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[ACG22-11] 衛星データフュージョンとVI-Ts法によるナミビア季節湿地における高時空間分解能の蒸発散量推定
キーワード:データベースミクセル分解法、VI-Ts法、季節湿地
蒸発散量の時空間分布を高い分解能で把握することは、植生動態の把握や農業管理などの様々な応用において重要である。とくに、土地被覆・土地利用の変化をはじめとする人間活動が、地域スケールで水環境にどう影響するかを考える場合には、蒸発散量を数十〜数百mスケールで微細に表現することが望ましい。しかし、これまでの陸面モデルや衛星リモートセンシングによる蒸発散量の推定は、空間分解能が数十〜数百kmに及ぶものが多く、地域スケールの空間不均一性を表現するには必ずしも十分ではなかった。そこで本研究では、アフリカ・ナミビア共和国北中部の季節湿地を対象に、3種類の衛星データ (AMSRシリーズ、MODIS、Landsat ETM+) をベースとした高時空間分解能の蒸発散量推定手法の開発を行った。 本手法は、空間的に不均一である当該季節湿地からの蒸発散量を表現するため、蒸発散のソースを、植生を含む表面水と、土壌の2つに分けてそれぞれ評価した。アルゴリズムは大きく2段階で構成した。 1) 各衛星データから計算した水指数をデータベースミクセル分解法 (Mizuochi et al., 2014) でデータフュージョンし、30 m分解能、日毎の湛水モニタリングを実現した。 2) これにMODISの日射プロダクトと地表面温度プロダクトを用いてVI-Ts法を適用し、30 m分解能で各週ごとの蒸発散量の推定を行った。VI-Ts法はもともと、植生指数 (VI) と地表面温度 (Ts) の散布図から、気温と、土壌の理論上の最高温度を求める手法であるが、本研究ではこれを水指数 (MNDWI) とTsに対して適用することで、表面水と土壌からの蒸発散量をそれぞれサブピクセルスケール (30 m以下) で記述することを可能にした。具体的には、まず土壌からの蒸発をVI-Ts法と放射・熱収支式から求め、次に表面水からの蒸発散量を補完関係式とJarvis型コンダクタンスモデルに基づいて求め、最後にそれらをピクセル中に占める表面水の割合 (WF) で重み付け平均して、各ピクセルにおける蒸発散量とした。 ナミビア北中部の3箇所のテストサイト (それぞれ5.3 km×5.3 kmの範囲) において、本手法によって2003年から2013年までの蒸発散の空間分布と時系列変動を求め、結果を現地フラックス観測値、およびPenman-Monteith式に基づくMODISの蒸発散量プロダクト(MOD16)と比較した。また、有効エネルギーQ (潜熱フラックスと顕熱フラックスの和) 、Qに占める潜熱フラックスの割合EF、水域からの潜熱の寄与WC、およびWFを比較することで、季節湿地の蒸発散特性を調べた。 推定された蒸発散量は、フラックス観測値におおむね近く、また乾季・雨季の季節変化もよく表現できていた。また、Q, EF, WC, WFの比較により, 季節湿地においては、有効エネルギーがほぼ潜熱輸送に使われており、かつ、土壌ではなく表面水からの蒸発が支配的であることが確認できた。MOD16の空間分解能 (1km) と比べ、高い空間分解能 (30 m) での推定が可能になったことで、数十〜数百mスケールの季節湿地において高い蒸発散が生じていることが確認できた。ただし、MOD16の時系列推定値と比べ、本手法の推定値は全体的に過大評価であり、更なる検証やアルゴリズムの改良が必要であることがわかった。 本手法により、季節湿地に代表される時空間的不均一性の高い地表面からの蒸発散量の推定が可能となった。開発された手法は、世界の他地域においても、地域スケールの詳細な蒸発散量を調べる上で有用と考えられる。今後、VI-Ts法やJarvis型コンダクタンスモデルに与えるパラメータを土地利用シナリオごとに変化させることによって、人為起源の土地利用変化が、蒸発散量にどのような影響を与えるのかについても評価を行っていきたい。