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[HQR15-03] 北海道北部頓別平野周辺の沿岸部における完新世の砂丘および沖積層のルミネッセンス年代
キーワード:砂丘、沖積低地、pIRIR / OSL 年代測定法、頓別平野、完新世
I.はじめに
北海道北部オホーツク海側の頓別平野周辺では,比較的大規模な河川の下流域に中期更新世以降に形成された海成・河成段丘と,沖積低地や砂丘列などが分布する(小疇ほか,2003).北海道北部日本海側のサロベツ湿原周辺では,砂丘植生や砂丘間低地の湿地の生態系が保全されており,砂丘やその周辺の地史が注目されてきた(冨士田,2014).一方で,頓別平野周辺においては,砂丘周辺や低地に比較的大規模な湿原植生も保存されているが,沿岸部の完新世の地学環境には不明な点が多い.また,頓別平野の砂丘上には多くの遺跡が分布しているので(浜頓別町教育委員会,2014),過去の人間活動と地史の関係を解明するためにも砂丘などの発達史や堆積環境を明らかにする必要がある.本研究の対象地域では,中期~後期更新世の地形・堆積物の編年にあたってルミネッセンス年代測定法の適用が有効であるとされている(Kondo et al., 2007; 近藤ほか,2014).そこで本研究では,頓別平野の砂丘,関連する沖積層や低位段丘群の編年をルミネッセンス年代測定法によって行うことを目的とする.
II.方法
ルミネッセンス年代測定にあたっては,堆積物中の石英微粒子(4~11 μm)または石英粗粒子(180~250 μm)を用いたSAR(Murray and Wintle,2000)法によるOSL年代測定法,多鉱物微粒子(4~11 μm)またはカリ長石粗粒子(180~250 μm)を用いたpost-IR IRSL (pIRIR)年代測定法(Thomsen et al., 2008)を適用した.一部の試料については,同一層準でAMS14C年代測定を行い結果の比較を行った.
III.結果とまとめ
砂丘砂などから得られた石英粗粒子試料のOSL年代測定の結果,ナチュラル試料の信号はほとんど観察されなかった.このことは本地域に分布する粗粒な石英のOSL信号はスロー成分が卓越し,年代測定に適さないことを示唆する(Thiel et al., 2015).一方で,同一試料のカリ長石を用いたpIRIR年代測定(pIR150年代測定;Reimann and Tsukamoto, 2012)の結果,層序と矛盾のない結果が算出された.
頓別平野南東部の砂丘列上に位置するブタウス遺跡周辺の表層は,ウォッシュオーバーファン堆積物と砂丘砂やクロスナの互層からなることが確認された.縄文時代晩期~続縄文期のクロスナを覆うウォッシュオーバーファン堆積物のpIR150年代値は,約2.2 kaであった.頓別平野北西部の猿払川河口付近に位置する砂丘列群は,本研究地域で最も海岸の近く位置し,pIR150年代値は約4.5 kaであった.クッチャロ湖の東方や頓別側河口左岸に位置するやや内陸の砂丘群から得られたpIR150年代値は約5.1 ka,約5.3 kaであった.頓別平野中央部の最も内陸の低地に位置する侵食の進む砂丘の年代値は約5.7 kaであった.以上の結果から, 1)頓別平野周辺においては完新世に堆積した粗粒な堆積物の編年にpIRIR年代測定法が有効であること,2)本地域においては最終氷期の石英微粒子のOSL年代値は正しく得られることが報告されていることから,石英の起源が時代または粒径によって異なる可能性があること,3)頓別平野中央部では縄文海進最盛期の後,約5.7 ka以降に内陸側から順次砂丘が形成されたこと,4)頓別平野南東部では砂丘形成の停止期,堆積期,波浪による砂丘の破壊が繰り返されながら後期完新世まで砂丘形成作用が生じていたこと,5)頓別平野北西部では後期完新世以降に砂丘の形成が停止したか,波浪侵食により海側の砂丘が消滅したこと,が推定される.発表当日は周辺の段丘や低地を構成する堆積物のルミネッセンス年代測定結果と発達史や堆積環境などについても紹介する.
引用文献 冨士田(2014)北海道大学出版会,272p.;浜頓別町教育委員会(2014)浜頓別町教育委員会.223p.;小疇ほか(2003)東京大学出版会,359p.;Kondo et al.(2007)Quaternary Geochronology, 2, 260‒265.;近藤ほか(2014)日本第四紀学会講演要旨集,44.;Murray and Wintle(2000)Radiation Measurements, 32, 57-73.;Reimann and Tsukamoto(2012)Quaternary Geochronology 10, 180-187;Thiel et al. (2015), Quaternary Geochronology, 29, 16-29. ;Thomsen et al. (2008)Radiation Measurements, 43, 1474-1486.
北海道北部オホーツク海側の頓別平野周辺では,比較的大規模な河川の下流域に中期更新世以降に形成された海成・河成段丘と,沖積低地や砂丘列などが分布する(小疇ほか,2003).北海道北部日本海側のサロベツ湿原周辺では,砂丘植生や砂丘間低地の湿地の生態系が保全されており,砂丘やその周辺の地史が注目されてきた(冨士田,2014).一方で,頓別平野周辺においては,砂丘周辺や低地に比較的大規模な湿原植生も保存されているが,沿岸部の完新世の地学環境には不明な点が多い.また,頓別平野の砂丘上には多くの遺跡が分布しているので(浜頓別町教育委員会,2014),過去の人間活動と地史の関係を解明するためにも砂丘などの発達史や堆積環境を明らかにする必要がある.本研究の対象地域では,中期~後期更新世の地形・堆積物の編年にあたってルミネッセンス年代測定法の適用が有効であるとされている(Kondo et al., 2007; 近藤ほか,2014).そこで本研究では,頓別平野の砂丘,関連する沖積層や低位段丘群の編年をルミネッセンス年代測定法によって行うことを目的とする.
II.方法
ルミネッセンス年代測定にあたっては,堆積物中の石英微粒子(4~11 μm)または石英粗粒子(180~250 μm)を用いたSAR(Murray and Wintle,2000)法によるOSL年代測定法,多鉱物微粒子(4~11 μm)またはカリ長石粗粒子(180~250 μm)を用いたpost-IR IRSL (pIRIR)年代測定法(Thomsen et al., 2008)を適用した.一部の試料については,同一層準でAMS14C年代測定を行い結果の比較を行った.
III.結果とまとめ
砂丘砂などから得られた石英粗粒子試料のOSL年代測定の結果,ナチュラル試料の信号はほとんど観察されなかった.このことは本地域に分布する粗粒な石英のOSL信号はスロー成分が卓越し,年代測定に適さないことを示唆する(Thiel et al., 2015).一方で,同一試料のカリ長石を用いたpIRIR年代測定(pIR150年代測定;Reimann and Tsukamoto, 2012)の結果,層序と矛盾のない結果が算出された.
頓別平野南東部の砂丘列上に位置するブタウス遺跡周辺の表層は,ウォッシュオーバーファン堆積物と砂丘砂やクロスナの互層からなることが確認された.縄文時代晩期~続縄文期のクロスナを覆うウォッシュオーバーファン堆積物のpIR150年代値は,約2.2 kaであった.頓別平野北西部の猿払川河口付近に位置する砂丘列群は,本研究地域で最も海岸の近く位置し,pIR150年代値は約4.5 kaであった.クッチャロ湖の東方や頓別側河口左岸に位置するやや内陸の砂丘群から得られたpIR150年代値は約5.1 ka,約5.3 kaであった.頓別平野中央部の最も内陸の低地に位置する侵食の進む砂丘の年代値は約5.7 kaであった.以上の結果から, 1)頓別平野周辺においては完新世に堆積した粗粒な堆積物の編年にpIRIR年代測定法が有効であること,2)本地域においては最終氷期の石英微粒子のOSL年代値は正しく得られることが報告されていることから,石英の起源が時代または粒径によって異なる可能性があること,3)頓別平野中央部では縄文海進最盛期の後,約5.7 ka以降に内陸側から順次砂丘が形成されたこと,4)頓別平野南東部では砂丘形成の停止期,堆積期,波浪による砂丘の破壊が繰り返されながら後期完新世まで砂丘形成作用が生じていたこと,5)頓別平野北西部では後期完新世以降に砂丘の形成が停止したか,波浪侵食により海側の砂丘が消滅したこと,が推定される.発表当日は周辺の段丘や低地を構成する堆積物のルミネッセンス年代測定結果と発達史や堆積環境などについても紹介する.
引用文献 冨士田(2014)北海道大学出版会,272p.;浜頓別町教育委員会(2014)浜頓別町教育委員会.223p.;小疇ほか(2003)東京大学出版会,359p.;Kondo et al.(2007)Quaternary Geochronology, 2, 260‒265.;近藤ほか(2014)日本第四紀学会講演要旨集,44.;Murray and Wintle(2000)Radiation Measurements, 32, 57-73.;Reimann and Tsukamoto(2012)Quaternary Geochronology 10, 180-187;Thiel et al. (2015), Quaternary Geochronology, 29, 16-29. ;Thomsen et al. (2008)Radiation Measurements, 43, 1474-1486.