日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS17] 古気候・古海洋変動

2016年5月23日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、池原 実(高知大学海洋コア総合研究センター)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、北場 育子(立命館大学古気候学研究センター)、北村 晃寿(静岡大学理学部地球科学教室)、佐野 雅規(総合地球環境学研究所)、多田 隆治(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、中川 毅(立命館大学)、林田 明(同志社大学理工学部環境システム学科)

17:15 〜 18:30

[MIS17-P26] モンゴル西部の湖沼堆積物を用いた完新世後期の古環境変動解析

*早川 翼1勝田 長貴1國分(齋藤) 陽子2長谷部 徳子3村上 拓馬2宮田 佳樹3長谷川 精4長尾 誠也3川上 紳一1柏谷 健二3 (1.岐阜大学教育学部、2.日本原子力開発機構、3.金沢大学環日本海域環境研究センター、4.名古屋大学博物館)

キーワード:アジア大陸内陸部、陸域環境の歴史、太陽活動フォーシング

本研究で対象とするモンゴル西部は偏西風の影響下であり,アジアモンスーンの直接的な影響を受けない半乾燥地帯である。そこの気温の年較差は70度と著しく大きく、気候変化に対する陸域環境の応答を研究する上で最適な地域である。この地域の古気候変動は、数万年単位で見ると氷期に乾燥、間氷期に湿潤の繰り返しで特徴づけられる。これはユーラシア北東部の大陸氷床によるブロッキング効果のためである。一方、数百年~数千年スケールの変動については、氷期・間氷期変動とは逆に、温暖乾燥・寒冷湿潤であることがバイカル湖底堆積物の間氷期の記録(Murakami et al. 2012, QSR)から示唆されている。しかし、その変動要因やメカニズムを検討する上での十分な時間分解能を持ったデータは得られていない。
今回我々は、モンゴル北西部のテルヒンツァーガン湖(以下、TR湖と呼ぶ)と、モンゴル西部のブンツァーガン湖(以下、BT湖と呼ぶ)を対象とし、放射年代測定法(土壌TOCC-14、Pb-210Cs-137)、粒子解析、化学分析などの手法を用いて、そこに記録される古気候・環境変動の解析を行なった。TR湖はバイカル湖集水域内のセレンガ川上流に位置する淡水の湖沼であり、約7000年前に湖北東部のホルゴ火山の噴火活動で生じた溶岩による堰止湖である。一方、BT湖はゴビ砂漠西部の閉鎖系の塩湖であり、流入河川はハンガイ山脈から供給されるハイドラク川を唯一の流入河川に持つ。今回、これらの湖沼で得られたグラビティコアのうち、TR湖コアの2本(全長70 cm)と、BT湖コアの1本(全長30 cm)を用いた。これらコアの堆積年代は放射年代測定によって、TR湖底コアが約3000年(水深20 m)と約6000年(水深8 m)、BT湖底コアが約150年(水深10 m)であった。
TR湖底コアでは、古気温を反映する生物起源シリカ(bioSi)濃度及び全有機炭素(TOC)濃度と、湖水変動となり得る鉱物粒子径(中央粒径)において顕著な変動が見られた。その変動は、bioSiとTOCによる生物生産量が増加する時期に、粒子径の増加(湖水位レベルの低下)で特徴づけられる。これは、バイカル湖で見られた間氷期の温暖乾燥・寒冷湿潤と整合する。さらに、太陽活動指標(Solanki et al. 2004, Nature)との対比から、極小期(シュペーラー極小期、マウンダー極小期)にbioSiとTOCの低下(低生産量)と粒子径の減少(高水位)、極大期(中世の温暖期)でbioSiとTOCの上昇(高生産量)と粒子径の増加(低水位)となる。さらに、1600年以降の太陽活動が増加傾向を示す期間において、bioSiとTOCの増加が見られる。こうした変動曲線は周波数解析によって、太陽活動周期に対応する約88, 約240, 約2400年の卓越周期を持つことが明らかとなった。一方、BT湖底コアについては、数十年スケールの顕著な炭酸塩量の変動が認められる。これは水位変化に伴う塩濃度変動に起因すると考えられる。炭酸塩量の変動は太陽黒点周期とおおよそ一致し、太陽活動の静穏期に炭酸量の低下(高水位)となる。また、その周波数解析では約10-20年の卓越周期であった。以上の結果から、アジア大陸半乾燥地域の気候は、太陽活動の影響を強く受けて変動していることが明らかとなった。