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[ACG23-08] 浜中町のホッキガイ (Pseudocardium sachalinense)の安定同位体分析を用いた湿原と沿岸海域のつながりの解明
キーワード:ホッキガイ、炭素、窒素、安定同位体、有機物、湿原
北海道浜中町の沿岸水域には、懸濁物濾過食の一次消費者ホッキガイPseudocardium sachalinenseが植物プランクトン、底生微細藻類やデトリタスを餌にして生息しており、地域の漁業を支える水産資源として重要視されている。本研究では、2015年4月から9月にかけて、同町沿岸域において、ホッキガイ(閉殻筋と胃内容物)や海洋懸濁有機物、底質有機物、河川懸濁有機物や河川土壌中の窒素・炭素安定同位体比(δ13C, δ15N)と炭素・窒素比(C/N比)を測定し、水温、塩分、クロロフィルa、栄養塩といった物理・化学パラメータの取得・解析に基づき、調査地点における環境条件、ホッキガイとその餌の時空間変化を調べた。また、海域ごとの環境の違いがホッキガイの味に及ぼす影響を把握するために、ホッキガイの食べ比べとアミノ酸分析を実施した。その結果、ホッキガイの味覚は産地ごとに異なり、遊離アミノ酸含量の違いが起因している可能性が示された。また、得られたδ13C, δ15NとC/N値から、付着藻類と底生微細藻類がホッキ貝にとって主要な餌となっている可能性が明らかになった。さらに、ホッキ貝や海洋有機物のδ13C, δ15NとC/N比は河川有機物の値と比べて大きく異なる一方、区域や季節による顕著な違いは見られなかった。これらの結果より、陸起源有機物はホッキガイの餌となっておらず、現在の海洋環境に及ぼす影響は限定的である一方、河川から海洋への陸起源有機物の過度の供給はホッキガイの代謝に影響を及ぼす可能性、および湿原の果たす機能や保全の重要性が示唆された。