日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP42] 鉱物の物理化学

2015年5月26日(火) 16:15 〜 18:00 102A (1F)

コンビーナ:*興野 純(筑波大学大学院生命環境科学研究科地球進化科学専攻)、大藤 弘明(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、座長:大藤 弘明(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)

17:00 〜 17:15

[SMP42-11] 高圧Raman分光法によるハイドロガーネット,katoite Ca3Al2(O4H4)3の構造相転移に関する研究

*加藤 正人1興野 純2 (1.筑波大学大学院生命環境科学研究科地球科学専攻、2.筑波大学大学院生命環境科学研究科地球進化科学専攻)

キーワード:katoite, 高圧Raman分光法, 構造相転移

【はじめに】 Garnetは上部マントルを構成する鉱物の一つであり,少量のOH基と結合し水和物を形成することからNominally Anhydrous Minerals (NAMs)と呼ばれる.OH基を構造内部に有するNAMsによって地球内部の岩石学的プロセスは大きく左右されている可能性が高いため,代表的なNAMsであるhydrogarnetへの関心が近年高まっている.SiO4四面体席内にH原子を取り込むことにより,grossular Ca3Al2(SiO4)3とkatoite Ca3Al2(O4H4)3は,(SiO4)4-が(O4H4)4-と一対一で置換し完全固溶体を形成する.Lager et al. (2002)は,単結晶X線回折法を用いてkatoiteの構造が5 GPa以上の高圧条件下で立方晶系の空間群Ia3dからI-43dに構造相転移することを提唱したが,未だ議論の余地が存在する.NAMsの下部地殻・上部マントルにおける挙動を知るため,本研究では高圧Raman分光法を用いて構造内の分子振動を測定し,因子群解析によってkatoiteの高圧相転移を検証した.
【実験方法】 測定試料はCa(OH)2とAl2O3?xH2Oを出発物質とし,150℃,7日間の条件で水熱合成した白色粉末を用いた.生成物は粉末X線回折法によって相同定を行い,主成分がkatoiteであることを確認した.高圧Raman分光法では,圧力発生装置にダイヤモンドアンビルセル(DAC),圧力媒体にMet-Et-H2O,圧力決定にルビー蛍光法を使用し,10 GPaまで測定を行った.
【結果】 1.0 GPaにおいて,格子振動による明瞭な2つのバンドが332と537 cm-1に, OH伸縮振動による単一のバンドが3652 cm-1に観察された.ピーク位置とピーク形状は常温常圧条件のスペクトルと良い一致を示した.格子振動の振動モードは,低波数側と高波数側がそれぞれEg + F2g,A1g + F2gに帰属され, OH伸縮振動はA1g + 2Eg+ 3F2gに帰属された.圧力増加に伴って,格子振動の振動モードは正の圧力依存性,OH伸縮振動は負の圧力依存性を示した.OH伸縮振動の負の圧力依存性は,圧力によってO4H4四面体が収縮し四面体内の水素結合距離が短くなり,結合力が強くなるためと考えられる.さらに,OH伸縮振動のピーク位置の圧力変化量は5 GPa付近から増加する傾向を示した.また,格子振動によるバンドの半値幅は6 GPaから増加率が変化した.
【考察】 Katoiteの構造は,5 GPa以上で立方晶系の空間群Ia3d (点群Oh)からからI-43d (点群Td)に構造相転移するとされている (Lager et al., 2002).しかし,OhからTdへの対称性変化では振動モードは分裂しない.一方,Ohから正方晶系のD4hへの対称性変化では,EgモードはA1g + B1g,F2gモードはB2g + Egに分裂する.つまり,格子振動のEg + F2g,A1g + F2gバンドの半値幅が6 GPaから大きく増加することは,振動モードが分裂していることを示しており,OhからD4hへの対称性の変化を示唆している.したがって,katoiteでは圧力増加に伴いO4H4四面体内の水素結合が強まり,6 GPa付近でO4H4四面体の対称性がOhからD4hに変化すると考えられる.本研究の結果から,katoiteの結晶構造は,約6 GPaで立方晶系から正方晶系に相転移する可能性が示された.