日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS17] 古気候・古海洋変動

2016年5月23日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、池原 実(高知大学海洋コア総合研究センター)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、北場 育子(立命館大学古気候学研究センター)、北村 晃寿(静岡大学理学部地球科学教室)、佐野 雅規(総合地球環境学研究所)、多田 隆治(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、中川 毅(立命館大学)、林田 明(同志社大学理工学部環境システム学科)

17:15 〜 18:30

[MIS17-P02] 過去15,000年間における水月湖堆積物への元素状炭素供給量の変動

中井 淑恵1、*入野 智久2鈴木 克明3山田 和芳4長島 佳菜5中川 毅6多田 隆治3 (1.北海道大学 大学院環境科学院、2.北海道大学 大学院地球環境科学研究院、3.東京大学 大学院理学系研究科地球惑星科学専攻、4.静岡県 文化・観光部 文化学術局 ふじのくに地球環境史ミュージアム整備課、5.海洋研究開発機構 地球環境観測研究開発センター、6.立命館大学)

キーワード:元素状炭素、水月湖、完新世

過去のバイオマス燃焼は地質時代には大気中のO2濃度,植生,気候などの自然的要因によって制御されてきたが,完新世に入ってからは自然的要因だけでなく人間活動も影響している事が指摘されており,堆積物に含まれる元素状炭素(EC)を定量して,過去のバイオマス燃焼の変動を復元することが可能である.そこで本研究では,高精度・高解像度の年代モデルを持ち,後背地に12,000年前以降の人間活動の証拠が知られている水月湖堆積物SG12コアを用いてEC供給量の時代変化を評価した.また,ECはサブミクロンサイズのsootと粗粒なcharcoalに分類されるが,大気中を長距離移動しうるsootは堆積物中からはこれまでの研究では着目されていなかったので,堆積物試料を粒度分画した上でEC分析を行い,集水域から流入するcharcoalと大気経由で供給される可能性のあるsootを独立に評価することを試みた.EC分析にはエアロゾル分野で広く使われるThermal optical transmittance (TOT)法を用いた.
堆積物中ECの性質を評価するために,利尻島のエアロゾル試料,水月湖湖水・河川水試料と比較したところ,熱耐性のあるECの割合が,SG12コア試料の粗粒画分で高く,水月湖湖水・河川水試料に似ており,細粒画分ではその割合が低く,利尻エアロゾル試料に近い結果となった.よって粗粒画分が集水域由来の物質を反映し,細粒画分が大気降下物質を反映していることが示唆される.
SG12コアから復元されたECフラックスの年代変化を見ると,粗粒ECフラックスは約6500年前と約2500年前に増加する.しかし,縄文遺跡土壌中に見られる6500-4000年前のチャコールの急増に対応するECフラックスの変動は見られなかった.6500年前の粗粒ECフラックスの増加は,むしろ周辺の植生変化に対応しており森林被覆が減った為であると考えられる.一方,2500年前の急激な増加については弥生時代前期後半の若狭地方での稲作の定着が関連している可能性がある.細粒ECフラックスには周囲の植生変化に同調する変動は見られず,9500年前からのゆっくりした大きな減少と2500年前の大きな増加が特徴的である.これらの変化は,先行研究に示されたアジアモンスーン域のバイオマス燃焼指標の変遷と同調しており,細粒ECフラックスには大陸規模の燃焼史が反映されている可能性がある.