16:15 〜 16:30
[HGG12-04] 2015年9月の洪水破堤に伴う茨城県常総市の鬼怒川低地の地形変化
キーワード:平成27年9月関東・東北豪雨、クレバス・スプレー、外水氾濫
台風第18号とその後の低気圧を原因とする平成27年9月関東・東北豪雨により特に関東地方と東北地方で記録的な大雨となった1).鬼怒川流域では10日12時50分の常総市三坂町左岸の堤防決壊などの被害が生じ,最下流部の水海道水位観測所では同日13時に計画高水位を超過した1).決壊地点では洪水流が自然堤防を切り込んだクレバス・チャネルとその周辺の洪水堆積物によるクレバス・スプレーが形成された.本研究ではこれらの破堤地形の地形と構成堆積物の特徴を記載し,洪水による堤内地の地形変化の一例を示した.また,決壊地点より約4 km上流に位置する同市若宮戸で発生した越水地点の調査も行い,比較検討した.
決壊地点付近の鬼怒川は,風成層を載せる更新世段丘に挟まれた沖積低地の西縁を流れる,河床勾配1/2500程度の砂床河川である.三坂町では河道に沿って比高1 - 2 m程の自然堤防が連続性良く分布し,若宮戸では左岸に河畔砂丘が発達している.越水はこの砂丘の一部が削剥された箇所で発生した.
トータルステーション測量とVRS方式のGNSS観測機による測量を実施し,洪水後の地形断面図を作成するとともに国土地理院提供の5 mメッシュDEMの標高値と比較し,洪水前後の地形変化量を検討した.堆積物調査では堆積相の記載とレーザー回折式粒度分析装置SALD-3000 (島津製作所)による粒度分析を行った.なお,地形測量は決壊地点でのみ行った.
決壊地点のクレバス・チャネルの中央では堤防決壊区間の付近に深さ2 m以上の落掘が形成され,その下流も150 m以上の距離の間,侵食作用が卓越し標高が30 - 40 cm低下した.洪水堆積物層は堤防から400 m離れた地点では5 – 30cm程度の層厚であり,洪水流の中心に近いほど層厚が小さかった.洪水堆積物層はおおまかに上下層に区分でき,下層は上方粗粒化を示す泥質細砂-極細砂,上層は淘汰の良い細砂-中砂で主に構成されていた.
図は洪水流の側方縁辺の地形変化と堆積物粒径の関係を示したものである.洪水による侵食域は堤防決壊区間の近傍に限られ,その下流側では地形変化量は小さかった.この領域の堆積物は地表付近では泥質砂であったが,地表下10 cm深では細粒で,洪水前の畑の土壌が多量に含まれると考えられる.測線の途中には先端に急崖を持つ比高30 - 40 cmのローブ状の堆積地形が形成された.このローブ状地形は平行層理または斜交層理を有する最大層厚60 cm以上の砂層からなり,その下部では洪水前土壌との間に泥質砂層を挟んでいた.ローブ状地形の崖下は層厚15 - 30 cm程度の泥質砂層が分布した.
破堤地形全体に見られる,洪水堆積物の層序区分―下部の泥質砂層とそれを不連続的に覆う淘汰の良い砂層―は,洪水堆積物の運搬順序を反映している可能性がある.すなわち,初期の細粒洪水堆積物は,堤外地の河床砂よりも細粒な粒子からなる堤体や落掘の形成で侵食された地盤層,あるいは洪水流中の浮遊粒子を給源とし,その後の砂質洪水堆積物は河床砂が給源であった可能性がある.
越流が生じた若宮戸では約200 m×400 mの範囲で地表下0 cm(地表付近)と20 cm深の洪水堆積物の採取と粒度分析を行った.どちらの深度でも中央粒径がおよそ500 - 800 μmで淘汰の良い砂が堆積した.この地点では河道の一つの砂州の構成砂の中央粒径が700 μm前後であり,河床砂が洪水により河道外に運搬されたと推測される.ただし,一部の堆積物は河畔砂丘の砂の再堆積である可能性も残されている.
二地点を比較すると,若宮戸の調査が不十分であるものの,細粒の洪水堆積物の供給量に差が存在し,このことは堤体の崩壊や落掘の形成の有無に原因を求めることができると考えられる.
本研究で調査した破堤地形の特徴は人為的な地形改変の影響も多少受けているが,過去に報告されたクレバス・スプレー2)との類似点が多い.クレバス・チャネルやクレバス・スプレーの形成は河川の争奪や流路変遷にも関係するため,本研究は今回の洪水災害で形成された地形の調査記録としての意味以上に,後氷期以降の谷埋めで形成されてきた沖積低地における流路変遷や自然堤防発達の様式に対しての考察の一助となりうる.
参考文献
1) 国土交通省関東地方整備局 (2015): 第1回 鬼怒川堤防調査委員会資料, http://www.ktr.mlit.go.jp/river/bousai/river_bousai00000106.html(2016年1月9日閲覧)
2) Bristow et. al. (1999) : Sedimentology, 46, 1029-1047
決壊地点付近の鬼怒川は,風成層を載せる更新世段丘に挟まれた沖積低地の西縁を流れる,河床勾配1/2500程度の砂床河川である.三坂町では河道に沿って比高1 - 2 m程の自然堤防が連続性良く分布し,若宮戸では左岸に河畔砂丘が発達している.越水はこの砂丘の一部が削剥された箇所で発生した.
トータルステーション測量とVRS方式のGNSS観測機による測量を実施し,洪水後の地形断面図を作成するとともに国土地理院提供の5 mメッシュDEMの標高値と比較し,洪水前後の地形変化量を検討した.堆積物調査では堆積相の記載とレーザー回折式粒度分析装置SALD-3000 (島津製作所)による粒度分析を行った.なお,地形測量は決壊地点でのみ行った.
決壊地点のクレバス・チャネルの中央では堤防決壊区間の付近に深さ2 m以上の落掘が形成され,その下流も150 m以上の距離の間,侵食作用が卓越し標高が30 - 40 cm低下した.洪水堆積物層は堤防から400 m離れた地点では5 – 30cm程度の層厚であり,洪水流の中心に近いほど層厚が小さかった.洪水堆積物層はおおまかに上下層に区分でき,下層は上方粗粒化を示す泥質細砂-極細砂,上層は淘汰の良い細砂-中砂で主に構成されていた.
図は洪水流の側方縁辺の地形変化と堆積物粒径の関係を示したものである.洪水による侵食域は堤防決壊区間の近傍に限られ,その下流側では地形変化量は小さかった.この領域の堆積物は地表付近では泥質砂であったが,地表下10 cm深では細粒で,洪水前の畑の土壌が多量に含まれると考えられる.測線の途中には先端に急崖を持つ比高30 - 40 cmのローブ状の堆積地形が形成された.このローブ状地形は平行層理または斜交層理を有する最大層厚60 cm以上の砂層からなり,その下部では洪水前土壌との間に泥質砂層を挟んでいた.ローブ状地形の崖下は層厚15 - 30 cm程度の泥質砂層が分布した.
破堤地形全体に見られる,洪水堆積物の層序区分―下部の泥質砂層とそれを不連続的に覆う淘汰の良い砂層―は,洪水堆積物の運搬順序を反映している可能性がある.すなわち,初期の細粒洪水堆積物は,堤外地の河床砂よりも細粒な粒子からなる堤体や落掘の形成で侵食された地盤層,あるいは洪水流中の浮遊粒子を給源とし,その後の砂質洪水堆積物は河床砂が給源であった可能性がある.
越流が生じた若宮戸では約200 m×400 mの範囲で地表下0 cm(地表付近)と20 cm深の洪水堆積物の採取と粒度分析を行った.どちらの深度でも中央粒径がおよそ500 - 800 μmで淘汰の良い砂が堆積した.この地点では河道の一つの砂州の構成砂の中央粒径が700 μm前後であり,河床砂が洪水により河道外に運搬されたと推測される.ただし,一部の堆積物は河畔砂丘の砂の再堆積である可能性も残されている.
二地点を比較すると,若宮戸の調査が不十分であるものの,細粒の洪水堆積物の供給量に差が存在し,このことは堤体の崩壊や落掘の形成の有無に原因を求めることができると考えられる.
本研究で調査した破堤地形の特徴は人為的な地形改変の影響も多少受けているが,過去に報告されたクレバス・スプレー2)との類似点が多い.クレバス・チャネルやクレバス・スプレーの形成は河川の争奪や流路変遷にも関係するため,本研究は今回の洪水災害で形成された地形の調査記録としての意味以上に,後氷期以降の谷埋めで形成されてきた沖積低地における流路変遷や自然堤防発達の様式に対しての考察の一助となりうる.
参考文献
1) 国土交通省関東地方整備局 (2015): 第1回 鬼怒川堤防調査委員会資料, http://www.ktr.mlit.go.jp/river/bousai/river_bousai00000106.html(2016年1月9日閲覧)
2) Bristow et. al. (1999) : Sedimentology, 46, 1029-1047