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[MIS17-18] 三重県産石筍に記録されたハインリッヒイベントと最終氷期
石筍は,主成分である炭酸カルシウムの安定同位体比・微量元素などに成長時の物理・化学条件を反映している。今回,私たちは三重県霧穴より採集された長さ10cmの石筍KA03を検討した。この石筍はウラン濃度が極めて高く,正確なU-Th年代を提示する。年代測定の結果は,石筍が過去8万年間にほぼ連続的に成長したことを示す。KA03の酸素同位体曲線は中国南部の石筍やグリーンランドの氷床記録と全体的な傾向が似ており,1)ベーリング・アレレード温暖期に起こった値の急激な低下,2)ハインリッヒイベントに対応する同位体比の上昇など汎世界的イベントも認められた。ただし,岐阜県大滝鍾乳洞で確認されたダンスガード・オシュガーサイクルは認められない。また,37kaから最終氷期最盛期にいたる変化が直線的であることも大きな特徴である。酸素同位体比が降水量の指標であるならば,37kaから最終氷期最盛期まで次第に降水量が低下したことになる。本地域は冬季の降水量が少ない場所であり,KA03は日本における東アジア夏季モンスーンの変動を議論する上で重要な記録となる。