日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

インターナショナルセッション(ポスター発表)

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GG 地理学

[H-GG01] International comparison of landscape appreciation

2015年5月27日(水) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*Christoph Rupprecht(Griffith School of Environment, Griffith University)、高瀬 唯(千葉大学大学院園芸学研究科)、古谷 勝則(千葉大学大学院園芸学研究科)

18:15 〜 19:30

[HGG01-P05] 森林美学の日本への受容 ?異なる国,異なる植生に適用した技術体系?

*清水 裕子1伊藤 精晤1 (1.特定非営利活動法人 森林風致計画研究所)

キーワード:森林美学, 明治神宮林, 本郷高徳, ハインリッヒ・フォン・ザーリッシュ, 明治神宮内苑林苑ノ計画

森林美学の日本への受容 ?異なる国,異なる植生に適用した技術体系?

1. 研究の背景と目的
 神宮林は,都心の広大な緑地として大変貴重な存在である。明治神宮内苑の森林計画は,計画当時,ドイツ留学の際に森林美学に関与した林学者が多く関与しているとの事だが(今泉2013),林苑計画に具多的にどのように反映したか,については未だ詳細に知られていない。
 本研究では,その具体的な施業の部分に焦点を当て,両者の類似点と相違点を明らかにし,明治神宮林造営における森林美学の影響について考察する。

2.研究資料と方法
 2-1 研究資料とその概要
 林苑計画は明治神宮叢書「明治神宮御境内林苑計画」を,森林美学は第2版の英訳版である「Forest Aesthetics(Cook
2008)」を資料に採用した。
 明治神宮林苑計画(本郷 1921)は,大正4年の林況の付図とともに計画が完了し,大正11年に計画者の本郷高徳によって提出されたものである。総説,第1章林苑の設計,第2章林苑計画の実施,第3章林苑全体に通じる将来の保護及び管理で構成されている。本稿では総説,第1章林苑の設計を取り上げる。
 森林美学の構成は,第1篇森林美学の基礎と第2編の応用となっている。本書で林苑計画の計画段階に関連する構成箇所は,第2篇であり,セクションAの第1章から第9章(森林造成と森林経済),セクションBの一部(森林の装飾)が該当する。本稿ではセクションAのみ取り上げる(表-2)。

 2-2 研究方法
 林苑計画の総説と設計から,各節の計画段階によって生じる内容の項目を抽出し,この項目に対応した森林美学の記述を抽出し,林苑計画に書かれた内容の項目を森林美学の内容に対照させた表-1を作成し,相似点,相違点を明らかにした上で,林苑計画への森林美学の影響を考察する。


3.結果と考察
 林苑計画の目次中,「節- section」に該当する構成は林苑造成の過程を示しており,森林美学,応用編A森林造成と森林経済の章に該当する構成とほとんど一致した(4)。
 また,「節」ごとに,林苑計画と森林美学それぞれに対応する「項目」(5)の内容を,類似あるいは相違するかによる判定を行った結果,類似する項目が22,相違する項目が13であった。それらの項目を分類すると,相違は場所と目的についての記載で,類似点は風致,利用,既存林,敷地条件の尊重,多様な森林造成,森林の持続,老樹,池泉,流れ,森林配置の景観ポイントに関する尊重やその具体的な方策であった。特に林苑計画は,森厳なシイ・カシ・クスによって構成される林分を目標としているが,造営当初の林分を活かし,アカマツと落葉広葉樹雑木林の森林に針葉樹の植林を加味している点など,元々の林木の活かし方,そしてそれを美の育成とした考え方など,森林造成の全面に森林美学の影響が見られることが明らかであった。


引用・参考文献
1)今泉宣子(2013):明治神宮,新潮社,pp.351
2)本郷高徳(1921):明治神宮内苑林苑ノ計画一般及将来施業の方法,明治神宮叢書第13巻造営編(2)
3)Heinrich von Salisch:Forest Aesthetics,Walter L.Cook
Jr.他訳(2008),Forest History Society, pp.346
4)伊藤精晤・清水裕子(2014):明治神宮林苑計画における森林美学の影響,平成26年度に本造園学会中部支部大会研究発表要旨集,39-40