日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS12] 結晶成長、溶解における界面・ナノ現象

2016年5月22日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*木村 勇気(北海道大学低温科学研究所)、三浦 均(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)、塚本 勝男(大阪大学大学院工学研究科)、佐藤 久夫(三菱マテリアル株式会社エネルギー事業センター那珂エネルギー開発研究所)

17:15 〜 18:30

[MIS12-P02] 結晶成長におけるヒステリシスの再現

*三浦 均1 (1.名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)

キーワード:結晶成長、ステップ・ダイナミクス、不純物、ヒステリシス

ステップ・ダイナミクスは,結晶成長における本質的な物理過程のひとつである。結晶表面には原子スケールの高さを持つ段差(ステップ)が存在し,そこに原 子や分子が取り込まれることによってステップが前進し,結晶が一層ずつ積み上げられていく(層成長モデル)。従って,結晶成長メカニズムを解明するには, ステップの供給メカニズムやステップ前進速度を決める物理を理解する必要がある。
ステップ・ダイナミクスは,不純物の存在によって大きく 影響を受ける。成長ヒステリシスは,不純物の存在によって引き起こされる良く知られた現象のひとつである[e.g., 1]。例えば,溶液からの結晶成長の場合,一般的に結晶成長速度は溶液の過飽和度と正の相関がある。しかし,溶液に不純物が含まれている場合,過飽和度を 徐々に減少させながら成長速度を測定した場合と,逆に増加させながら測定した場合とでは,ある過飽和度における成長速度の値が異なる場合がある。この履歴 現象は,結晶表面に吸着した不純物によってステップ前進が阻害される効果と,ステップが頻繁に結晶表面を掃くことで不純物の吸着が抑制される効果の相互作 用によって引き起こされると考えられてきた。成長ヒステリシスに関する従来の理論では,吸着不純物密度やステップ前進速度などの物理量を時間・空間的に平 均化して扱っていた(平均場理論,[e.g., 2-4])。しかし,実際にはこれらの量は結晶面上の場所によって異なり,かつ時間とともに変化するため,平均場理論が実際の系にそのまま適用できるかど うかは自明ではなかった。
本講演では,不純物脱離・吸着過程を考慮したステップ・ダイナミクスの数値計算によって,成長ヒステリシスを再 現した成果[5]について報告する。我々は近年,ステップ・ダイナミクスをフェーズ・フィールド(PF)法に基づいて定量的に扱う手法を開発した [6,7]。これに加えて,不純物脱離・吸着過程をモンテカルロ法(MC)法で計算することにより,吸着不純物密度やステップ前進速度などの物理量の時 間・空間的変化を模擬した。高過飽和度・吸着不純物なしの状態から計算を開始し,一定の率で過飽和度を低下させ,その後増加させるというサイクルを10回 繰り返してステップ前進速度の変化を調べたところ,いずれのサイクルにおいても成長ヒステリシスが現れることを確認した。過飽和度減少時と増加時のステッ プ前進速度履歴をそれぞれ10サイクル分平均したところ,平均場理論の結果[3]とよく一致することが分かった。以上の結果は,数値計算によって成長ヒス テリシスを再現した初めての成果である。本提案手法を応用することで,結晶成長における不純物効果の理解が飛躍的に発展することが期待できる。

参 考文献:[1] R. W. Friddle et al. (2010), PNAS 107, 11. [2] Y. O. Punin and O. I. Artamonova (1989), Kristallographiya 34, 1262. [3] H. Miura and K. Tsukamoto (2013), Cryst. Growth Des. 13, 3588. [4] H. Miura and K. Tsukamoto (2013), Japan Geoscience Union Meeting 2013, abstract MIS31-P05. [5] H. Miura (2016), accepted for publication in Cryst. Growth Des. [6] H. Miura and R. Kobayashi (2015), Cryst. Growth Des. 15, 2165. [7] H. Miura (2015), Cryst. Growth Des. 15, 4142.