日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW16] 流域生態系の水及び物質の輸送と循環-源流域から沿岸域まで-

2016年5月26日(木) 13:45 〜 15:15 302 (3F)

コンビーナ:*吉川 省子(農業環境技術研究所)、小林 政広(国立研究開発法人森林総合研究所)、奥田 昇(総合地球環境学研究所)、小野寺 真一(広島大学大学院総合科学研究科)、知北 和久(北海道大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、中屋 眞司(信州大学工学部水環境・土木工学科)、齋藤 光代(岡山大学大学院環境生命科学研究科)、座長:奥田 昇(総合地球環境学研究所)、入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)

14:00 〜 14:15

[AHW16-14] 児島湖の物質循環-底泥中の酸化還元から魚まで

千田 智史1、*山本 民次1小野寺 真一2丸山 豊2金 広哲2齋藤 光代3藤田 和男4 (1.広島大学大学院生物圏科学研究科、2.広島大学大学院総合科学研究科、3.岡山大学大学院環境生命科学研究科、4.岡山県環境保健センター)

キーワード:汽水、堤防、酸化還元、魚

児島湖は,岡山県南部に位置する人造湖である.児島湾干拓事業の一環として作られた締め切り堤防の建設(1959年)以降,児島湖の水質は悪化した.その後、下水処理場の整備が進み,水質は改善傾向にあるものの,漁獲量は大きく減少している.
児島湖の低次浮遊生態系における物質循環については、すでに県の報告などがあるが、本研究では,樋門付近の還元的底泥中での酸化還元過程と魚を加えた生態系モデルを作成し、児島湖全体の物質循環の把握を目指した数値モデルを構築したので,報告する。
2014年6月から年4回,現地の計5地点において水と泥についてサンプリングを実施した.泥の間隙水を含む水サンプルについて、栄養塩類、溶存金属類を分析し、底泥については、湿重量,乾重量,強熱減量(IL),酸揮発性硫化物(AVS),リンなどの分析を行った.湖心には、連続測定器を設置し、水温、水中蛍光強度、濁度、pH、溶存酸素濃度(DO)などを測定した。
児島湖のリンを中心とする物質循環を表す数値モデルをSTELLA(isee systems ver. 10.0.4)にて作成し,今回得られたデータおよび岡山県による水質調査公表データ等を検証値として再現するよう計算した.児島湖を樋門付近とそれ以外の水域に分け,水柱層と底泥層にリン循環に関係する各種コンパートメントを設定した.締め切り堤防に近い樋門付近の水域については,藤田ら(2012)の調査および今回の調査により,底泥が特に還元的であることが明らかだったため,底泥層にはマンガン(Mn),鉄(Fe)などのコンパートメントを組み込み,酸化還元反応を表した.また、高次生物では水産統計資料から、フナが圧倒的に優占種と判断できたため、漁獲対象成魚と未成魚の2つのコンパートメントとして与えた。各コンパートメントの初期値をサンプリング結果および公表データから与え,タイムステップ1/64日(22.5分)で,1年間(366日間)の計算を行った.
水柱内の無機態リン(DIP),有機態リン(DOP)などは季節変動を再現することができた。水柱に供給されるDIPのうち60%以上が水柱内の酸化分解によるものであったが,樋門水域では底泥からの溶出が3割程度を占めた.供給された無機態リンのうち,90%は植物プランクトンに利用され,植物プランクトンの一次生産と枯死が非常に大きなフローであることが分かった.
感度解析として、河川からのリンの負荷量が減少した場合の循環の変化を計算したところ,河川からの流入負荷が80%になると、小型魚類のバイオマスはほぼ半減した.河川からのリンの供給は全体の15%程度であるが,生態系の生産性の維持において極めて重要な影響を与えていることが理解できた.