日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

インターナショナルセッション(ポスター発表)

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG10] Earth and Planetary satellite observation project Part II

2016年5月23日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*沖 理子(宇宙航空研究開発機構)、早坂 忠裕(東北大学大学院理学研究科)、佐藤 薫(東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻)、佐藤 正樹(東京大学大気海洋研究所)、本多 嘉明(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、奈佐原 顕郎(筑波大学生命環境系)、中島 孝(東海大学情報理工学部情報科学科)、沖 大幹(東京大学生産技術研究所)、松永 恒雄(国立環境研究所環境計測研究センター)、高薮 縁(東京大学 大気海洋研究所)、村上 浩(宇宙航空研究開発機構地球観測研究センター)、岡本 創(九州大学)、Gail Skofronick Jackson(NASA Goddard Space Flight Center)、Paul Chang(NOAA College Park)、Crisp David(Jet Propulsion Laboratory, California Institute of Technology)

17:15 〜 18:30

[ACG10-P04] Additional information of precipitating cloud life stages for Improvement of rain rate data estimated from Himawari-8

*広瀬 民志1樋口 篤志1妻鹿 友昭2牛尾 知雄2山本 宗尚3重 尚一3濱田 篤4 (1.千葉大学環境リモートセンシング研究センター、2.大阪大学工学研究科、3.京都大学理学研究科、4.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:Himawari-8, GPM, precipitation, GSMaP

広域・高時間分解能の降水観測データを得るために,マイクロ波放射計搭載衛星による高精度降雨観測は非常に重要である.しかしマイクロ波衛星は台数が限られているため短時間で全球をカバーすることはできない.そのようなマイクロ波観測の利用できない場所では,静止気象衛星から得られた高時間分解能の降水関連情報を用いることで降雨推定精度の向上が期待できる.Kühnlein et al. (2014) はMETEOSAT第二世代の静止気象衛星(MSG-2)に搭載されている10チャンネルの観測輝度情報を,Random Forest (RF) と呼ばれる統計的手法によって地上レーダの降雨観測と関連付けることで,静止気象衛星と同様の高時間分解能で降雨推定が可能になるとしている.この手法はまず静止気象衛星観測からランダムにいくつかのチャンネルを抽出し,降雨・非降雨を分類するための場合分けのツリーを作成する.このツリーを量産し,最終的に各ツリーの判定結果の多数決によって降雨域が決定される.また特筆すべきは降雨域だけでなく降雨タイプの判別や降雨強度の推定も可能であるという点である.本研究ではこのRF手法を現在世界唯一の第3世代静止気象衛星ひまわり8号の10分毎全球マルチチャンネル観測に適用することによって,マイクロ波降雨観測網を補うことのできる高時間分解能の降雨推定プロダクトを作成した.さらにRF手法の機械学習に用いる降雨の真値を,先行研究で用いられていた地上観測からGPMの衛星降雨観測に置き換えることによって,ひまわり8号の観測域全体での降雨推定を可能にした.
ひまわり8号降雨プロダクトの精度検証のために,推定降雨域のスレットスコアを気象庁合成レーダの降雨観測を真値として計算した結果,可視チャンネルの使える日中では0.5以上と非常に高く夜間でも0.42以上でマイクロ波観測に匹敵する精度が得られた.またひまわり8号から新たに追加されたチャンネルが降雨推定に対してどの程度有効であるのかを調べたところ,降雨判定に関しては 観測波長0.46μmの青色可視チャンネルが最も貢献しており,降雨タイプの判別には雲相判別のための1.6μmの近赤外チャンネルが最も寄与率が高いことがわかった.また降雨強度の二乗平均誤差は1.3 mm/hour であったが,8.0 mm/hourを超えるような強い雨に対しては過小評価傾向がみられた.これはRF手法によって推定された降雨強度がひまわり8号輝度温度観測から得られた雲頂温度(高度)情報に強く依存するため,降雨を伴わない薄い巻雲と降雨を伴う厚い対流雲を十分に分離できていないことが原因であると考えられる.この問題に対処するため,ひまわり8号の高時間分解能観測から得られた降水雲の時間変化情報を取り込むことで,対流性降雨の推定精度をさらに向上させる試みを行った.まずひまわり8号の全球10分毎観測から降水雲の移動ベクトルを計算する.次にこの移動ベクトルを元に降水雲の軌道を追跡し,そこから得られた過去1時間の間の降水雲の輝度温度変化の情報をRFに取り込むことで,降水雲の発達段階の情報を含むより精度の高い降雨推定プロダクトを作成する.当日は改良後のひまわり8号降雨プロダクトによる日本付近での事例解析結果についても発表する.
本研究で使用したひまわり8号観測データは全て文部科学省特別教育研究経費プロジェクト「地球気候系の診断に関わるバーチャルラボラトリーの形成」の一環として作成され,千葉大学環境リモートセンシング研究センターが公開するものである.降雨観測の真値として気象庁合成レーダの換算降雨強度とGPM主衛星のKuバンド降雨レーダによる地上降水強度を用いた.