17:15 〜 18:30
[MIS34-P23] 2016年熊本地震震源域周辺の応力場
キーワード:応力場、摩擦強度、メカニズム解、断層構造、2016年熊本地震
2016年4月14日21時26分に、熊本県の布田川 - 日奈久断層帯において、 M6.5の地震が発生した。更に、その2日後の4月16日の1時25分には、M7.3の地震が発生した。それぞれ、日奈久断層と布田川断層上で大きなすべりを生じたことがGPSや強震動波形記録を用いた推定により明らかになっている。顕著な地震活動の活発化が、東北東-西南西走向の断層帯沿いの広い範囲で見られ、およそ 100km東に離れた大分にまで及んでいる。
一連の地震の発生機構の理解のためには、応力・強度の時間発展の理解が不可欠である。そこで、本研究では、震源域周辺の応力・強度について知見を得る目的で、小~中地震のメカニズム解解析により、応力方向の空間分布を求め、その時間発展を調べた。
最初に、応力場の詳細な空間変化を調べるために、震源域周辺の地震の震源再決定を行った。まず、1997年以降 2016年5月4日までに発生した11,154個の地震について、気象庁一元化カタログおよびHi-netルーチンカタログに記載された P波・S波走時データを統合し、新たな P波・S波走時のデータセットを作成した。次に、それらのデータセットを用いて、九州大学のルーチン一次元速度構造を仮定して、single event location法を用いて初期震源を決めなおした。最後に、それらのデータセットにDouble Difference法 (Waldhauser & Ellsworth, 2000)を適用し、震源再決定を行った。得られた震源分布は、全体としては複雑な様相を呈するものの、個々には、面上に収斂した微細な断層構造を見ることができる。特に、M7.3の本震発生前には、やや西傾斜の鉛直に近い面状の震源の並びが現れ、本震の震源は、その下端に位置する。
次に、震源域で発生した小~中地震 (M~0.1 – ~3.5)のメカニズム解の推定を行った。Hi-netルーチンカタログのP波初動極性データを用いて、2001-2015/5/4に発生した地震にHASH program (Hardebeck & Shearer, 2002)を適用した。その結果、解が高精度 (rank A, B)に求まった 991個の解が得られた。これに、AQUA Hi-net、F-netにより推定されたモーメントテンソル解を統合して、1104個のメカニズム解データセットを作成した。
得られたデータセットを用いて、応力テンソル・インバージョン法により、応力方向の時間・空間発展を調べた。最初に、全期間を 1) 1997 - 2016/4/14 M6.5の地震、2) 2016/4/14 M6.5- 4/16 M 7.3の本震、3) 2016/4/16 M7.3 の本震 – 2016/5/4の3つの期間に分けて、それぞれの期間内で応力方向を調べた。空間分布を求めるために、各メカニズム解の位置を中心にして、周辺 5 kmに含まれるメカニズム解を近い順に 10 - 15個選び出し、それぞれにSlick code (Michael, 1987)を適用した。
1) 2016/4/14 M6.5地震以前の期間に得られた応力方向は、布田川-日奈久断層帯を挟んで異なる特徴を持つ。北側ではσ3軸が南北に近い北北西-南南東の正断層場が卓越するのに対して、南側ではσ3軸が北西に近い横ずれ断層場が卓越する。この南北での応力方向の違いは、Matsumoto et al. (2015)による推定結果と一致し、布田川-日奈久を通る断層帯に沿ったブロック境界の横ずれ運動 (e.g. Nishimura & Hashimoto, 2006)により定性的には理解できる。 ブロック境界に位置する4/14 M6.5の地震、4/16 M7.3 の本震の震源域周辺は北側のグループに属し、σ3軸がほぼ南北方向を向く。
2) 4/14 M6.5地震以降4/16本震までの期間におけるM6.5 地震震源域のσ3軸方向は、北北西-南南東を向く。すなわち、σ3軸が反時計回りに約 13度回転し、南側のグループに属すようになった。95%信頼範囲でみると、この応力軸の回転は有意である。
3) 2016/4/16の本震後、本震の震源域では、σ3軸が反時計周りに回転し北北西-南南東を向くようになり、同様に南側のグループに属すようになった。ただし、95%信頼範囲でみると有意ではない。さらに、本震震源の周辺では、σ3軸の方向が局所的に変化し、北東-南西方向を向く。この北東-南西方向のσ3軸は、本震の右横ずれすべりに起因する静的応力変化により定性的には説明可能であり、本震時に形成された可能性がある。これらのことは、震源域周辺の偏差応力が非常に小さいことを示唆し、間隙流体等の効果による摩擦強度の低下が、地震発生に密接に関わっている可能性を示す。
一連の地震の発生機構の理解のためには、応力・強度の時間発展の理解が不可欠である。そこで、本研究では、震源域周辺の応力・強度について知見を得る目的で、小~中地震のメカニズム解解析により、応力方向の空間分布を求め、その時間発展を調べた。
最初に、応力場の詳細な空間変化を調べるために、震源域周辺の地震の震源再決定を行った。まず、1997年以降 2016年5月4日までに発生した11,154個の地震について、気象庁一元化カタログおよびHi-netルーチンカタログに記載された P波・S波走時データを統合し、新たな P波・S波走時のデータセットを作成した。次に、それらのデータセットを用いて、九州大学のルーチン一次元速度構造を仮定して、single event location法を用いて初期震源を決めなおした。最後に、それらのデータセットにDouble Difference法 (Waldhauser & Ellsworth, 2000)を適用し、震源再決定を行った。得られた震源分布は、全体としては複雑な様相を呈するものの、個々には、面上に収斂した微細な断層構造を見ることができる。特に、M7.3の本震発生前には、やや西傾斜の鉛直に近い面状の震源の並びが現れ、本震の震源は、その下端に位置する。
次に、震源域で発生した小~中地震 (M~0.1 – ~3.5)のメカニズム解の推定を行った。Hi-netルーチンカタログのP波初動極性データを用いて、2001-2015/5/4に発生した地震にHASH program (Hardebeck & Shearer, 2002)を適用した。その結果、解が高精度 (rank A, B)に求まった 991個の解が得られた。これに、AQUA Hi-net、F-netにより推定されたモーメントテンソル解を統合して、1104個のメカニズム解データセットを作成した。
得られたデータセットを用いて、応力テンソル・インバージョン法により、応力方向の時間・空間発展を調べた。最初に、全期間を 1) 1997 - 2016/4/14 M6.5の地震、2) 2016/4/14 M6.5- 4/16 M 7.3の本震、3) 2016/4/16 M7.3 の本震 – 2016/5/4の3つの期間に分けて、それぞれの期間内で応力方向を調べた。空間分布を求めるために、各メカニズム解の位置を中心にして、周辺 5 kmに含まれるメカニズム解を近い順に 10 - 15個選び出し、それぞれにSlick code (Michael, 1987)を適用した。
1) 2016/4/14 M6.5地震以前の期間に得られた応力方向は、布田川-日奈久断層帯を挟んで異なる特徴を持つ。北側ではσ3軸が南北に近い北北西-南南東の正断層場が卓越するのに対して、南側ではσ3軸が北西に近い横ずれ断層場が卓越する。この南北での応力方向の違いは、Matsumoto et al. (2015)による推定結果と一致し、布田川-日奈久を通る断層帯に沿ったブロック境界の横ずれ運動 (e.g. Nishimura & Hashimoto, 2006)により定性的には理解できる。 ブロック境界に位置する4/14 M6.5の地震、4/16 M7.3 の本震の震源域周辺は北側のグループに属し、σ3軸がほぼ南北方向を向く。
2) 4/14 M6.5地震以降4/16本震までの期間におけるM6.5 地震震源域のσ3軸方向は、北北西-南南東を向く。すなわち、σ3軸が反時計回りに約 13度回転し、南側のグループに属すようになった。95%信頼範囲でみると、この応力軸の回転は有意である。
3) 2016/4/16の本震後、本震の震源域では、σ3軸が反時計周りに回転し北北西-南南東を向くようになり、同様に南側のグループに属すようになった。ただし、95%信頼範囲でみると有意ではない。さらに、本震震源の周辺では、σ3軸の方向が局所的に変化し、北東-南西方向を向く。この北東-南西方向のσ3軸は、本震の右横ずれすべりに起因する静的応力変化により定性的には説明可能であり、本震時に形成された可能性がある。これらのことは、震源域周辺の偏差応力が非常に小さいことを示唆し、間隙流体等の効果による摩擦強度の低下が、地震発生に密接に関わっている可能性を示す。