日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT21] 環境トレーサビリティー手法の開発と適用

2016年5月24日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、中野 孝教(大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所)

17:15 〜 18:30

[HTT21-P05] 中国地方における降水の硫黄・水素・酸素・ストロンチウム同位体比の季節・経年変動

毛 恵星1塚田 快1淀瀬 達也1山下 勝行1、*千葉 仁1 (1.岡山大学大学院自然科学研究科)

キーワード:降水、中国地方、非海塩性硫酸、硫黄同位体比、水素・酸素同位体比、ストロンチウム同位体比

鳥取県と岡山県を南北に縦断する計7地点において,試料採取を行っている。採取方法は,乾性沈着物(エアロゾルや黄砂)と湿性沈着物(雨や雪)をまとめて採取するバルク法である。本研究では採取した雨水サンプルの主成分化学組成と硫酸イオンの硫黄同位体比,さらに,水の水素・酸素同位体比,Sr同位体比を測定し,中国地方における降水とその溶存成分の起源と季節・経年変動について2011年~2015年の結果を考察した。
非海塩性硫酸の硫黄同位体比は,ほとんどの期間で日本海からの距離が大きくなるに従って減少している。また,非海塩性硫酸イオンの硫黄同位体比は夏期に低く,冬期に高い季節変化を示している。よって,日本海側の方が瀬戸内海側と比べて,大陸からの越境汚染の影響を受けていることがわかり,さらに冬期ほどその影響が大きいと考えられる。さらに,過去5年間の非海塩性硫酸の硫黄同位体比の最大値と最小値は,緩やかな増加傾向がある。このことが,大陸からの越境汚染の増加を意味するかどうか、今後の継続的な測定が必要である。
降水の水素・酸素同位体比から計算されたd値は,どの試料採取地点でも、夏期に低く冬期に高い季節変化を毎年明瞭に示している。さらに,夏期の日本海側のd値は瀬戸内海側のd値より低く、冬期は逆の傾向を示す。よって冬季には大陸側から,夏季には太平洋側からの気団が主に降水を生じさせていると推定できる。このことは、冬期の降水の高い非海塩性硫酸の高い硫黄同位体比で示される大陸からの越境汚染が大陸側から来る気団によってもたらされていることを支持する。
日本海に近い湯梨浜と三朝における非海塩性Sr同位体比は春期に高く(>0.7100),夏期から秋期に低くなる(~0.7070)季節変化を繰り返している。春期の高い同位体比は大陸からの黄砂の影響を反映している。これに対して、夏期から秋期は、周辺の岩石由来の低い同位体比を持つ物質の影響を受けていると考えられ、非海塩性硫酸の硫黄同位体比や降水のd値から示される大陸からの物質輸送が少ないことと整合的である。冬期は、大陸からの黄砂の輸送が少ないため春期と夏期から秋期の中間的な値を示していると考えられる。