日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS34] 2016年熊本地震および関連する地殻活動

2016年5月25日(水) 10:45 〜 12:10 コンベンションホールA (2F)

11:35 〜 11:50

[MIS34-09] 2016年熊本地震による南阿蘇村周辺域の斜面災害の特徴

*宮縁 育夫1 (1.熊本大学教育学部)

キーワード:2016年熊本地震、斜面崩壊、岩屑なだれ、テフラ層

2016年4月16日午前1時25分に発生したMj7.3の熊本地震(本震)によって熊本県から大分県を中心とする地域で甚大な災害が発生した.とくに熊本県阿蘇郡南阿蘇村では震度6強の揺れに襲われ,多数の建物倒壊とともに,100箇所以上の斜面崩壊が起こり,死者15名,行方不明者1名を出す大惨事となった.筆者はこの災害発生後から同村とその周辺域において現地調査を行い,2016年熊本地震によって発生した斜面崩壊の実態を明らかにしたので,その結果を報告する.
4月16日未明の熊本地震による斜面崩壊の発生地域は,南阿蘇村を含む阿蘇カルデラ西部地域を中心としている.そうした斜面崩壊は阿蘇カルデラ壁斜面の崩壊と中央火口丘群斜面の崩壊に大きく区分することができる.前者については阿蘇カルデラの北西~西側壁の急斜面で大小さまざまな規模の崩壊が認められる.この地域の阿蘇カルデラ壁の標高差は300~450 m程度であり,大部分は先阿蘇火山岩類の安山岩からなる傾斜25度を越える斜面で崩壊が発生している.最大の崩壊は黒川に架かっていた阿蘇大橋の西側斜面で起こったもので,崩壊頂部の位置は標高710 m付近で,崩壊の高さは約300 m,幅130~200 mに達しており(いずれも土砂が堆積する部分を含む),国道57号線とJR豊肥本線を寸断した.遠望観察によると,明瞭なすべり面は認められず.崩壊面にはほぼ水平に堆積した先阿蘇火山岩類の溶岩や火砕岩などが確認できる.強い地震動によってカルデラ壁急斜面に存在した不安定な溶岩・火砕岩がクラックなどに沿って崩壊したのであろう.
後者の中央火口丘群斜面の崩壊は今回の地震災害を特徴づける現象である.この崩壊は急斜面でも起こっているが,傾斜10度以下の緩斜面でも発生していることが特筆すべき点である.中央火口丘群西側斜面は,玄武岩から流紋岩に及ぶ広い組成の溶岩・火砕岩が分布しているが,そうした火山岩を厚さ数m~数10 mの未固結なテフラ層(おもにシルト質火山灰と土壌層)が覆っている.大部分の斜面崩壊は深さ4~8 m程度であり,溶岩を覆うテフラ層内で起こっていることが現地調査の結果,明らかとなった.また,崩壊した土砂は緩傾斜であるにもかかわらず,標高差の割に長距離(<600 m)流下していることが特徴である.堆積物は径数m程度のテフラブロックからなり,それらは水で運搬された形跡が認められないという産状も含めると,崩壊発生の直後に岩屑なだれが発生したと考えられる.高野尾羽根火山の山麓に位置する高野台地区を襲ったのは,この岩屑なだれであり,住宅を半壊させるとともに死者5名を出す大惨事となった.
2016年熊本地震に伴って発生した斜面災害は,2012年7月などの豪雨による土砂災害とは異なった特徴を有している.強い地震動によっては,緩斜面であっても崩壊が発生して,その崩壊土砂が岩屑なだれ化して長距離運搬され,人命や建物に甚大な被害を及ぼすことが明らかとなった.