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[ACG15-P06] 西表島網取湾および崎山湾における造礁サンゴ分布に関わる土粒子特性について
キーワード:造礁サンゴ、網取湾、崎山湾、土粒子、粒子追跡解析、SPSS
網取湾および崎山湾は、沖縄県西表島の北西部に位置する湾である。2つの湾には、様々な自然環境が存在している。また、現在、両湾周辺には島民が居住しておらず、さらに湾へ続く陸路も整備されていないため、人為的攪乱が最小限に留められている。それ故、両湾には自然状態の豊かなサンゴ礁生態系が残されており、1983年には崎山湾が自然環境保全地域に指定され、2015年には網取湾にも地域が拡張されている。
網取・崎山両湾には、多種多様な造礁サンゴが生息している。造礁サンゴの分布は、周囲の物理環境によって影響される(Shimokawa et al. 2014)。造礁サンゴ分布へ影響を及ぼす物理的要素のうち、河川から流出する土粒子は、海水の透明度を低下させることで、褐虫藻の光合成を阻害する。また、サンゴの体表に降り積もることで、サンゴの軟体組織の損傷や代謝不全を引き起こす(山里,1991)。
本研究は、両湾内における陸域由来の土粒子の挙動とそれらの造礁サンゴ分布への影響を明らかにすることを目指している。そのため、まず土粒子の挙動について、数値シミュレーションを使用して解析する。本研究では、海洋モデルによって計算した両湾の流動場に、土粒子に見立てたトレーサーを放出する粒子追跡解析と呼ばれる手法を用いる(村上ほか,2013)。しかし、この手法のみでは、現地における観測的な裏付けが弱い。そのため、シミュレーション結果の観測的裏付けを得ることを目的として、SPSS(content of Suspended Particles in Sea Sediment)のための現地観測を行い、2つの対応関係を調べた。なお、SPSSは、海底の底質サンプルと透明な水の混合物の透視度から、底質中に含まれる陸域由来の土粒子量を算出する手法で、サンゴに影響を与える土粒子量の指標として用いられている(大見謝,2003)。
2013年7月、2014年10月、2015年8月の現地調査の結果、網取湾においては、湾奥部から東側リーフ湾央部にかけて、SPSS値が大きくなる傾向が見られた。一方、崎山湾においては、湾奥北東部で高い値、外洋に接するリーフエッジ付近で低い値を示した。また、網取湾において、SPSS値と数値シミュレーションによって得られた土粒子量を比較した結果、いずれの時期においても比例関係にあり、数値シミュレーションによる土粒子量がサンゴに影響を与える土粒子量の指標として妥当であることを示した。発表では、上記の結果の詳細およびそれらのサンゴ分布との関係について示す予定である。
参考文献:
Shimokawa, S., T. Murakami, A. Ukai, H. Kohno, A. Mizutani and K. Nakase, 2014, Relationship between coral distributions and physical variables in Amitori Bay, Iriomote Island, Japan,J. Geophys. Res.-Oceans, 119, 8336-8356 (doi:10.1002/2014JC010307).
山里 清,1991,サンゴの生物学,東京大学出版会,pp.136-138
村上智一・鵜飼亮行・野口幸太・河野裕美・水谷 晃・下川信也・中瀬浩太・吉野 純,2012,西表島網取湾における土砂輸送の粒子追跡解析,土木学会論文集B3(海洋開発),69,928- 933.
大見謝辰男,2003,SPSS簡易測定法とその解説,沖縄衛生環境研究所報,37,99-104
網取・崎山両湾には、多種多様な造礁サンゴが生息している。造礁サンゴの分布は、周囲の物理環境によって影響される(Shimokawa et al. 2014)。造礁サンゴ分布へ影響を及ぼす物理的要素のうち、河川から流出する土粒子は、海水の透明度を低下させることで、褐虫藻の光合成を阻害する。また、サンゴの体表に降り積もることで、サンゴの軟体組織の損傷や代謝不全を引き起こす(山里,1991)。
本研究は、両湾内における陸域由来の土粒子の挙動とそれらの造礁サンゴ分布への影響を明らかにすることを目指している。そのため、まず土粒子の挙動について、数値シミュレーションを使用して解析する。本研究では、海洋モデルによって計算した両湾の流動場に、土粒子に見立てたトレーサーを放出する粒子追跡解析と呼ばれる手法を用いる(村上ほか,2013)。しかし、この手法のみでは、現地における観測的な裏付けが弱い。そのため、シミュレーション結果の観測的裏付けを得ることを目的として、SPSS(content of Suspended Particles in Sea Sediment)のための現地観測を行い、2つの対応関係を調べた。なお、SPSSは、海底の底質サンプルと透明な水の混合物の透視度から、底質中に含まれる陸域由来の土粒子量を算出する手法で、サンゴに影響を与える土粒子量の指標として用いられている(大見謝,2003)。
2013年7月、2014年10月、2015年8月の現地調査の結果、網取湾においては、湾奥部から東側リーフ湾央部にかけて、SPSS値が大きくなる傾向が見られた。一方、崎山湾においては、湾奥北東部で高い値、外洋に接するリーフエッジ付近で低い値を示した。また、網取湾において、SPSS値と数値シミュレーションによって得られた土粒子量を比較した結果、いずれの時期においても比例関係にあり、数値シミュレーションによる土粒子量がサンゴに影響を与える土粒子量の指標として妥当であることを示した。発表では、上記の結果の詳細およびそれらのサンゴ分布との関係について示す予定である。
参考文献:
Shimokawa, S., T. Murakami, A. Ukai, H. Kohno, A. Mizutani and K. Nakase, 2014, Relationship between coral distributions and physical variables in Amitori Bay, Iriomote Island, Japan,J. Geophys. Res.-Oceans, 119, 8336-8356 (doi:10.1002/2014JC010307).
山里 清,1991,サンゴの生物学,東京大学出版会,pp.136-138
村上智一・鵜飼亮行・野口幸太・河野裕美・水谷 晃・下川信也・中瀬浩太・吉野 純,2012,西表島網取湾における土砂輸送の粒子追跡解析,土木学会論文集B3(海洋開発),69,928- 933.
大見謝辰男,2003,SPSS簡易測定法とその解説,沖縄衛生環境研究所報,37,99-104