日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW16] 流域生態系の水及び物質の輸送と循環-源流域から沿岸域まで-

2016年5月26日(木) 15:30 〜 16:45 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*吉川 省子(農業環境技術研究所)、小林 政広(国立研究開発法人森林総合研究所)、奥田 昇(総合地球環境学研究所)、小野寺 真一(広島大学大学院総合科学研究科)、知北 和久(北海道大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、中屋 眞司(信州大学工学部水環境・土木工学科)、齋藤 光代(岡山大学大学院環境生命科学研究科)

15:30 〜 16:45

[AHW16-P09] 湿原に隣接した未利用牧草地における水質浄化機能の評価

*木塚 俊和1三上 英敏1亀山 哲2小野 理1 (1.地方独立行政法人北海道立総合研究機構環境科学研究センター、2.国立研究開発法人国立環境研究所生物・生態系環境研究センター)

キーワード:透水係数、栄養塩、泥炭地、空間分布、水位変動、冠水

北海道東部の根釧地域には日本でも有数の大規模酪農地帯が広がっている。酪農草地流域では窒素やリンなどの栄養塩の流出が下流域の湿原や湖沼などで富栄養化をもたらし、生物多様性の低下や水産業への影響が懸念されてきた。一方、最近では、湿原辺縁部や河川周辺を中心に、排水不良によって耕作が困難な牧草地が目立つようになってきている。このように、道東の酪農草地流域では、汚濁負荷削減と未利用牧草地の有効利用が重要な課題となっている。我々は、湿地が持つ生態学的な栄養塩の浄化機能に着目し、未利用牧草地の有効利用策のひとつとして、水質浄化機能を備えた緩衝帯としての役割について検討している。本報では、現地の未利用牧草地を対象に、地下水と地表水の窒素・リン濃度や水文環境の観測に基づき、圃場内の栄養塩動態を明らかにすることを目的とした。
我々は、釧路湿原国立公園を下流域に持つ、阿寒郡鶴居村の未利用牧草地を研究対象地とした。本研究では四方を明渠排水路に囲まれた約100 m×175 mを調査区とした。本調査区では水位の低い時期に圃場の一部で採草が行われる以外は放棄され、湿生植物を含む雑草が繁茂している。調査区の地形を調べるために、調査区内68地点を対象にレベル測量を行った。調査区内に25 m四方の方形区を28区画設け、各区画の中心点に地下水位観測管とピエゾメータを設置した。ピエゾメータは受圧部が地面から30、80、130 cmの深さになるよう各地点3本ずつ設置した。2015年8・10月に地下水位観測管とピエゾメータ内の水位を手動で測定した。調査区および排水路の水位変動特性を評価するために、調査区内で標高が低く常時冠水している地点に1箇所、調査区の北側と南側の明渠排水路各1箇所に自記水位計を設置し、8~11月に水位を連続観測した。地盤の透水性を評価するために、調査区内4地点で、ピエゾメータを用いた単孔式透水試験を行った。水位の手動測定と同時期(8・10月)に各深度のピエゾメータ内の地下水を採取した。試料水はろ過後、全窒素、全リン、およびイオン態の窒素・リン濃度を測定した。
レベル測量の結果、調査区は北から南へ1/200程度の勾配で緩やかに低下していた。また、東側と西側の明渠排水路に沿って地盤がやや低下していた。自記水位計による水位の連続測定の結果、調査区内の水位は調査期間中に約52 cmの変動が見られた。調査区の地盤と自記水位計による水面の標高をもとに調査区内の冠水状況を調べたところ、水位が最も高い時には調査区内のほぼすべての場所で冠水したと考えられた。また、地盤の低い東側と西側の明渠排水路近傍では調査期間中常時冠水し、地盤の最も低い地点では水深が最大で64 cmに達することがわかった。このことから、調査区の水文環境は氾濫性の湿地のような状態にあること、また、調査区の地形特性を反映して地下水位が場所によって大きく異なることが考えられた。調査区内28地点の地下水位測定結果によると、10月の地下水位は地形特性を反映して北から南にかけて、また、東側と西側の明渠排水路に向けて低下する傾向が見られた。地盤の透水係数は、全体で見ると10-8~10-5 m s-1オーダーの値を示し、釧路湿原内の泥炭地での値に比べて小さかった。とくに、浅い層の透水性が悪いことから、農業用作業車による踏圧の影響が示唆された。地表付近の硬盤層は降水の地下への浸入を妨げることから、調査区では表面流出が起こりやすい可能性がある。調査区の地下水では高濃度の栄養塩が局所的に見られた。全窒素は圃場中央の30 cm深度で濃度のピークが認められ、地下水が深くなるにつれて濃度が低下し、なおかつピークの場所が東側の明渠排水路に移動する傾向が見られた。このことから、地表付近にある何らかの栄養塩ソースから、移流と拡散によって窒素成分が移動し、明渠排水路方向に流出していたと推察される。8月から10月にかけて窒素濃度は全体的にやや低下するものの、ほぼ同様の空間分布が見られたことから、調査区からの窒素流出は調査期間を通して生じていたと考えられる。今後、調査区内の栄養塩移動量を算出し、未利用牧草地における栄養塩浄化量を評価する予定である。