日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT21] 環境トレーサビリティー手法の開発と適用

2016年5月24日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、中野 孝教(大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所)

17:15 〜 18:30

[HTT21-P11] ストロンチウム安定同位体比と元素濃度を用いた水の動態と魚の過去の移動追跡

*札本 果1申 基澈2中野 孝教2森 誠一3久米 学4西田 翔太郎3陀安 一郎2 (1.京都大学大学院理学研究科、2.総合地球環境学研究所、3.岐阜経済大学、4.国立遺伝学研究所)

キーワード:ストロンチウム同位体比、耳石、魚、水

岩手県上閉伊郡大槌町沿岸域は2011年3月11日の東日本大震災に伴う津波により甚大な被害を受けた。大槌の沿岸域は豊かな湧水環境のため、冷水性の希少魚である淡水性イトヨ(Gasterosteus aculeatus)が生息している。復興工事が進行するこの地域で町を象徴する生物であるイトヨの行動範囲やその生息環境を理解することは適切な生態系管理につながる。ストロンチウム安定同位体比(87Sr/86Sr)は、魚の耳石と生息地環境水で一致することから、魚の出生河川を推定する有力な指標として使われてきている。そこで、87Sr/86Srを用いてイトヨの移動調査を試みた。
まず、隔離された地域に生息するイトヨ個体群の耳石全量と生息地環境水の間の87Sr/86Srの関係を調査し、イトヨの耳石と生息地環境水の87Sr/86Srがほぼ一致することを確認した。次に、イトヨ生息地域の水を分析したところ、小槌川本流の一つの支流河川では上流と下流で河川水の87Sr/86Srや複数の元素濃度(Ca、Srなど)に大きな違いがみられた。87Sr/86SrとSrの濃度から、この支流の下流域は上流域からの水と合流する本流の水や海水が混合する環境であると推定された(寄与率、上流:約82.6%、本流:約16.7%、海水:約0.6%)。87Sr/86Srに明確な違いがあることから、この支流河川内の上流域と下流域で生育したイトヨを識別することができる。そこで、この上流域と下流域において、採集されたイトヨの耳石全量の87Sr/86Srおよび元素濃度から、イトヨの過去の移動の調査を試みた。その結果、上流域で採集されたイトヨ(合計40個体)の中には他の地域から移動してきた個体はいないが、下流域で採集されたイトヨ(合計13個体)の中には上流域や本流から移動してきたと考えられる個体がいると推定された。さらに、下流域のイトヨの中には、耳石のSr/Caが上流域の個体に比べ顕著に大きく、塩分濃度の高い水域を利用したと考えられる個体が存在し、下流域は多様な環境を利用してきたイトヨ集団であることが示唆された。