日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS08] 地震・火山等の地殻活動に伴う地圏・大気圏・電離圏電磁現象

2016年5月25日(水) 15:30 〜 17:00 コンベンションホールB (2F)

コンビーナ:*児玉 哲哉(宇宙航空研究開発機構研究開発部門第一研究ユニット)、芳原 容英(電気通信大学 大学院情報理工学研究科)、長尾 年恭(東海大学海洋研究所)、早川 正士(株式会社 早川地震電磁気研究所)、座長:長尾 年恭(東海大学海洋研究所)、児玉 哲哉(宇宙航空研究開発機構研究開発部門第一研究ユニット)

15:30 〜 15:45

[MIS08-01] チリで発生した三つの大地震の直前に起こった電離圏異常の時空間構造

*日置 幸介1賀 黎明1 (1.北海道大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

キーワード:GNSS-TEC、前兆、チリ地震

全球衛星航法システム(GNSS)のLバンドの複数搬送波の位相差から、電離圏全電子数(Total Electron Content, TEC)を求めることができる。Heki [2011]は、日本全国に展開された国土地理院のGNSS網のデータから、2011年東北沖地震(Mw9.0)の約40分前に、震源上空の電離圏でTECが増加したことを見出した。TEC異常を定義するための基準曲線 (Reference curve)の導出に曖昧性があること、電離圏が本来持っている自然な変化を大きく超えるものでないこと、の二点が繰り返し批判の対象となってきた[Kamogawa & Kakinami, 2013; Utada & Shimizu,2014; Masci et al., 2015]が、我々はそれに対し同じJGR誌上で反証を述べてきた[Heki & Enomoto, 2013; 2014; 2015]。最新のHeki & Enomoto [2015]では、地震前の折れ曲がりを基準曲線の代わりに赤池情報量基準(AIC)を用いて検出する方法を提案し、TEC変化率の増加分が背景TECとMwの双方の関数として表されること、先行時間がMwと明瞭な相関を示すことを示した。さらに平時における正の折れ曲がり検出率から、地震直前の折れ曲がりの原因を宇宙天気に求めることは確率的に非現実的であることを示した。
本研究では、南半球のチリで発生した2010年2月Maule地震(Mw 8.8)、2014年4月Iquique地震(Mw 8.2)、2015年9月 Illapel地震(Mw 8.3)、のプレート間大地震を取り上げる。南米、中でもチリとアルゼンチンでは様々な機関が展開した連続GNSS網が広域に展開されており、TEC異常の空間構造を調べる条件は日本より良好である。我々はUNAVCO、IGS、RAMSAC等のデータセンターからダウンロードしたGNSS生データを解析し、これら三つのチリ地震のすべてで、地震直前に明瞭なTEC変化の折れ曲がりが生じたことを見出した(添付図参照)。本研究では地震直前のTEC異常の三次元空間構造を、地表電荷への電離圏の応答[Kuo et al. , 2014]と比較する。
先行時間(折れ曲がりの発生)は三つの地震のそれぞれ40分前、25分前、22分前、であり、他地域の例と整合的である。背景VTECは磁気緯度の違い(Iquique地震は赤道異常の直下で発生)と時刻の違い(Maule地震は深夜に発生)を反映し、それぞれ5 TECU以下、約60 TECU、約 20 TECUとバラエティに富む。総じてVTECに対するTEC変化率の増大量はMwに整合的であった。
いずれの地震でも、地震直前の正のTEC異常は震源北側に生じた(北半球と逆)。またその空間的広がりはMaule地震で500 km程度、Iquique地震とIllapel地震では300 km程度とMwへの依存性が見られた(添付図参照)。またすべての地震で正異常(TEC増加)と同時刻に負異常(TEC減少)が、震源から遠方の地域で始まることが確認された。GNSS局のカバレージが良いIllapel地震について、正負の異常の三次元的な空間構造を調べた結果、正の異常は震源北側高度200 kmあたり、負の異常は高度 400 kmを中心に正異常のやや北寄りに現れることがわかった。正負の異常は地磁気の磁力線に沿っており、Kuo et al. [2014]が地表の正電荷への応答として計算した、電離圏電子密度の異常の空間構造と調和的である。
文献
Heki, K. (2011), GRL.
Heki, K. and Y. Enomoto (2013) JGR.
Heki, K. and Y. Enomoto (2014) JGR.
Heki, K. and Y. Enomoto (2015) JGR.
Kamogawa, M. and Y. Kakinami (2013) JGR.
Kuo, C.L. et al. (2014) JGR
Masci, F. et al. (2015) JGR.
Utada, H., and H. Shimizu (2014) JGR.
図の説明:2010年Maule, 2014年Iquique, 2015年Illapel地震の直前に起こった鉛直TECの異常を、視線が高度 200 kmの薄い層を貫く点を地上に投影した点に色で表したもの。異なる記号は異なる衛星で得られたデータを示す。