18:15 〜 19:30
[HRE28-P03] 鉛直断層によるCO2浅部移行に伴う地球物理観測量の変動予測
キーワード:貯留層シミュレーション, 地球物理モニタリング, 潜在リスク, CO2地中貯留
産総研では、地下の流体流動シミュレーション(以下、貯留層シミュレーション)によって計算される圧力、温度、塩分濃度、CO2飽和度等の変化を、地球物理観測量の変化に変換するための計算プログラムの開発・整備を行っている。この物理量変換プログラムのことを地球物理ポストプロセッサと呼んでいるが、これまでに微小重力、自然電位、地表変位のデータや電気・電磁気探査、地震探査によって得られるデータに対応するポストプロセッサを開発している。
CO2地中貯留の分野において、貯留層シミュレーションとリンクした地球物理ポストプロセッサ計算は、以下のような目的で使用できるものと考えている。
① 適切なモニタリング・システムの選択・配置の検討:想定した地下モデル及び潜在リスクに対して、地表における物理探査データの分布及び変化を予測し、これを測定するための適切なモニタリング手法の選択とその配置などを検討する。
② 地下状態の迅速な把握:実測で得られたモニタリング・データを、計算により予測された物理探査データの変化と比較することによって、圧入したCO2が予測通り貯留されているか確かめる。
③ 予測とは異なる実測値が得られた場合、実測値を説明するよう地下モデルを改良し(ヒストリーマッチング)、CO2の挙動も含めて差異が生じた原因を究明する。また、予測とは異なる挙動が、潜在リスクに起因する可能性が考えられる場合には、その監視のための効果的なモニタリング手法の選択とその配置などを検討する。
ここでは、上記の①の観点で行った、潜在リスクを想定した貯留層シミュレーションと、その結果に重力、地表変位および地震波(反射法)のポストプロセッサを適用した計算例を報告する。
貯留層シミュレーションは、米国ユタ州のGordon Creek地域の概念モデルにもとづいているが、それをかなり簡単化したもので、地表標高を1800 mRSLとして、Entrada砂岩層(z=200~400 mRSL)を圧入貯留層、その上位のCurtis層を遮蔽層と設定し、CO2を年間100万トンで圧入した場合の地下におけるCO2の流動を計算した。断層のない場合と、潜在リスクとして仮想の鉛直断層を設定した場合の2つのケースについてシミュレーションを行った。断層ゾーンは(圧入点をx=y=0 mとして)x=200~300 m、y=300~800 m、z=200~1200 mRSLの範囲に設定し、CO2圧入開始後4年経過した時点で開口するとした。断層開口後、全圧入量のうち約7%が断層を上昇し浅部帯水層(上面がz=1300 mRSL)へ流れ込む。浅部帯水層へ上昇したCO2は半分以上が水に溶解しているが、圧力が低下するためCO2ガスの密度は、圧入深度で約700 kg/m3であったものが200 kg/m3以下まで小さくなる。
地表の重力低下は、断層なしの場合、圧入開始後10年の時点で最大10 microGal程度であるが、(4年目に)断層が開口した場合は、浅部帯水層へ上昇した低密度のCO2ガスにより、断層直上を中心に40 microGal程度となる。断層開口後3年程度で、断層なしと断層開口の場合の重力低下量の差は、比較的広い範囲で10 microGal以上となる。
地表変位については、断層なしの場合、貯留層での圧力増加10 bars前後に対応して圧入開始後10年で最大30 mm程度となる(各岩石種の体積弾性率、剛性率は2GPa前後を仮定)。断層開口の場合は、圧入開始後10年になると浅部帯水層へ上昇したCO2のうちガス量は~20万トンになり、浮力効果も加わることから断層直上で隆起量は48 mmとなる。断層面付近では、Joule-Thomson冷却により温度低下域が現れ、これは若干隆起を抑制する。
反射法の応答については、断層直上を横切る測線では、断層開口後2年程度で浅部帯水層に上昇したCO2に対応するイベントが明瞭になる。ただし、圧入井付近を横切る(x方向の)測線では、断層開口後5年以上経過し浅部帯水層内でCO2ガスが十分に拡大する時点まで反射イベントは現れない。
繰り返し反射法は、潜在リスクに対処する上でも基本的なモニタリング手法であるが、3次元の反射法をしばしば実施するのは費用の面から難しいと思われる。今回のケースは、特に重力観測について、1、2か所での(超伝導重力計を用いた)高精度の連続観測が反射法を補完する上で有効であることを示している。今後、様々なケースについて、地表変位、自然電位、比抵抗などを含め反射法を補完する物理探査手法によるモニタリングについて体系的な検討を進めたいと考えている。
謝辞:本研究は,経済産業省からの委託研究「二酸化炭素回収・貯蔵安全性評価技術開発事業(弾性波探査を補完するCO2 挙動評価技術の開発)」の一部として実施した。
CO2地中貯留の分野において、貯留層シミュレーションとリンクした地球物理ポストプロセッサ計算は、以下のような目的で使用できるものと考えている。
① 適切なモニタリング・システムの選択・配置の検討:想定した地下モデル及び潜在リスクに対して、地表における物理探査データの分布及び変化を予測し、これを測定するための適切なモニタリング手法の選択とその配置などを検討する。
② 地下状態の迅速な把握:実測で得られたモニタリング・データを、計算により予測された物理探査データの変化と比較することによって、圧入したCO2が予測通り貯留されているか確かめる。
③ 予測とは異なる実測値が得られた場合、実測値を説明するよう地下モデルを改良し(ヒストリーマッチング)、CO2の挙動も含めて差異が生じた原因を究明する。また、予測とは異なる挙動が、潜在リスクに起因する可能性が考えられる場合には、その監視のための効果的なモニタリング手法の選択とその配置などを検討する。
ここでは、上記の①の観点で行った、潜在リスクを想定した貯留層シミュレーションと、その結果に重力、地表変位および地震波(反射法)のポストプロセッサを適用した計算例を報告する。
貯留層シミュレーションは、米国ユタ州のGordon Creek地域の概念モデルにもとづいているが、それをかなり簡単化したもので、地表標高を1800 mRSLとして、Entrada砂岩層(z=200~400 mRSL)を圧入貯留層、その上位のCurtis層を遮蔽層と設定し、CO2を年間100万トンで圧入した場合の地下におけるCO2の流動を計算した。断層のない場合と、潜在リスクとして仮想の鉛直断層を設定した場合の2つのケースについてシミュレーションを行った。断層ゾーンは(圧入点をx=y=0 mとして)x=200~300 m、y=300~800 m、z=200~1200 mRSLの範囲に設定し、CO2圧入開始後4年経過した時点で開口するとした。断層開口後、全圧入量のうち約7%が断層を上昇し浅部帯水層(上面がz=1300 mRSL)へ流れ込む。浅部帯水層へ上昇したCO2は半分以上が水に溶解しているが、圧力が低下するためCO2ガスの密度は、圧入深度で約700 kg/m3であったものが200 kg/m3以下まで小さくなる。
地表の重力低下は、断層なしの場合、圧入開始後10年の時点で最大10 microGal程度であるが、(4年目に)断層が開口した場合は、浅部帯水層へ上昇した低密度のCO2ガスにより、断層直上を中心に40 microGal程度となる。断層開口後3年程度で、断層なしと断層開口の場合の重力低下量の差は、比較的広い範囲で10 microGal以上となる。
地表変位については、断層なしの場合、貯留層での圧力増加10 bars前後に対応して圧入開始後10年で最大30 mm程度となる(各岩石種の体積弾性率、剛性率は2GPa前後を仮定)。断層開口の場合は、圧入開始後10年になると浅部帯水層へ上昇したCO2のうちガス量は~20万トンになり、浮力効果も加わることから断層直上で隆起量は48 mmとなる。断層面付近では、Joule-Thomson冷却により温度低下域が現れ、これは若干隆起を抑制する。
反射法の応答については、断層直上を横切る測線では、断層開口後2年程度で浅部帯水層に上昇したCO2に対応するイベントが明瞭になる。ただし、圧入井付近を横切る(x方向の)測線では、断層開口後5年以上経過し浅部帯水層内でCO2ガスが十分に拡大する時点まで反射イベントは現れない。
繰り返し反射法は、潜在リスクに対処する上でも基本的なモニタリング手法であるが、3次元の反射法をしばしば実施するのは費用の面から難しいと思われる。今回のケースは、特に重力観測について、1、2か所での(超伝導重力計を用いた)高精度の連続観測が反射法を補完する上で有効であることを示している。今後、様々なケースについて、地表変位、自然電位、比抵抗などを含め反射法を補完する物理探査手法によるモニタリングについて体系的な検討を進めたいと考えている。
謝辞:本研究は,経済産業省からの委託研究「二酸化炭素回収・貯蔵安全性評価技術開発事業(弾性波探査を補完するCO2 挙動評価技術の開発)」の一部として実施した。