日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS06] 生物地球化学

2016年5月22日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*楊 宗興(東京農工大学)、柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)

17:15 〜 18:30

[MIS06-P08] 不耕起栽培が熱帯サトウキビ畑の物理性の保全に及ぼす効果
―疑似団粒を用いた耕起・不耕起栽培における雨水浸透特性の検討―

*森 也寸志1荒井 見和3Gede Swibawa4Niswati Ainin4金子 信博2藤江 幸一2 (1.岡山大学大学院環境生命科学研究科、2.横浜国立大学、3.農業環境技術研究所、4.ランプン大学)

キーワード:不耕起栽培、土壌構造、サトウキビ

はじめに
インドネシア・スマトラ島のサトウキビ畑では伝統的な耕起栽培が行われており,近年では明確な理由はわからないものの,土地がやせ収穫量の減少が見られる.近年の気候変動の影響のもとでは,極端な干ばつや豪雨が各地で報告されており,風雨に対して脆弱な土壌帯は生産基盤の損失につながる.このうち,透水性や有機物量の維持は団粒形成や迅速な排水などその安定性に欠かすことが出来ない.そこで本研究では,不耕起栽培を実践し土壌物理性の回復を目指したフィールド実験の結果を報告する.さらに本研究では,不耕起栽培で形成される団粒を人工的に再現し,気温や湿度を現地と同様の条件とし,室内実験として耕起・不耕起栽培における水移動の特徴を再現し,現地で起きている状況について考察した.

調査と実験の方法
現地調査:スマトラ島南部にあるバンダーランプンのグヌ・マド・プランテーションにおいて,25m×25mの畑を20枚用意し,A:耕起・バガスマルチ,B:耕起,C:不耕起,D:不耕起・バガスマルチの4処理管理を5反復行い,毎年7月の収穫期直前に土壌環境調査を行った.2011年,2012年に20圃場にて土壌の特性値を計測した後,未攪乱土壌を採取し,透水試験を行った.また,現場では深さ50cmのオーガーホール排水試験を行った.あわせて土壌炭素・窒素量の計測を行い,土壌の肥沃土の指標とした. 土壌の特性値計測ではHydra Probe II (Stevens)を,透水性試験では変水位透水試験を,土壌炭素・窒素量計測では,JM1000CN (J-Science Lab) を使用した.なお,土壌の電気伝導度と土壌水分には二次関数で近似できる関係があるため,ECb/θ2という計算を行い,土壌水の電気伝導度を推測した.
室内実験:不耕起の団粒には日本で採取できる赤玉土を使用した.従って耕起区にはこれを粉砕したものを用いた.内径7.1cm高さ50cmの塩化ビニル管に,不耕起区の深さ20cmまでは団粒を充填し,他の部分は粉砕した土壌を充填した.また,土壌水分センサーを表層から10,30,50cmの位置に設置した.降雨強度20mm/h,2mm/hの人工降雨を総量500ml(130mm,25%v/v)として計2回降らせた.実験は気温30℃,湿度60%に設定したグロースチャンバー内で行い,土壌水分・塩分センサーで誘電率と電気伝導度を毎日計測した.今回,特に団粒構造を評価するために誘電率-水分変換で新たな変換式を作った.

結果と考察:
現地調査結果では不耕起栽培では僅かに土壌水分が多い傾向があった.解析から得られた土壌水の電気伝導度(ECw)は耕起区の特に表層で高い傾向があった.耕起区は土壌有機物が空気に触れやすい状況にあり,可溶性塩類が生じやすい状況にあると考えられるが,有意な違いではない.ここで乾燥密度から間隙率を計算し,土壌水分に対する飽和度を求めた.耕起・不耕起の管理の影響は深さ方向に現れると考え,深さによる違いを解析するとAの10,30cmでp=0.053, Bの10,30cmでp=0.002となり,Bについては明らかに10cmより30cmの飽和度が高いことがわかった.間隙が少なければ飽和しやすくまた排水能力が下がりやすい.実際,透水性試験をすれば,ACDはあまり変わらないが,Bでは10cmから30cmにかけて値が大きく下がる結果となった.これを重機往来の影響と考えれば,CDは土壌水分,乾燥密度,飽和度ともに保全的である.一方で,耕起栽培を行うと,ABでは表層の土壌環境は良好に見えるが,根群域直下でこれらが変わると推測出来る.Bは飽和度と透水性について明らかにその傾向が出た.Aは,透水試験の上ではその影響が軽減される結果となったが,バガスマルチの施用,つまり有機物の投入が土壌構造の劣化を軽減していると推測された.オーガーホール排水試験では,不耕起栽培の方が排水性が良く,特にA,BとDは明らかに異なった.Cのばらつきは明らかではないが,いずれにしても深さ30cm以深に管理の特徴が出る可能性を裏付けている.これまで管理の違いを耕起・不耕起といった水平方向で比較検討してきたが,むしろ深さ方向に視点を移すことでその違いが明らかになることがわかった.
室内実験では上記調査結果を精査した.まず,広く使われるTopp式は日本の土壌の水分量を過小評価しており,新たな校正式が必要だった.一般には,接触不良から土壌団粒の水分計測は難しいが,新たな校正式を作ると団粒部分の水分変動を捉えることができた.
降雨強度が強い場合,耕起・不耕起を比較すると深さ50cmへの降雨の到達は不耕起の方が速く,強雨による団粒構造をバイパスする効果が現れていると考えられた.しかし,降雨強度の弱い耕起・不耕起を比較しても深さ50cmへの降雨の到達速度は変わらなかった.さらに2mmの強度で耕起不耕起を比較すると不耕起は50cm層にまで水が達しているのに対して,耕起ではほとんど水が達していない.総降雨量は同じなので,降雨が強いほど下方に水は浸透しにくいことがわかった.逆に不耕起栽培では降雨強度によらず,土壌水分を下方に浸透させていることがわかった.

終わりに
本実験より,不耕起栽培では降雨に関わらず根群域下への排水が速いが,耕起栽培では特に降雨が強い場合排水不良が起こりやすいことがわかった.つまり現地圃場に於いては,普段根群域だけを見ている場合は目立たないが多雨の年にはこの影響が顕著に表れる可能性がある.実際現地では多雨の年に耕起区で収量が落ちるという報告が成されており,現地調査における飽和度の高さと室内実験における下方浸透の特徴からこれを説明できると考えた.