15:30 〜 16:45
[MIS11-P01] 岩手県野田村における津波堆積物調査
三陸地方は,歴史史料や観測記録により被害を及ぼす規模の津波が多く襲来している(Utsu, 2004).2011年東北太平洋沖津波もその一つであり,低頻度かつ大規模な津波に備えるために,古津波堆積物の情報は欠かせない.しかしながら,広い沿岸域に対して三陸地方では古津波に関する研究例に乏しい(八木下ほか,2001).特に,先史津波を対象にした陸上での研究例はIshimura and Miyauchi(2015)に限られており,古津波の時空間的分布はよくわかっていない.そのため,三陸における歴史津波・先史津波の発生頻度や間隔,さらには規模の推定のためには,より多くのデータを収集する必要がある.
後藤ら(2014)は,三陸北部の岩手県野田村において予察的な調査を行い,津波堆積物の可能性のある砂礫質堆積物が複数層存在することを報告した.これらが津波堆積物であると認定されれば,三陸北部の古津波の記録に直結する貴重なデータになる.また,後藤ら(2014)は西暦915年十和田aテフラ(To-a)および西暦946年白頭山テフラ(B-Tm)(Machida and Arai, 1992)の存在を明らかにし,その直下にも砂礫質堆積物が存在することを報告した.仙台平野や石巻平野(澤井ほか,2007,2008),大槌湾(鳥居ほか,2007),山田町小谷鳥(Ishimura and Miyauchi,2015)では,To-aテフラとの層序関係から貞観津波堆積物が認定されている.野田村は既往研究の調査地点より北部に位置し,本地域で貞観津波堆積物が存在する可能性が高くなれば,これまでの貞観地震の断層モデルを見直すことにもつながる.
後藤ら(2014)の予察的研究では,砂礫質堆積物の対比や津波堆積物の認定に検討の余地がある.そこで,三陸北部岩手県野田村において先行研究(後藤ら,2014)により分布が報告された複数層の砂礫層を詳細に対比し,各種分析から津波堆積物の認定を行い,本地域における古津波の履歴の解明を試みた.
本地域においては,後藤ら(2014)の聞き取り調査から1896年明治三陸津波と2011年東北太平洋沖津波の浸水が確認されており,それぞれ内陸約850m標高約12m,内陸約650m標高約14mの地点まで遡上している.本研究では,海岸線から約400~720mの範囲で垂直な調査測線を1本設定し,ハンディジオスライサーとハンドコアラーを用いて掘削調査をおこなった.その結果,最大4層の砂礫質堆積物を確認し,主に岩相観察からイベント堆積物として認定を行った.続いて,各イベント層の連続的な分布を確認するために対比を行った.本調査地域は水田として利用されているため階段状の人工地形となっており,標高が異なる面での連続性が見えにくく堆積物の様相も様々である.そのため,岩相に加え放射性炭素年代測定の結果を考慮し詳細に対比を行った.そして,連続的かつ広域に追跡可能なイベント層Ⅲについて,粒度分析,高潮・高波を再現した数値計算から起源を検討した.高潮・高波計算を実施した理由は,陸上に分布するイベント堆積物に対しその分布範囲から高潮・高波の可能性を排除できる可能性があるためである.イベント層Ⅲは,粒子形状,内陸細粒化や内陸薄層化,一部の地点で確認された上方細粒化といった堆積学的特徴から,波浪に伴う海側からの運搬が推測される.そして,観測記録を基にした最大規模,あるいはそれを大幅に上回る条件における高潮・高波でイベント堆積物の分布を説明できないことを数値計算により確認し,津波堆積物と認定した.その他のイベント層に関しても,同様に高潮・高波で運搬可能な距離を大きく超えた内陸約720mまで分布が確認されることから,津波堆積物であると認定した.今回用いた高潮・高波の再現計算は津波堆積物の起源を検討するうえで有用であり,認定基準の一つになりうると考えられる.
本研究で認定した津波堆積物の年代から,約1100~2700年前のおよそ1600年間において4度の津波が同地域に襲来したことが示唆される.これらの津波イベントは,津波堆積物の分布域から1896年明治三陸津波や2011年東北太平洋沖津波に匹敵する規模だった可能性が考えられる.
後藤ら(2014)は,三陸北部の岩手県野田村において予察的な調査を行い,津波堆積物の可能性のある砂礫質堆積物が複数層存在することを報告した.これらが津波堆積物であると認定されれば,三陸北部の古津波の記録に直結する貴重なデータになる.また,後藤ら(2014)は西暦915年十和田aテフラ(To-a)および西暦946年白頭山テフラ(B-Tm)(Machida and Arai, 1992)の存在を明らかにし,その直下にも砂礫質堆積物が存在することを報告した.仙台平野や石巻平野(澤井ほか,2007,2008),大槌湾(鳥居ほか,2007),山田町小谷鳥(Ishimura and Miyauchi,2015)では,To-aテフラとの層序関係から貞観津波堆積物が認定されている.野田村は既往研究の調査地点より北部に位置し,本地域で貞観津波堆積物が存在する可能性が高くなれば,これまでの貞観地震の断層モデルを見直すことにもつながる.
後藤ら(2014)の予察的研究では,砂礫質堆積物の対比や津波堆積物の認定に検討の余地がある.そこで,三陸北部岩手県野田村において先行研究(後藤ら,2014)により分布が報告された複数層の砂礫層を詳細に対比し,各種分析から津波堆積物の認定を行い,本地域における古津波の履歴の解明を試みた.
本地域においては,後藤ら(2014)の聞き取り調査から1896年明治三陸津波と2011年東北太平洋沖津波の浸水が確認されており,それぞれ内陸約850m標高約12m,内陸約650m標高約14mの地点まで遡上している.本研究では,海岸線から約400~720mの範囲で垂直な調査測線を1本設定し,ハンディジオスライサーとハンドコアラーを用いて掘削調査をおこなった.その結果,最大4層の砂礫質堆積物を確認し,主に岩相観察からイベント堆積物として認定を行った.続いて,各イベント層の連続的な分布を確認するために対比を行った.本調査地域は水田として利用されているため階段状の人工地形となっており,標高が異なる面での連続性が見えにくく堆積物の様相も様々である.そのため,岩相に加え放射性炭素年代測定の結果を考慮し詳細に対比を行った.そして,連続的かつ広域に追跡可能なイベント層Ⅲについて,粒度分析,高潮・高波を再現した数値計算から起源を検討した.高潮・高波計算を実施した理由は,陸上に分布するイベント堆積物に対しその分布範囲から高潮・高波の可能性を排除できる可能性があるためである.イベント層Ⅲは,粒子形状,内陸細粒化や内陸薄層化,一部の地点で確認された上方細粒化といった堆積学的特徴から,波浪に伴う海側からの運搬が推測される.そして,観測記録を基にした最大規模,あるいはそれを大幅に上回る条件における高潮・高波でイベント堆積物の分布を説明できないことを数値計算により確認し,津波堆積物と認定した.その他のイベント層に関しても,同様に高潮・高波で運搬可能な距離を大きく超えた内陸約720mまで分布が確認されることから,津波堆積物であると認定した.今回用いた高潮・高波の再現計算は津波堆積物の起源を検討するうえで有用であり,認定基準の一つになりうると考えられる.
本研究で認定した津波堆積物の年代から,約1100~2700年前のおよそ1600年間において4度の津波が同地域に襲来したことが示唆される.これらの津波イベントは,津波堆積物の分布域から1896年明治三陸津波や2011年東北太平洋沖津波に匹敵する規模だった可能性が考えられる.