17:15 〜 18:30
[MIS34-P71] スペクトルインバージョンに基づく熊本地震と前震・余震等の震源・伝播・サイト特性
キーワード:2016年熊本地震、スペクトルインバージョン、短周期レベル、距離減衰、経験的地盤増幅率、地盤の非線形性
1997年~2016年4月19日までに熊本地震周辺で発生したMJ≧4.0、深さ20km以下の地震のうち、F-netのメカニズム解の得られている37地震の強震記録を用いて、スペクトルインバージョンにより震源・伝播・サイト特性の推定を行った。
スペクトルインバージョンの手法、データの選択基準は、佐藤(2010)とほぼ同じである。ただし、K-NET、KiK-net地表のみならず、KiK-net地中、気象庁95型震度計記録も用いている。震源距離60km以下の火山フロント背弧側の観測点における、最大加速度が水平2成分とも200cm/s2以下の水平成分のS波部が解析対象である。ただし、点震源仮定のため、本震では震源距離30km以下の記録はデータから除いた。また、本震に直後の余震の記録が混在しているOIT009周辺の記録は、最大加速度や距離の制限により除かれている。佐藤(2010)で地盤同定されているSAGH04(東背振)での地盤モデルに基づき、地中での地盤増幅率を地震基盤相当に補正ししたものを基準として、経験的地盤増幅率を算出した。
Q値は周波数fを用いて、0.5~10HzでQ=62f0.87でモデル化され、佐藤(2010)が熊本県周辺の中規模地震から推定しているQ値とほぼ一致した。短周期レベルは、観測加速度震源スペクトルを、w-2モデルで0.2~5Hzでフィッテイングして推定した。図には、MJが大きい横ずれの3つの地震、すなわち、MJ6.5の最大前震、MJ6.4の前震、本震のM0-A関係を、既往の地殻内地震と比較した結果を示す。本震のAは、壇・他(2001)のM0-A関係式とほぼ同じで、MJ6.5の最大前震は、壇・他(2001)のM0-A関係式よりやや大きい。これらの2地震のM0-A関係は、既往の横ずれの地震より大きいが、佐藤(2010)の逆断層のM0-A関係式より小さい。MJ6.4の前震は壇・他(2001)のM0-A関係より小さく、佐藤(2010)の横ずれ断層のM0-A関係式とほぼ同じである。
本研究で対象とした全37地震を、横ずれ、正断層成分を含む横ずれ、正断層に分類して検討したが、M0-A関係に断層タイプ別の違いはほとんどみられなかった。正断層の地震も、福島県浜通りの正断層の地震のM0-A関係(佐藤・堤、2012)とほぼ同様であった。規模の小さい地震の方が、AがM01/3に比例するというスケーリング関係より小さい傾向も、既往の研究(佐藤,2010; 佐藤・堤,2012)と同様であった。
本震、最大前震の短周期レベルの考察のため、佐藤(2008)の最大速度の地震動予測式との比較を行った。佐藤(2008)の最大速度の地震動予測式は、新潟から九州までの西日本の地殻内地震の背弧側の観測記録から算出されたものであり、横ずれと逆断層に区別されている。地震動予測式算出には、纐纈・他(2016、地震研究所HP)の断層モデルを、破壊開始点位置をHi-netから気象庁に修正して平行移動したものを用いた。なお、本震に直後の余震の記録が混在しているOIT009周辺の記録は除いた。佐藤(2008)の式は、断層最短距離70kmを境に距離減衰特性が変化しており、司・翠川(1999)の式より距離減衰の傾きがやや急であり、観測の距離減衰特性により近い。しかし、震源距離60km程度以下の震源近傍の観測値は、本震(Mw7.0)では横ずれ断層の予測式よりやや大きく、最大前震(Mw6.1)では予測式より明らかに大きかった。この特徴は、推定され短周期レベルと整合する。
最後に、KMMH16(益城)、KMM006(熊本)、EEB(JMA熊本)での地盤増幅率について考察する。3地点は、東西方向に10kmの範囲内にあるが、計測震度は、本震で、それぞれ、6.4、6.0、6.0、最大前震で6.4、5.9、5.9であった。しかし、3地点での経験的地盤増幅率は、4Hz付近が卓越しており、5Hz以下でほぼ同じであった。地中に対する地表のスペクトル比やH/Vを強震動(本震と最大前震)、弱震動で比較した結果、KMMH16では、KMM006、EEBに比べ、本震と最大前震時の地盤の非線形性の影響が大きいことがわかった。3観測点の経験的地盤増幅率が5Hz以下で同じであることから、震度の違いには、1次元的な深部地盤の影響は小さく、震源の影響と浅部地盤の土質に依存した非線形の違いが寄与した可能性が考えられる。
謝辞:本研究は、科学研究費補助金基盤研究(A)26242034(研究代表者川瀬博教授)による成果である。防災科学技術研究所のK-NET・KiK-netの強震記録、F-netのメカニズム解と、気象庁の95型震度計の強震記録、一元化震源情報を用いました。記して感謝致します。
スペクトルインバージョンの手法、データの選択基準は、佐藤(2010)とほぼ同じである。ただし、K-NET、KiK-net地表のみならず、KiK-net地中、気象庁95型震度計記録も用いている。震源距離60km以下の火山フロント背弧側の観測点における、最大加速度が水平2成分とも200cm/s2以下の水平成分のS波部が解析対象である。ただし、点震源仮定のため、本震では震源距離30km以下の記録はデータから除いた。また、本震に直後の余震の記録が混在しているOIT009周辺の記録は、最大加速度や距離の制限により除かれている。佐藤(2010)で地盤同定されているSAGH04(東背振)での地盤モデルに基づき、地中での地盤増幅率を地震基盤相当に補正ししたものを基準として、経験的地盤増幅率を算出した。
Q値は周波数fを用いて、0.5~10HzでQ=62f0.87でモデル化され、佐藤(2010)が熊本県周辺の中規模地震から推定しているQ値とほぼ一致した。短周期レベルは、観測加速度震源スペクトルを、w-2モデルで0.2~5Hzでフィッテイングして推定した。図には、MJが大きい横ずれの3つの地震、すなわち、MJ6.5の最大前震、MJ6.4の前震、本震のM0-A関係を、既往の地殻内地震と比較した結果を示す。本震のAは、壇・他(2001)のM0-A関係式とほぼ同じで、MJ6.5の最大前震は、壇・他(2001)のM0-A関係式よりやや大きい。これらの2地震のM0-A関係は、既往の横ずれの地震より大きいが、佐藤(2010)の逆断層のM0-A関係式より小さい。MJ6.4の前震は壇・他(2001)のM0-A関係より小さく、佐藤(2010)の横ずれ断層のM0-A関係式とほぼ同じである。
本研究で対象とした全37地震を、横ずれ、正断層成分を含む横ずれ、正断層に分類して検討したが、M0-A関係に断層タイプ別の違いはほとんどみられなかった。正断層の地震も、福島県浜通りの正断層の地震のM0-A関係(佐藤・堤、2012)とほぼ同様であった。規模の小さい地震の方が、AがM01/3に比例するというスケーリング関係より小さい傾向も、既往の研究(佐藤,2010; 佐藤・堤,2012)と同様であった。
本震、最大前震の短周期レベルの考察のため、佐藤(2008)の最大速度の地震動予測式との比較を行った。佐藤(2008)の最大速度の地震動予測式は、新潟から九州までの西日本の地殻内地震の背弧側の観測記録から算出されたものであり、横ずれと逆断層に区別されている。地震動予測式算出には、纐纈・他(2016、地震研究所HP)の断層モデルを、破壊開始点位置をHi-netから気象庁に修正して平行移動したものを用いた。なお、本震に直後の余震の記録が混在しているOIT009周辺の記録は除いた。佐藤(2008)の式は、断層最短距離70kmを境に距離減衰特性が変化しており、司・翠川(1999)の式より距離減衰の傾きがやや急であり、観測の距離減衰特性により近い。しかし、震源距離60km程度以下の震源近傍の観測値は、本震(Mw7.0)では横ずれ断層の予測式よりやや大きく、最大前震(Mw6.1)では予測式より明らかに大きかった。この特徴は、推定され短周期レベルと整合する。
最後に、KMMH16(益城)、KMM006(熊本)、EEB(JMA熊本)での地盤増幅率について考察する。3地点は、東西方向に10kmの範囲内にあるが、計測震度は、本震で、それぞれ、6.4、6.0、6.0、最大前震で6.4、5.9、5.9であった。しかし、3地点での経験的地盤増幅率は、4Hz付近が卓越しており、5Hz以下でほぼ同じであった。地中に対する地表のスペクトル比やH/Vを強震動(本震と最大前震)、弱震動で比較した結果、KMMH16では、KMM006、EEBに比べ、本震と最大前震時の地盤の非線形性の影響が大きいことがわかった。3観測点の経験的地盤増幅率が5Hz以下で同じであることから、震度の違いには、1次元的な深部地盤の影響は小さく、震源の影響と浅部地盤の土質に依存した非線形の違いが寄与した可能性が考えられる。
謝辞:本研究は、科学研究費補助金基盤研究(A)26242034(研究代表者川瀬博教授)による成果である。防災科学技術研究所のK-NET・KiK-netの強震記録、F-netのメカニズム解と、気象庁の95型震度計の強震記録、一元化震源情報を用いました。記して感謝致します。