15:30 〜 16:45
[MIS26-P02] 降礫予測における風の影響を考慮した供給源モデルの検討
キーワード:移流拡散モデル、供給源パラメータ、風の影響、火山礫、火山灰、降灰予報
火山噴火発生に伴う降下火砕物のうち, 比較的短時間で降ってくる小さな噴石 (降下火山礫, 以下, 降礫) は, 風の影響を受けると遠地まで輸送されることがある. このため近年の噴火でも, 火口から10数km離れた居住地域まで達した粒径数cmの降礫により, 怪我などの人的被害や自動車のガラス破損といった物的被害が発生している (例えば, 気象庁地震火山部, 2013). このような災害を軽減するために, 2015年3月から始まった気象庁の新しい降灰予報 (Hasegawa et al., 2015; 菅井・他, 2015) では, その定時と速報において, 降灰とともに降礫の予想範囲を発表している. 降灰予報は, 領域移流拡散モデル (JMA-RATM, 以下, RATM) の計算結果に基づくが, その初期値である火山灰・火山礫の供給源モデルにはこれまで, 風の影響を考慮していなかった. このため, 強風時の降灰・降礫の予想範囲は過小傾向になる問題がある.
この課題に対処するために気象研究所では, 鹿児島地方気象台との地方共同研究「桜島噴火に伴う降下火山レキによる被害軽減のための研究」(2014~16年度) の一環として, 高層気象台の測風ライダーを用いた火山近傍での観測 (星野・他, 本セッション) とともに, RATMの供給源モデルの改良を進めている. RATMの初期値は現在, 経験的な供給源モデルであるSuzuki (1983) に依拠しているが, 本研究では特に弱い噴煙において風の影響を考慮するにあたり,
(i) 鉛直分布 (Suzukiの粒子供給率関数) は変えない
(ii) 水平分布のみ井田 (2014) の方法で風下へシフト
の方針を取った. 本発表では, このシンプルな方法を適用した供給源モデルを初期値とする, RATMによる降礫予測について, 2013年桜島噴火や2015年口永良部島噴火などの事例で降灰予測とともに検証する.
風の影響を考慮した物理的な噴煙モデルには, BENTモデル (Bursik, 2001) を始め, SK-3Dモデル (Suzuki and Koyaguchi, 2015) や気象庁非静力学モデル (橋本・他, 本セッション) などの研究がある. これらの成果を, 降灰予報の初期値として運用で活用するためには, あらゆる気象条件の下で, 全国の活火山を対象に, 噴火時に観測できる物理量から, 即時的に作成できることが必要であり, 本研究における改良はそれまでの橋渡しと考えている. また供給源モデルの改良は, 今後, 気象レーダー (例えば, 佐藤・他, 本セッション) や気象衛星ひまわり8号 (例えば, 林・他, 本セッション) による観測値を取り込んだ火山灰データ同化 (石井・他, 本セッション) に基づく解析値 (初期値) 作成において, その第一推定値を改善する意味でも重要になる.
参考文献
Bursik, M., 2001: Effect of wind on the rise height of volcanic plumes. Geophys. Res. Lett., 28, 3621-3624.
Hasegawa, Y., A. Sugai, Yo. Hayashi, Yu. Hayashi, S. Saito and T. Shimbori, 2015: Improvements of Volcanic Ash Fall Forecasts issued by the Japan Meteorological Agency. J. Appl. Volcanol., 4: 2.
井田喜明, 2014: 自然災害のシミュレーション入門. 朝倉書店, pp. 139-154.
気象庁地震火山部, 2013: 降灰予報の高度化に向けた検討会 報告書, p. 259.
菅井 明・黒木英州・林 洋介・新堀敏基, 2015: 新しい降灰予報について. 日本火山学会講演予稿集, 155.
Suzuki, T., 1983: A theoretical model for dispersion of tephra: Arc Volcanism. TERRAPUB, pp. 95-113.
Suzuki, Y. J. and T. Koyaguchi, 2015: Effects of wind on entrainment efficiency in volcanic plumes. J. Geophys. Res., 120, 6122-6140.
この課題に対処するために気象研究所では, 鹿児島地方気象台との地方共同研究「桜島噴火に伴う降下火山レキによる被害軽減のための研究」(2014~16年度) の一環として, 高層気象台の測風ライダーを用いた火山近傍での観測 (星野・他, 本セッション) とともに, RATMの供給源モデルの改良を進めている. RATMの初期値は現在, 経験的な供給源モデルであるSuzuki (1983) に依拠しているが, 本研究では特に弱い噴煙において風の影響を考慮するにあたり,
(i) 鉛直分布 (Suzukiの粒子供給率関数) は変えない
(ii) 水平分布のみ井田 (2014) の方法で風下へシフト
の方針を取った. 本発表では, このシンプルな方法を適用した供給源モデルを初期値とする, RATMによる降礫予測について, 2013年桜島噴火や2015年口永良部島噴火などの事例で降灰予測とともに検証する.
風の影響を考慮した物理的な噴煙モデルには, BENTモデル (Bursik, 2001) を始め, SK-3Dモデル (Suzuki and Koyaguchi, 2015) や気象庁非静力学モデル (橋本・他, 本セッション) などの研究がある. これらの成果を, 降灰予報の初期値として運用で活用するためには, あらゆる気象条件の下で, 全国の活火山を対象に, 噴火時に観測できる物理量から, 即時的に作成できることが必要であり, 本研究における改良はそれまでの橋渡しと考えている. また供給源モデルの改良は, 今後, 気象レーダー (例えば, 佐藤・他, 本セッション) や気象衛星ひまわり8号 (例えば, 林・他, 本セッション) による観測値を取り込んだ火山灰データ同化 (石井・他, 本セッション) に基づく解析値 (初期値) 作成において, その第一推定値を改善する意味でも重要になる.
参考文献
Bursik, M., 2001: Effect of wind on the rise height of volcanic plumes. Geophys. Res. Lett., 28, 3621-3624.
Hasegawa, Y., A. Sugai, Yo. Hayashi, Yu. Hayashi, S. Saito and T. Shimbori, 2015: Improvements of Volcanic Ash Fall Forecasts issued by the Japan Meteorological Agency. J. Appl. Volcanol., 4: 2.
井田喜明, 2014: 自然災害のシミュレーション入門. 朝倉書店, pp. 139-154.
気象庁地震火山部, 2013: 降灰予報の高度化に向けた検討会 報告書, p. 259.
菅井 明・黒木英州・林 洋介・新堀敏基, 2015: 新しい降灰予報について. 日本火山学会講演予稿集, 155.
Suzuki, T., 1983: A theoretical model for dispersion of tephra: Arc Volcanism. TERRAPUB, pp. 95-113.
Suzuki, Y. J. and T. Koyaguchi, 2015: Effects of wind on entrainment efficiency in volcanic plumes. J. Geophys. Res., 120, 6122-6140.