17:15 〜 18:30
[MIS34-P42] 平成28年熊本地震に伴う地殻変動とその阿蘇山のマグマだまりへの影響
キーワード:熊本地震、阿蘇山、地殻変動、マグマだまり
熊本県において平成28年4月14日にMj6.5の地震(前震)が発生し,さらに4月16日にMj7.3の地震(本震)が発生した。火山活動が活発化傾向にある阿蘇山は,震央の東方近傍に位置しており,その火山活動がこの地震に影響を受ける可能性が懸念される。そこで,本研究においては,SAR干渉法を用いて本地震に伴う地殻変動を検出し,得られた地殻変動から断層モデルの推定を行い,その断層モデルに基づいて,地殻変動が阿蘇山のマグマだまりに与える影響を見積もる。
地殻変動の検出においては,日本の陸域観測技術衛星「だいち2号」のPALSAR-2データを用いた。前震と本震の間の期間においては,南行軌道における左方向視による観測(西上空からの観測)が行われており,地震前に取得されたデータとの干渉ペアを解析したところ,日奈久断層北端部の西側にスラントレンジ短縮と伸長の領域が求まった。このスラントレンジ変化分布は,日奈久断層と同じ走向を持つ断層面における約1mの右横ずれで説明できる。本震発生以降,PALSAR-2による観測は複数の軌道から異なる観測モードで行われており,Mj7.3の本震に関する解析においては6軌道から観測された画像を使用した。すべての干渉画像において,布田川断層に沿ったスラントレンジ変化の不連続がみられた。また,日奈久断層と布田川断層の東延長部においては,スラントレンジ変化の急変帯がみられた。特に,布田川断層の東延長部は,阿蘇カルデラに入った付近でその走向が北東に変化しているようにみえることが特徴の一つである。大まかには,東上空から観測された画像を解析した結果においては,布田川断層の北側でスラントレンジの短縮,南側で伸長の変化が見られ,西上空からの観測画像を解析した結果においては,その逆の変化が見られた。これは断層の右横ずれでおおよそ説明できる。しかし,南行軌道の右方向視による画像(東上空からの観測)を解析した結果においては,西原村付近で断層をまたいでスラントレンジ短縮変化が見られ,これを説明するためにはより複雑な断層メカニズムを考慮する必要がある。これらのスラントレンジ変化分布を説明する断層モデルを求めたところ,布田川断層と日奈久断層の北端部,布田川断層の東端から北東に伸びる断層の右横ずれと,西原村付近の低角の断層の正断層成分を伴う右横ずれで,得られた地殻変動をおおよそ説明することができた。本震後発生後に取得されたデータペアの解析においては,断層周辺で局所的な変動がみられたが,火山活動に伴うような地殻変動は見られなかった。防災科学技術研究所の火山観測網(V-net)によっても,本稿提出時点では,阿蘇山の火山活動に顕著な変化は見られていない。
以上の解析で求めた断層モデルを用い,有限要素法により変位場・応力場を計算し,阿蘇山下のマグマたまりへの影響評価を行った。地震・地殻変動による影響は,静的・準静的・動的の3つがあるが,今回は静的の影響のみを考える。阿蘇山では須藤(2006)により草千里の南側深さ6km程度に減圧源があるとされており,マグマたまりの存在が示唆される。また,Abe et al. (2010)では地下15~20kmシルの存在が指摘されている。今回の断層の深さを鑑み,後者よりも前者への影響が顕著であると想定されるため,前者のみを対象として,草千里下6kmに半径3kmの球状マグマたまりを仮定した。周辺地殻はMatsubara et al. (2008)による広域の速度構造とし,マグマたまり領域はヤング率10GPa, ポアソン比0.49とする。断層とマグマたまりの位置関係から,マグマたまりへ影響は複雑なパターンを示すが,特に顕著な特徴として次の点があげられる。1)阿蘇山のマグマたまりの西側表面部分に南西向きの10MPa程度の引張応力がかかる。2)球状マグマたまりは,東西に引き伸ばされた楕円状に変形する。マグマたまり西側が南西側へ60㎝程度の変位,マグマたまり上面から阿蘇山地表付近では10㎝程度の沈降となる。
地殻変動の検出においては,日本の陸域観測技術衛星「だいち2号」のPALSAR-2データを用いた。前震と本震の間の期間においては,南行軌道における左方向視による観測(西上空からの観測)が行われており,地震前に取得されたデータとの干渉ペアを解析したところ,日奈久断層北端部の西側にスラントレンジ短縮と伸長の領域が求まった。このスラントレンジ変化分布は,日奈久断層と同じ走向を持つ断層面における約1mの右横ずれで説明できる。本震発生以降,PALSAR-2による観測は複数の軌道から異なる観測モードで行われており,Mj7.3の本震に関する解析においては6軌道から観測された画像を使用した。すべての干渉画像において,布田川断層に沿ったスラントレンジ変化の不連続がみられた。また,日奈久断層と布田川断層の東延長部においては,スラントレンジ変化の急変帯がみられた。特に,布田川断層の東延長部は,阿蘇カルデラに入った付近でその走向が北東に変化しているようにみえることが特徴の一つである。大まかには,東上空から観測された画像を解析した結果においては,布田川断層の北側でスラントレンジの短縮,南側で伸長の変化が見られ,西上空からの観測画像を解析した結果においては,その逆の変化が見られた。これは断層の右横ずれでおおよそ説明できる。しかし,南行軌道の右方向視による画像(東上空からの観測)を解析した結果においては,西原村付近で断層をまたいでスラントレンジ短縮変化が見られ,これを説明するためにはより複雑な断層メカニズムを考慮する必要がある。これらのスラントレンジ変化分布を説明する断層モデルを求めたところ,布田川断層と日奈久断層の北端部,布田川断層の東端から北東に伸びる断層の右横ずれと,西原村付近の低角の断層の正断層成分を伴う右横ずれで,得られた地殻変動をおおよそ説明することができた。本震後発生後に取得されたデータペアの解析においては,断層周辺で局所的な変動がみられたが,火山活動に伴うような地殻変動は見られなかった。防災科学技術研究所の火山観測網(V-net)によっても,本稿提出時点では,阿蘇山の火山活動に顕著な変化は見られていない。
以上の解析で求めた断層モデルを用い,有限要素法により変位場・応力場を計算し,阿蘇山下のマグマたまりへの影響評価を行った。地震・地殻変動による影響は,静的・準静的・動的の3つがあるが,今回は静的の影響のみを考える。阿蘇山では須藤(2006)により草千里の南側深さ6km程度に減圧源があるとされており,マグマたまりの存在が示唆される。また,Abe et al. (2010)では地下15~20kmシルの存在が指摘されている。今回の断層の深さを鑑み,後者よりも前者への影響が顕著であると想定されるため,前者のみを対象として,草千里下6kmに半径3kmの球状マグマたまりを仮定した。周辺地殻はMatsubara et al. (2008)による広域の速度構造とし,マグマたまり領域はヤング率10GPa, ポアソン比0.49とする。断層とマグマたまりの位置関係から,マグマたまりへ影響は複雑なパターンを示すが,特に顕著な特徴として次の点があげられる。1)阿蘇山のマグマたまりの西側表面部分に南西向きの10MPa程度の引張応力がかかる。2)球状マグマたまりは,東西に引き伸ばされた楕円状に変形する。マグマたまり西側が南西側へ60㎝程度の変位,マグマたまり上面から阿蘇山地表付近では10㎝程度の沈降となる。