日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS17] 古気候・古海洋変動

2016年5月23日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、池原 実(高知大学海洋コア総合研究センター)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、北場 育子(立命館大学古気候学研究センター)、北村 晃寿(静岡大学理学部地球科学教室)、佐野 雅規(総合地球環境学研究所)、多田 隆治(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、中川 毅(立命館大学)、林田 明(同志社大学理工学部環境システム学科)

17:15 〜 18:30

[MIS17-P17] インドネシアジャワ島のチーク年輪幅を用いた古気候復元の基礎研究

*新井 貴之1渡邊 裕美子1久持 亮1津田 敏隆2田上 高広1 (1.京都大学大学院理学研究科、2.京都大学生存圏研究所)

キーワード:年輪、年輪幅、年輪気候学、年輪年代学

インドネシアは、アジアモンスーン、エルニーニョ南方振動(ENSO)、インド洋ダイポールモード現象(IOD)などの気候システムの影響下にある。これらの気候システムを解明するためには、連続的な地上気象観測データが必要である。しかし熱帯地域の地上気象観測データは少なく、気象データの代替指標が求められる。代替指標にはサンゴや鍾乳石などがあるが、樹木年輪は年代決定精度が高く、高時間分解能を持つという特長がある。熱帯には年輪を形成する樹種が少ないが、チークは熱帯域に生息する年輪を比較的明瞭に形成する樹種であるので、チークの年輪幅や年輪セルロース中の安定同位体比を用いた古気候復元の研究が進められてきた。例えばD’Arrigo et al.(1994)では、チークの年輪曲線と降水量の相関が論じられている。年輪曲線は年輪幅から計算される。しかし、チークは必ずしも同心円状に年輪を形成するとは限らず、測定する場所によって年輪幅が異なる可能性がある。つまり、年輪幅の求め方によって年輪曲線が変化するので、気候因子との相関の論議にも年輪幅測定法の影響が出る。年輪の肥大生長の異方性を薄めた年輪幅測定法がいくつか考案されているが(例えばSchollaen et al., 2013)、それらの測定法には問題点があり、その問題を解決した年輪幅測定法の開発が求められる。
本研究では、インドネシア・ジャワ島東部Cepu産チーク3個体及び同じくジャワ島東部Dungus area産チーク1個体を用いて、チーク年輪に含まれる情報を用いた古気候復元の可能性を検討した。
まず、年輪幅測定法の問題点を解決するために、年輪幅の測定方法や年輪幅の指数化の方法の検討を行った。本研究では、年輪面積から逆算的に年輪幅を求める方法を2種類開発した。1つは「円・扇形近似法」である。これは、1年分の年輪の外周で囲まれた領域と同じ面積を持つ円と、1年分の年輪の内周で囲まれた領域と同じ面積を持つ円の2つの円を考えたとき、前者の円の半径と後者の円の半径の差を年輪幅とする方法である。もう1つは「台形近似法」である。これは、1年分の年輪を円環とみなし、台形の面積公式と同様に円環部の内周・外周・面積から円環の幅、すなわち年輪幅を計算する方法である。
この2つの方法それぞれを用いて、年輪幅を計算した。その結果、「円・扇形近似法」で求めた年輪幅のほうが「台形近似法」で求めた年輪幅よりも大きいという結果が得られた。これは、年輪境界が歪んでいると周の長さが長くなるので、「台形近似法」で計算される年輪幅が小さくなるためであると考えられる。
その後、年輪幅を指数化した。年輪指数は、ある年の年輪幅をその年の前後数年間の平均年輪幅で除すことで求めた。本研究では、「3年移動平均」と「5年移動平均」のそれぞれの場合で、2種類の年輪幅測定法で求めた年輪幅を指数化した。
開発した2種類の測定法で求めたそれぞれの年輪幅を指数化して2種類の年輪指数を作成したところ、両者の値はほぼ一致した。ゆえに、年輪指数を作成する際に用いる年輪幅測定法は、どちらの年輪幅測定法を用いてもよいと示唆された。
また、求めた年輪指数に比較年代測定(cross dating)をして、チーク4個体の年代を決定した。その結果は、西田(2015;卒論)が酸素同位体比によって定めた年代と一致した。よって、年輪指数のみならず、酸素同位体比からも年代を決定できる可能性が示された。
さらに、作成した年輪指数と降水量・南方振動指数(SOI)・ダイポールモード指数(DMI)との相関解析も行った。その結果、4個体中2個体で雨季初期の降水量と正の相関が見られ、Schollaen et al.(2013)と整合的な結果であった。また、4個体全てで生長期直前乾季SOI、4個体中3個体で生長期SOIと正の相関が見られた。これは、Murphy and Whetton (1989)と整合的であった。加えて、4個体中3個体で1年間(8月から7月)の平均SOIとの間に正の相関関係が見られた。また、4個体中2個体で生長期直前乾季のDMIとの間で負の相関が見られた。
以上より、チークは気候因子に対して敏感に反応を示し、古気候の復元に有効な手段であることが再確認された。今後はさらに個体数を増やしたり、別の地域や別の年代の試料を用いたりする必要があるだろう。