日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GM 地形学

[H-GM14] 地形

2016年5月23日(月) 10:45 〜 12:15 301B (3F)

コンビーナ:*島津 弘(立正大学地球環境科学部地理学科)、瀬戸 真之(福島大学うつくしま福島未来支援センター)、座長:佐藤 浩(日本大学文理学部)

11:15 〜 11:30

[HGM14-09] スーパースロービデオカメラを用いた飛砂粒子のreptation運動解析

*小玉 芳敬1竹野 杏里 (1.鳥取大学地域学部)

キーワード:飛砂様式、躍動、被弾飛散動、匍行、スーパースロービデオカメラ、粒子運動解析

はじめに
砂丘や砂浜では,波長10cmほどの風紋(砂漣,wind ripple)がしばしば観察されるが,風紋の形成要因は未解明のままである(たとえばThomas,2011)。最近では被弾飛散動(reptationを命名)による粒子が風紋の形成に重要な役割を担う説(Anderson,1987)が支持を集めている。ReptationとはAnderson and Haff(1988)が命名した粒子の運動様式であり,saltation(躍動)粒子が着床した際に,そこにある砂粒をはじき飛ばす運動様式のことである。従来はcreep(匍行)と呼ばれてきた現象の一部にあたる。

本研究の目的は,スーパースロービデオカメラを用いてsaltationとreptationの実態を解明し,差違を明らかにすることである。従来の数力学的モデル研究に対して新たな材料を提供する意義をもつ。

実験装置と実験方法
幅9cm・深さ56cm・全長7m28cmの風洞実験装置は,透明アクリル板(厚さ8mm)とツーバイフォー木材で作られ,上流端に送排風機(マキタ製,MF302)を設置した。送排風機と風洞の接合部には台形型の整流槽(長さ180cm・上底21cm・下底53cm・深さ48cm)をはさんだ。風洞の下流端には,円形状のアクリルチューブ(径32cm,長さ103cm)と洗濯ネットで捕砂装置を作り,風洞から排出される飛砂粒子を捕捉し,飛砂量を計測した。

粒子の軌道を可視化しやすくするために,平均径0.36cmの扁平なポリプロピレン楕円体粒子(比重0.9)を実験材料に選定した。SONY製スーパースロービデオカメラ(NEX-FS700R/FS700RH)にレンズ(SONY E3.5-6.3/PZ 18-200 OSS SELP18200)を装着して風洞長で3m21cm~3m64cm区間を側面から撮影し,粒子の軌道を追跡した。スーパースローカメラは毎秒960コマで撮影を実施した。無給砂の実験と毎秒0.22g/秒のポリプロピレン粒子を風洞上流端で供給する実験(給砂実験)を行った。
スーパースロービデオカメラで撮影した動画は,パソコンソフトでコマ送りにし,OHPシートに粒子の軌道をプロットして座標を読み取り,2粒子間の移動距離と速度,跳躍高を求めた。トレースした粒子は全部で45粒であり,これらを解析した。

実験結果と考察
コマ数(経過時間)に応じた粒子の速度変化を調べたところ,reptation粒子は主に50cm/秒以下の速度で移動したのに対して,saltation粒子は主に100cm/秒以上で動いていた。また,saltation粒子は砂面に衝突して速度が急降下し,その後の跳ね上がりで風により加速する傾向が顕著であった。本実験で1粒子のみ観察できたcreep粒子は,50cm/秒ほどで移動していた。

粒子運動様式別の最高跳躍高/粒子径を比べた結果,無給砂の条件下では,reptation粒子のほとんどが粒子径(0.36cm)以下の跳躍運動を行い,saltation粒子やcreep粒子は,粒子径よりも高い跳躍運動を行うことが明らかになった。給砂条件下(0.22g/秒)では,reptation粒子は粒子径の2倍(0.72cm)以下の跳躍運動となり,それ以上の跳躍を示すsaltation粒子と明確に区別された。

給砂をすることで,飛砂量は給砂量の4-5倍に増加した。給砂によりsaltation粒子が衝突した際に飛散するreptation粒子数も増えたことがビデオ映像で確認された。reptation粒子数の増加は,砂面近傍を吹く風の風速を弱め,そのために粒子径の2倍以上の高さまで粒子が跳ね上がらないと風による加速が不十分となり,つまりsaltationへの移行が起こらなかったと考えられる。saltation粒子に関して,跳躍毎の最高跳躍高と粒子の加速度の関係を調べたところ,正の相関が得られた。

粒子の運動様式に関しては,給砂条件下では風上に向かって飛散するreptation粒子が22%の割合で確認できた。一方,無給砂の条件下では風上に向かって飛散するreptation粒子が7%,reptation粒子が移動途中からsaltation粒子に変わるものが22%観察された。また風のみの力で始動するcreep現象よりもreptation現象やsaltation現象が圧倒的に多い粒子運動様式であることが,実験的に初めて明らかにされた。飛砂の運動様式に関しては,従来のcreepの代わりに,今後はsaltation,reptation,そしてsuspension(浮遊)を使用すべきである。

文献
Anderson, R.S.(1987)Eolian sediment transport as a stochastic process: the effects of a fluctuating wind on particle trajectories. Journal of Geology, 95, 497-512.
Anderson, R.S. and Haff, P.K. (1988) Simulation of eolian saltation. Science, 241, 820-823.
Thomas, D.S.G.(2011) Arid Zone Geomorphology 3rded. John Wiley & Sons,624 pp.