日本地球惑星科学連合2016年大会

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[M-IS34] 2016年熊本地震および関連する地殻活動

2016年5月25日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

17:15 〜 18:30

[MIS34-P39] SAR干渉画像による平成28年熊本地震で生じた小変位の地表断層群の抽出

*藤原 智1矢来 博司1小林 知勝1森下 遊1中埜 貴元1宮原 伐折羅1仲井 博之1三浦 優司1上芝 晴香1撹上 泰亮1宇根 寛1 (1.国土交通省 国土地理院)

キーワード:平成28年熊本地震、干渉SAR、断層

1.はじめに

平成28年熊本地震では地表の広範囲で地殻変動による変位が生じている。地表変位の大部分は震源断層の断層運動で説明できるものの、地表にはより小さく複雑な変位が数多く現れており、地表に現れた断層(地表断層)の分布とその成因は地震像を明らかにすることに大いに役立つ。これらの中には、連続した亀裂等となっていて震源断層が地表に出現したのではないかと報告されているものもあるほか、震源断層から枝分かれしている副次的な断層や強震動等に誘発されて地質的弱面が地すべり的に動いているものもありうる。しかしながら、地上での観測だけからは網羅的かつ詳細に調査することは困難である。
本報告は人工衛星の干渉SARを用いて地表断層を抽出するものである。干渉SARを利用することで、面的に見落としなく地表の変位量を求め、さらに変位方向、変位量や変位の場所的広がりを解析することができ、これらの地表断層の成因を推定する強力なツールとなる。

2.だいち2号のSAR干渉画像

国土地理院では、JAXAが運用する人工衛星「だいち2号」を用いて、本震を含む期間及び地震後の余効変動のみを含む期間のSAR干渉画像を複数解析し、地表の変位の空間分布を求めている。ここで、複数のSAR干渉画像に現れる細かなリニアメント(線状の変位)を目視で抽出し初期的なマッピングを行った。リニアメントの長さは数百m以上で、数kmにわたるものも多い。リニアメントをはさんだ変位量の差は数cm~10数cm程度であり、また、地表に必ずしも断層断面が露出しているのではなく、撓曲として現れているものが多いため、地上の調査ではまず見つからないものがほとんどである。
本報告では地表の変位がリニアメントとして存在するものを地表断層と呼ぶことにするが、地表断層(地表のずれ)と震源断層(地震動を引き起こす)は必ずしも一致しないことに注意が必要である。

3.地表断層の特徴

阿蘇の外輪山から、布田川断層帯、日奈久断層帯沿いのみならず熊本市内の水前寺公園付近に至るまで、求められた地表断層は200以上に及び、非常に多くの小変位の地表断層が出現しており(図参照)、以下にその特徴をまとめる。

(1)場所ごとに地表断層の走向や変位形態は類似したものが集中しており、グループ(群)を成している。つまり、場所ごとに同じ原因が働いて同様な地表断層群が現れたことを示唆する。特に外輪山北西部の西北西-東南東の地表断層群(階段状の縦ずれ変位)が数も多く目立つ。
(2)地表断層の走向は、既知の活断層(布田川断層帯等)と平行か共役となり、成因が本地域の応力場に関連している。
(3)位置が既知の活断層と一致するものもあるが、既知のものより遙かに多くを抽出でき、同じ走向をもつ地表断層がほぼ等間隔で平行に数多く並ぶことが多い。
(4)地表断層による変位はほとんどその断層周囲にのみに現れており、地下深くで変位したとは認められず、主たる震源断層との直接のつながりが見られるものは一部である。
(5)空中写真や現地調査から見いだされた地表の亀裂の場所は、強震動等のため不統一な変位を起こしており、SAR干渉画像上では非干渉になっているものが多い。特に益城町から西原村の既知の布田川断層帯に沿って非干渉域が帯状に連なり、周囲の地殻変動パターンからしてもこの布田川断層帯が震源断層であることは確実である。西原村では帯状の非干渉域の南約2kmに平行した地表断層群が存在し、非干渉域と地表断層群との間にブロック的に複雑で大きな変位が多く見られ、震源断層から副次的な断層が分かれていることが示唆される。
(6)地震後の余効変動の多くが地表断層群に沿って現れており、本震後にも地表断層群周囲での応力の解放があると推定される。ただし、外輪山周囲の地表断層群には余効変動が見られず、成因の違いが示唆される。
(7)熊本市内西部の金峰山周辺では第四紀火山が1kmほどにわたって割れるような変位が複数見られた。このほか、リニアメントではないが、平野部で旧河川跡が液状化等で非干渉になった地域や傾斜地での地すべりの発生が抽出できており、地盤災害の把握にも利用できる。

4.まとめ

今回見いだされた地表断層群は、本震等を引き起こした震源断層の地表延長としてではなく、地表面近くの応力等の解放のため、既存の弱面としての断層やその周囲がしわのように割れ目となったものが大部分であろう。また、一部にはブロック的に地すべり状の変位を示しているものもある。
同様の変位は兵庫県南部地震の際にも数多く見られており(参考文献)、地震動の分布や地域ごとの応力過程を考えるのに有力な手がかりとなりうるであろう。

参考文献:藤原他,2000,干渉SARによって得られた地表変位の勾配解析による1995年兵庫県南部地震の地表断層位置推定,地震2,53,127-136.