14:45 〜 15:00
[PPS21-16] 原始太陽系星雲中で成長する火星の混成型原始大気の熱的構造
隕石年代学から, 火星は少なくとも 3 Myr 以内に 0.5 MMars (= 火星質量) にまで成長したことが示唆されている (Dauphas et al., 2011). これは原始太陽系星雲の散逸時間よりも短く,火星の集積の大部分は原始惑星系星雲中で起こったと考えられる。一方,微惑星の衝突速度は, 原始火星が月サイズ (0.1 MMars) 以上になると十分大きくなり, 微惑星から H2O をはじめとする揮発性成分が脱ガスする.したがって集積中の原始火星には星雲ガスおよび脱ガス成分の双方からなる, 混成型原始大気が形成されたと考えられる.
そこで, 本研究では 1 次元放射対流平衡モデルを構築し, 集積期の火星における混成型原始大気の熱的構造について調べた. モデルの概要は以下のとおりである. まず大気は, 上層が星雲ガス由来成分で構成され, 下層が微惑星脱ガス成分で構成される二重大気層からなると仮定した. 星雲ガス成分と脱ガス成分には密度差があるため, 互いに混じらないものとし, これら大気層の境界を組成境界と呼ぶことにする. この組成境界高度が高いほど, 脱ガス大気質量が大きいことを意味する. 脱ガス成分は, H2, H2O, CH4, CO からなり,これら分子種の混合比には, 金属相-シリケイト相-気相間の熱化学平衡を理論的に求めた結果 (Kuramoto, 1997) を適用する. また, 輻射輸送には, H2, He, H2O, CO, CH4 による吸収を考慮する. 大気組成の鉛直分布と断熱減率には H2O の凝結を考慮した. 火星軌道上の星雲ガスの温度と圧力は Kusaka et al. (1970) に従って与えた. 放射対流平衡構造は, 集積加熱率および, 脱ガス成分大気質量の関数として得られる. 集積時間は, 年代学的制約と矛盾のない 1 - 6 Myr とし, 質量集積率は一定とした.
組成境界高度をパラメータに, 脱ガス大気質量に対する温度構造の依存性を調べると, 混成型原始大気の熱的構造には以下の様な特徴が見いだされる. まず星雲ガス成分のみで大気が構成される場合, 集積時間に依らず地表面温度は 700 K を超えないが (Hayashi et al., 1979), 組成境界高度を上昇させ, 脱ガス大気質量を増加させると, 地表面温度も上昇する. これは脱ガス大気成分の平均分子量および平均吸収係数がともに星雲ガスよりも大きいことによる. 今回与えた脱ガス大気組成の場合, 脱ガス大気成分の大気質量が火星質量の約 1% 以上, なおかつ集積時間が 6 Myr 以内ならば, 集積最終段階の火星の地表面温度は, 岩石の融点 ( 1500 Kを仮定) を超える.
また, 原始火星質量に対する脱ガス大気質量の割合を一定として, 原始火星の各成長段階 (0.1 MMars - 1 MMars) における地表面温度を比較した. まず, 脱ガス大気質量が原始火星質量の約 1 % 以上もしくは, 0.001 % 未満である場合, 原始火星質量が大きいほど地表面温度が高くなる. 一方, 脱ガス大気質量が原始火星質量の約 0.001 - 1% の場合には, 原始火星質量が増加するとむしろ地表面温度が低下することがある. このような複雑な振る舞いが生じる原因として, 成長中の原始火星において, 対流圏界面がどちらの大気層の, どの位置に現れるかや, 対流圏界面の相当温位が密接に関係している.
そこで, 本研究では 1 次元放射対流平衡モデルを構築し, 集積期の火星における混成型原始大気の熱的構造について調べた. モデルの概要は以下のとおりである. まず大気は, 上層が星雲ガス由来成分で構成され, 下層が微惑星脱ガス成分で構成される二重大気層からなると仮定した. 星雲ガス成分と脱ガス成分には密度差があるため, 互いに混じらないものとし, これら大気層の境界を組成境界と呼ぶことにする. この組成境界高度が高いほど, 脱ガス大気質量が大きいことを意味する. 脱ガス成分は, H2, H2O, CH4, CO からなり,これら分子種の混合比には, 金属相-シリケイト相-気相間の熱化学平衡を理論的に求めた結果 (Kuramoto, 1997) を適用する. また, 輻射輸送には, H2, He, H2O, CO, CH4 による吸収を考慮する. 大気組成の鉛直分布と断熱減率には H2O の凝結を考慮した. 火星軌道上の星雲ガスの温度と圧力は Kusaka et al. (1970) に従って与えた. 放射対流平衡構造は, 集積加熱率および, 脱ガス成分大気質量の関数として得られる. 集積時間は, 年代学的制約と矛盾のない 1 - 6 Myr とし, 質量集積率は一定とした.
組成境界高度をパラメータに, 脱ガス大気質量に対する温度構造の依存性を調べると, 混成型原始大気の熱的構造には以下の様な特徴が見いだされる. まず星雲ガス成分のみで大気が構成される場合, 集積時間に依らず地表面温度は 700 K を超えないが (Hayashi et al., 1979), 組成境界高度を上昇させ, 脱ガス大気質量を増加させると, 地表面温度も上昇する. これは脱ガス大気成分の平均分子量および平均吸収係数がともに星雲ガスよりも大きいことによる. 今回与えた脱ガス大気組成の場合, 脱ガス大気成分の大気質量が火星質量の約 1% 以上, なおかつ集積時間が 6 Myr 以内ならば, 集積最終段階の火星の地表面温度は, 岩石の融点 ( 1500 Kを仮定) を超える.
また, 原始火星質量に対する脱ガス大気質量の割合を一定として, 原始火星の各成長段階 (0.1 MMars - 1 MMars) における地表面温度を比較した. まず, 脱ガス大気質量が原始火星質量の約 1 % 以上もしくは, 0.001 % 未満である場合, 原始火星質量が大きいほど地表面温度が高くなる. 一方, 脱ガス大気質量が原始火星質量の約 0.001 - 1% の場合には, 原始火星質量が増加するとむしろ地表面温度が低下することがある. このような複雑な振る舞いが生じる原因として, 成長中の原始火星において, 対流圏界面がどちらの大気層の, どの位置に現れるかや, 対流圏界面の相当温位が密接に関係している.