日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS26] 生物地球化学

2015年5月27日(水) 17:15 〜 18:00 104 (1F)

コンビーナ:*楊 宗興(東京農工大学)、柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、座長:山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)

17:42 〜 17:45

[MIS26-P10] 北海道東部における土壌微生物バイオマスと窒素動態の時系列変化

ポスター講演3分口頭発表枠

*渡辺 恒大1柴田 英昭1舘野 隆之輔2今田 省吾2福澤 加里部1小田 智基3浦川 梨恵子3磯部 一夫3細川 奈々枝4小林 真1稲垣 善之5 (1.北海道大学北方生物圏フィールド科学センター、2.京都大学フィールド科学教育研究センター、3.東京大学大学院農学生命科学研究科、4.北海道大学大学院環境科学院、5.森林総合研究所)

キーワード:窒素循環, 土壌凍結, 凍結融解サイクル, 窒素無機化, 窒素溶脱

【はじめに】
北極や高山帯などの寒冷地域では、冬期の微生物活動が年間の養分循環やその後の生育期の土壌の窒素利用可能性に影響を及ぼすことが示されている。これまでの研究で微生物の多くは0から-10℃の低温環境でも活動可能であることが報告されている。一方、冬期から春季の移行時に生じる凍結融解現象は、微生物やリターの細胞を破壊し、その後の地温上昇は急激な温度変化に弱い微生物の死亡を引き起こす。このように微生物は冬期に窒素シンクとして機能する一方、冬期―春季の移行時には土壌への利用可能な炭素・養分供給源として機能することが報告されている。温帯地域でも季節的な積雪を持つ地域が存在しているが、温帯林生態系において、冬期―春季の養分動態に着目した研究は非常に限られている。北海道東部は、積雪量が少なく、土壌がしばしば凍る地域である。これまでに、この地域では冬期後半に多雪地域と比べて土壌のアンモニウム態窒素生成が高まることが報告されている。この要因として土壌凍結および凍結融解現象が影響していることが示唆されている。しかしながら、環境要因が劇的に変化する冬期から春期の土壌微生物と土壌窒素動態パターンについては明らかにされていない。本研究は、冬期―春季に着目し、土壌微生物と養分動態パターンおよびそれらのパターンと環境要因との関係を解明することを目的とした。

【方法】
調査地は、京都大学北海道研究林標茶区の11林班である。主な植生はミズナラ(Quercus crispula)および下層にはササ(Sasa niponica)が密生している。調査プロットは東西の斜面に各6プロット設置した(計12プロット)。調査時期は2013年10月から2014年9月である。各プロットにおいて、土壌0、5、25cm深に地温センサーを設置した。また5cm深に土壌水分センサーを設置した。土壌はほぼ毎月採取した。特に3月から5月には1週間おきに調査を行った。同時期に、土壌からの窒素溶脱量を評価するため、土壌20、30cm深でイオン交換樹脂の採取/交換を行った。正味窒素無機化を評価するため、シリンダー法による現地培養を行った。埋設したシリンダーは、1~2ヶ月の間隔で回収された。冬期のみ土壌が凍っていたため培養期間は3ヶ月であった。また、冬期は積雪深、凍結深の調査も合わせて行った。採取した0-10cm土壌は、土壌含水率・無機態窒素濃度・微生物バイオマス炭素・窒素濃度・DOC・DON濃度の測定に用いた。シリンダー法による培養土壌は土壌含水率・無機態窒素濃度の測定に用いた。回収したイオン交換樹脂は1M-KCl抽出後に無機態窒素濃度の測定に用いた。

【結果と考察】
 0-10cm深の地温は積雪が増加するにつれて0℃付近でほぼ一定になった。微生物バイオマス炭素・窒素、無機態窒素量は生育期よりも厳冬期にピークを示した。無機態窒素量は厳冬期から冬期後半にかけて減少し、微生物バイオマスは積雪の消失が著しい4月後半に大きな減少を示した。一方、正味窒素無機化・硝化速度は冬期よりも生育期で高い傾向を示した。これらの結果は、冬期と生育期で土壌無機態窒素の生物利用と活性が大きく異なることを示している。特に、冬期には微生物にとって地温が低いためその活性が抑制されるけれど、植物との競争関係がないことから、微生物は窒素シンクとして機能していることが考えられた。冬期の土壌無機態窒素のピーク時期はアンモニウム態窒素の方が硝酸よりも速かった。その後、両無機態窒素、特に硝酸態窒素は急速に減少したが、土壌からの硝酸態窒素の溶脱は認められなかった。さらに10月から3月にかけて菌類/バクテリア比は低下した。また冬期の正味無機態窒素生成量は10月と比べて低下していたことから、土壌の無機態窒素が冬期に従属栄養微生物に取り込まれていることが示唆された。一方で、融雪後に劇的に変化する地温は微生物の死亡を引き起こす大きな要因であることが示唆された。