと分けると,深度毎に以下の特徴が見られた.
群集Ⅰ:深度100m以浅. Uvigerina incilisの多産に特徴づけられ,膠着質も付随した.
群集Ⅱ:深度約100mから500m.U. incilisとともにU. excellensが多産する.またBlizalina bicostataも続いて多く産出し,C.inflatusも産出する.磁器質底生有孔虫が付随し,膠着質底生有孔虫は脆弱なタイプのものが付随する.
群集Ⅲ:深度約500mから1200m.Uvigerina属の中ではU. peregrinaが多産する.付随種はC. oolonaやG. affinisといった内生種,P. ornataやG. subglobosaなどがあり,多様性が高い.
群集Ⅳ:深度約1200mから1500m.Bulimina sp.やC. oolina,G. affinisといった内生種が多く産出する他,Uvigerina属の中ではU. auberianaが産出する.
群集Ⅴ:深度約1500mから2000m.P. complanataやBlizalina属,Cibicidoides属が多く産出する.
群集Ⅵ:深度約3000~4000m.有孔虫の産出は稀となり,放散虫を主とした構成になるが,わずかに産出する底生有孔虫はPullenia bulloidesやNonion sp.といったいわゆる深海性の底生有孔虫の他,膠着質有孔虫が産出する.

この結果,Smith(1963,1964)のデータと比べると,大まかな群集組成は一緒であるものの,B. bicostataの多産域がニカラグア西方沖では100m以浅であるのに対し,コスタリカ西方沖では100m以深であることや,Uvigerina peregrina, Uvigerina auberianaの多産域がニカラグア西方沖よりも下部にあることがわかった.また,IODP Exp.344で見られたSite U1413の化石群集と比較すると,曖昧であった深度毎の古水深変化がより明瞭なものとなり,コア深度から予想される群集よりも少なくとも100mは浅い群集Ⅱの厚い層を間に挟むことがわかった.また,浅い群集Ⅱの層準の上位に現在の水深と妥当である群集を含む層準へと徐々に移り変わっていく過程が群集変化から読み取れることから,全体の構造として浸食されていることが間接的に読み取れた.このように,表層堆積物中の現世底生有孔虫群集の分布は化石群集を理解する上で強力な手がかりとなる.