17:15 〜 18:30
[MIS34-P11] Matched Filter Methodによる2016年熊本地震の自動震源決定処理の試み
キーワード:2016年熊本地震、自動震源決定処理、マッチドフィルター法
§はじめに:
活発な地震活動の初期段階において,震源分布等の情報の把握の重要性はいうまでもないことである.昨今は気象庁(JMA)や防災科学技術研究所(NIED)などによる自動震源決定処理の精度が向上し,それらの情報を参照することで地震活動の推移を把握することも容易になってきた.しかしながら,状況によっては,それらの情報の入手を待つ時間すら惜しい場合もあり,ある程度の自前の震源決定処理を行わざるを得ないこともままある.しかしながら,昨今の観測点数の増加および熟達した検測者の減少により,特に速報的な情報を要する際にはこのような作業が次第に困難となりつつある.このような目的に対応するため,これまで著者はMatched Filter Method(MFM)を用いた自動震源決定処理システムを開発して,飛騨山脈の群発地震に対応するシステムを試験運用している(大見,2015).飛騨山脈の場合には,比較的狭い地域を対象としているが,熊本地震の場合には活動開始から数日間で九州を横断するかのごとく震源分布が広がっていくという特異なものであった.このような地震活動の震源決定の自動処理をMFM法で行う方法を検討し試験的に運用してみたので報告する.
§MFMによる自動処理の概要:
本手法では,始めに,MFMで使用するためのテンプレートとなる地震波形を用意する.テンプレート地震は手動検測により震源決定を行い,P波・S波の到着時刻,最大振幅等の情報を波形とともに利用する.そこでは,別途運用中の旧来の自動処理システムの結果を参照しながら,MFMで検知できていない地震活動が発生した際にはその地震活動に適用できる新規のテンプレートを適宜手動で作成する.1時間ごとの準実時間処理において,テンプレート地震の波形と,連続収録された地動波形の相関係数の時系列CC(t)を計算することにより,イベントの検出を行う. CC(t)の中で,相関係数がある閾値min_cceを越えるものについて,同様の波形が出現したと考える.この操作をすべての観測点・成分の波形に対して行った後,すべてのCC(t)を合算する.この合算値の標準偏差を求め,合算値を標準偏差と総成分数で割った時系列データをNetwork Correlation Coefficient (NCC)と定義する.NCCが一定の閾値を超えると,イベントが発生したと判断する.ここでは,min_cceを0.4とし,また,NCCが8.0を超えるとイベントが発生したと判断した.もしも,テンプレート地震と検出されたイベントが全く同じ位置で発生しているのであれば,NCCが最大値を取る時刻と,各CC(t)が最大値を取る時刻は一致するはずであるが,一般にはそうはならない.これらの時刻の差を,検出されたイベントの各観測点での走時の補正値として使用することで検出されたイベントの走時データを構築する.また,CC(t)計算時に,テンプレート地震と連続波形データの振幅比の時系列も保存しており,これを用いて検出されたイベントの最大振幅の近似値を算出し,マグニチュードの算出に使用する.これらの情報を用いて,過去1時間の連続データ中に検出されたイベントの震源決定を個別に行う.
§熊本地震での実装の問題点
MFM法の欠点としては,テンプレート地震を設定していない地域で発生したイベントには,原理上対処できないという点があげられる.飛騨山脈での実装の際には,対象地域が比較的狭く,かつ,地震の発生する地域も限られているため,テンプレート地震を手動で作成するという作業でも地震活動の推移に追いつくことがある程度可能であった.しかしながら,熊本地震の際には,震源の移動範囲が広く,個々のクラスタに対応するテンプレートをすべて手動で作成することは困難を極めた.そのため,今回は,半自動処理とでも呼べる方法で対応を試みた.
§熊本地震の半自動処理の概要
上述のように,個別に手動でテンプレートを設定することは現実的ではないので,テンプレート地震を自動的に生成することを考えた.システム上では旧来のSTA/LTAによりトリガをかける方式の自動処理システムも運用しているため,これらを組み合わせることとした.ここでは,旧来のシステムで比較的高精度に自動震源決定できたイベントをテンプレートとして新たに加えていくことでこれを実現した.ただし,従来どおりのトリガロジックで運用を行うと,テンプレート数が膨大になってしまうため,STA/LTAを大きめに設定し,比較的S/Nがよいイベントだけを検出してテンプレートとすることとした.使用したデータは,大学・NIED・JMA等のリアルタイムデータ流通網で入手可能な九州中部の約80点の短周期高感度地震波形データである.テンプレート地震は,自動処理の結果に基づき1時間ごとに作成され,これにより連続データのスキャンを行う.テンプレート数が時間とともに増加すること,1時間以内に処理を終えることという制約から,テンプレート地震の発生時刻の前24時間と後96時間のみの連続データをスキャンすることとした.それぞれのテンプレートは別途手動で検測を行い,随時,再度のスキャンを行うようにした.
§結果と考察:
ここでは,2016年4月14日21時から4月22日0時までの7日間の結果の概要を述べる.この期間に,約300個のテンプレート地震が作成された.これら300個の手動検測が終了した段階で再度スキャンを実行した結果,震源域に6400個強の地震を検出し,その分布はJMAの再検測震源のそれとも調和的である.しかし,詳細に検討すると問題点も見出される.まず,これまでの飛騨山脈での運用例では,必要と思われる地震は目視で確認してテンプレートとして導入しており,その意味で取りこぼしがない.しかしながら,本報告の場合,テンプレートの作成は自動処理結果によっているため,自動処理で検知に失敗したイベントが含まれるクラスタは検知できないことになる. 特に,M5クラスのイベントが発生した際や,大きめのイベントが連続発生したような場合には従来型の自動処理システムでの取りこぼしや自動処理の失敗が多く,課題であった.また,STA/LTAを大きく設定していることから,Mの小さなイベントではトリガされず,MFM適用後でも小さめの地震の取りこぼしが多い印象がある.本システムでは期間中に6400個強の地震を検出したが,5月12日現在でのJMAの再検測震源リストでは同時期に2700個弱のイベントが震源決定されている.震源分布の特徴的なパターンは概して両者で共通であり,本手法によるデータは速報値としては価値があると考えられる.
活発な地震活動の初期段階において,震源分布等の情報の把握の重要性はいうまでもないことである.昨今は気象庁(JMA)や防災科学技術研究所(NIED)などによる自動震源決定処理の精度が向上し,それらの情報を参照することで地震活動の推移を把握することも容易になってきた.しかしながら,状況によっては,それらの情報の入手を待つ時間すら惜しい場合もあり,ある程度の自前の震源決定処理を行わざるを得ないこともままある.しかしながら,昨今の観測点数の増加および熟達した検測者の減少により,特に速報的な情報を要する際にはこのような作業が次第に困難となりつつある.このような目的に対応するため,これまで著者はMatched Filter Method(MFM)を用いた自動震源決定処理システムを開発して,飛騨山脈の群発地震に対応するシステムを試験運用している(大見,2015).飛騨山脈の場合には,比較的狭い地域を対象としているが,熊本地震の場合には活動開始から数日間で九州を横断するかのごとく震源分布が広がっていくという特異なものであった.このような地震活動の震源決定の自動処理をMFM法で行う方法を検討し試験的に運用してみたので報告する.
§MFMによる自動処理の概要:
本手法では,始めに,MFMで使用するためのテンプレートとなる地震波形を用意する.テンプレート地震は手動検測により震源決定を行い,P波・S波の到着時刻,最大振幅等の情報を波形とともに利用する.そこでは,別途運用中の旧来の自動処理システムの結果を参照しながら,MFMで検知できていない地震活動が発生した際にはその地震活動に適用できる新規のテンプレートを適宜手動で作成する.1時間ごとの準実時間処理において,テンプレート地震の波形と,連続収録された地動波形の相関係数の時系列CC(t)を計算することにより,イベントの検出を行う. CC(t)の中で,相関係数がある閾値min_cceを越えるものについて,同様の波形が出現したと考える.この操作をすべての観測点・成分の波形に対して行った後,すべてのCC(t)を合算する.この合算値の標準偏差を求め,合算値を標準偏差と総成分数で割った時系列データをNetwork Correlation Coefficient (NCC)と定義する.NCCが一定の閾値を超えると,イベントが発生したと判断する.ここでは,min_cceを0.4とし,また,NCCが8.0を超えるとイベントが発生したと判断した.もしも,テンプレート地震と検出されたイベントが全く同じ位置で発生しているのであれば,NCCが最大値を取る時刻と,各CC(t)が最大値を取る時刻は一致するはずであるが,一般にはそうはならない.これらの時刻の差を,検出されたイベントの各観測点での走時の補正値として使用することで検出されたイベントの走時データを構築する.また,CC(t)計算時に,テンプレート地震と連続波形データの振幅比の時系列も保存しており,これを用いて検出されたイベントの最大振幅の近似値を算出し,マグニチュードの算出に使用する.これらの情報を用いて,過去1時間の連続データ中に検出されたイベントの震源決定を個別に行う.
§熊本地震での実装の問題点
MFM法の欠点としては,テンプレート地震を設定していない地域で発生したイベントには,原理上対処できないという点があげられる.飛騨山脈での実装の際には,対象地域が比較的狭く,かつ,地震の発生する地域も限られているため,テンプレート地震を手動で作成するという作業でも地震活動の推移に追いつくことがある程度可能であった.しかしながら,熊本地震の際には,震源の移動範囲が広く,個々のクラスタに対応するテンプレートをすべて手動で作成することは困難を極めた.そのため,今回は,半自動処理とでも呼べる方法で対応を試みた.
§熊本地震の半自動処理の概要
上述のように,個別に手動でテンプレートを設定することは現実的ではないので,テンプレート地震を自動的に生成することを考えた.システム上では旧来のSTA/LTAによりトリガをかける方式の自動処理システムも運用しているため,これらを組み合わせることとした.ここでは,旧来のシステムで比較的高精度に自動震源決定できたイベントをテンプレートとして新たに加えていくことでこれを実現した.ただし,従来どおりのトリガロジックで運用を行うと,テンプレート数が膨大になってしまうため,STA/LTAを大きめに設定し,比較的S/Nがよいイベントだけを検出してテンプレートとすることとした.使用したデータは,大学・NIED・JMA等のリアルタイムデータ流通網で入手可能な九州中部の約80点の短周期高感度地震波形データである.テンプレート地震は,自動処理の結果に基づき1時間ごとに作成され,これにより連続データのスキャンを行う.テンプレート数が時間とともに増加すること,1時間以内に処理を終えることという制約から,テンプレート地震の発生時刻の前24時間と後96時間のみの連続データをスキャンすることとした.それぞれのテンプレートは別途手動で検測を行い,随時,再度のスキャンを行うようにした.
§結果と考察:
ここでは,2016年4月14日21時から4月22日0時までの7日間の結果の概要を述べる.この期間に,約300個のテンプレート地震が作成された.これら300個の手動検測が終了した段階で再度スキャンを実行した結果,震源域に6400個強の地震を検出し,その分布はJMAの再検測震源のそれとも調和的である.しかし,詳細に検討すると問題点も見出される.まず,これまでの飛騨山脈での運用例では,必要と思われる地震は目視で確認してテンプレートとして導入しており,その意味で取りこぼしがない.しかしながら,本報告の場合,テンプレートの作成は自動処理結果によっているため,自動処理で検知に失敗したイベントが含まれるクラスタは検知できないことになる. 特に,M5クラスのイベントが発生した際や,大きめのイベントが連続発生したような場合には従来型の自動処理システムでの取りこぼしや自動処理の失敗が多く,課題であった.また,STA/LTAを大きく設定していることから,Mの小さなイベントではトリガされず,MFM適用後でも小さめの地震の取りこぼしが多い印象がある.本システムでは期間中に6400個強の地震を検出したが,5月12日現在でのJMAの再検測震源リストでは同時期に2700個弱のイベントが震源決定されている.震源分布の特徴的なパターンは概して両者で共通であり,本手法によるデータは速報値としては価値があると考えられる.