17:15 〜 18:30
[MIS34-P97] 2016年熊本地震における阿蘇地域に発生した地盤災害判読
キーワード:平成28年(2016年)熊本地震、斜面崩壊、航空写真、緊急判読
【はじめに】
2016年4月14日及び16日に発生した「平成28年(2016年)熊本地震」では、地震動等の影響によって多数の土砂移動現象が発生した。地震発生直後は、斜面崩壊等の発生状況が不明であり、早急に被害の全容を解明する必要があった。株式会社パスコは、地震発生後に空中写真撮影や人工衛星による撮像を早期に実施し、筆者らはそのデータを用いて阿蘇地域で発生した崩壊地等の判読を実施した。また、立野地区の大規模崩壊地については航空レーザ計測を実施し、崩壊土砂量を算出した。
【調査概要】
判読に使用したデータは、阿蘇地域を撮影した斜め写真(4月16日撮影)、垂直写真(4月19日及び4月20日撮影)及び光学衛星(SPOT)画像(4月20日撮影)である。また、立野地区の航空レーザ計測データ(4月16日計測)は、フィルタリング処理により地表面を抽出し、1mメッシュの地形データを作成したものである。
判読範囲は阿蘇カルデラ内及びカルデラ周辺の約550km2であり、判読項目は崩壊地(崩壊範囲、土砂堆積範囲)、亀裂(地震動に伴う直接的なもの、崩壊に伴うもの)、道路寸断箇所とした。崩壊地については、崩壊土砂量を算出した。判読結果はGIS上に整理し、被災判読図を作成したほか、崩壊地の分布と既存の流域界データをオーバーレイすることにより、二次被害が発生する危険性が高いと思われる渓流を抽出した。
なお、当該地域では平成24年7月九州北部豪雨によって発生した崩壊跡地が分布しており、地震発生前の光学衛星(SPOT)画像(2015年10月22日及び11月30日撮影)等を用いて今回の地震により発生した崩壊地のみを抽出した。
【判読結果】
地震に伴って発生した崩壊地は、中央火口丘周辺及び外輪山の西側(立野地区周辺)~北側にかけて多く分布している。特に立野地区周辺や烏帽子岳周辺に比較的規模の大きな崩壊地が集中している。烏帽子岳の西に位置する山王谷川では崩壊土砂が土石流化しており、下流域では土砂氾濫も確認された。流域単位で見ると、山王谷川や烏帽子岳周辺の隣接する流域内で比較的多くの崩壊が発生していることが判明した。
また、航空レーザ計測データ解析により、阿蘇大橋西側斜面で発生した崩壊の規模は平均幅140m、平均長さ350m、崩壊面積47,900m2であり、地震前の地形データとの差分解析によって平均崩壊深約5m、崩壊土砂量は約24万m3であることが明らかとなった。
発生した地盤の亀裂は、益城町付近から北東方向へ連続して分布していることが確認された。阿蘇市赤水から三久保にかけての阿蘇谷西側の水田地では、旧河道沿いと思われる位置に東北東-西南西方向の亀裂が複数確認された。また、崩壊に伴う亀裂は、崩壊地上部及び側方の斜面で円弧状に入っている状況が多く確認された。道路寸断箇所も崩壊地と同様にカルデラ内西部付近に集中している。
【考察】
崩壊は亀裂に沿うように帯状に集中発生しており、亀裂が確認された阿蘇谷西側では外輪山の急斜面で多数確認された。一方、亀裂が確認されていない阿蘇谷東側では、中央火口丘北側斜面で崩壊が確認されたが、外輪山ではほとんど崩壊が確認されなかった。また、今回確認された亀裂のうち南阿蘇村河陽付近のものは、道路や畦畔等に右横ずれを伴うものが認められた。これらの亀裂は布田川断層帯北東端の延長線上に現れた地表地震断層と推定され、布田川断層帯が外輪山内にまで延長している可能性が伺える。河陽地区では緩斜面でも崩壊や地すべりが発生した状況が確認されており、震源断層近傍での強震動による斜面崩壊が推測される。
土石流が確認された山王谷川では崩壊地が広範囲に分布していることから、崩壊土砂が流動化して土石流が発生したと考えられる。隣接渓流においても流域内で比較的多くの崩壊が発生しており、不安定土砂が渓流内に残存していることから、土砂の二次移動による土石流発生が懸念される。
【おわりに】
株式会社パスコでは地震発生翌日の4月15日から空中写真等の撮影活動を実施し、亀裂や崩壊地の場所、建物・道路等の被害状況を判読して、国・県などの関係機関に情報の提供を行い、その一部をホームページに掲載した。今回の熊本地震では、震度6弱以上の地震が4月14日から16日にかけて7回発生し、それに伴い被災状況が変化したことから、航空機による広範囲且つ機動性の高い情報取得は、災害対応において有用であると考える。
2016年4月14日及び16日に発生した「平成28年(2016年)熊本地震」では、地震動等の影響によって多数の土砂移動現象が発生した。地震発生直後は、斜面崩壊等の発生状況が不明であり、早急に被害の全容を解明する必要があった。株式会社パスコは、地震発生後に空中写真撮影や人工衛星による撮像を早期に実施し、筆者らはそのデータを用いて阿蘇地域で発生した崩壊地等の判読を実施した。また、立野地区の大規模崩壊地については航空レーザ計測を実施し、崩壊土砂量を算出した。
【調査概要】
判読に使用したデータは、阿蘇地域を撮影した斜め写真(4月16日撮影)、垂直写真(4月19日及び4月20日撮影)及び光学衛星(SPOT)画像(4月20日撮影)である。また、立野地区の航空レーザ計測データ(4月16日計測)は、フィルタリング処理により地表面を抽出し、1mメッシュの地形データを作成したものである。
判読範囲は阿蘇カルデラ内及びカルデラ周辺の約550km2であり、判読項目は崩壊地(崩壊範囲、土砂堆積範囲)、亀裂(地震動に伴う直接的なもの、崩壊に伴うもの)、道路寸断箇所とした。崩壊地については、崩壊土砂量を算出した。判読結果はGIS上に整理し、被災判読図を作成したほか、崩壊地の分布と既存の流域界データをオーバーレイすることにより、二次被害が発生する危険性が高いと思われる渓流を抽出した。
なお、当該地域では平成24年7月九州北部豪雨によって発生した崩壊跡地が分布しており、地震発生前の光学衛星(SPOT)画像(2015年10月22日及び11月30日撮影)等を用いて今回の地震により発生した崩壊地のみを抽出した。
【判読結果】
地震に伴って発生した崩壊地は、中央火口丘周辺及び外輪山の西側(立野地区周辺)~北側にかけて多く分布している。特に立野地区周辺や烏帽子岳周辺に比較的規模の大きな崩壊地が集中している。烏帽子岳の西に位置する山王谷川では崩壊土砂が土石流化しており、下流域では土砂氾濫も確認された。流域単位で見ると、山王谷川や烏帽子岳周辺の隣接する流域内で比較的多くの崩壊が発生していることが判明した。
また、航空レーザ計測データ解析により、阿蘇大橋西側斜面で発生した崩壊の規模は平均幅140m、平均長さ350m、崩壊面積47,900m2であり、地震前の地形データとの差分解析によって平均崩壊深約5m、崩壊土砂量は約24万m3であることが明らかとなった。
発生した地盤の亀裂は、益城町付近から北東方向へ連続して分布していることが確認された。阿蘇市赤水から三久保にかけての阿蘇谷西側の水田地では、旧河道沿いと思われる位置に東北東-西南西方向の亀裂が複数確認された。また、崩壊に伴う亀裂は、崩壊地上部及び側方の斜面で円弧状に入っている状況が多く確認された。道路寸断箇所も崩壊地と同様にカルデラ内西部付近に集中している。
【考察】
崩壊は亀裂に沿うように帯状に集中発生しており、亀裂が確認された阿蘇谷西側では外輪山の急斜面で多数確認された。一方、亀裂が確認されていない阿蘇谷東側では、中央火口丘北側斜面で崩壊が確認されたが、外輪山ではほとんど崩壊が確認されなかった。また、今回確認された亀裂のうち南阿蘇村河陽付近のものは、道路や畦畔等に右横ずれを伴うものが認められた。これらの亀裂は布田川断層帯北東端の延長線上に現れた地表地震断層と推定され、布田川断層帯が外輪山内にまで延長している可能性が伺える。河陽地区では緩斜面でも崩壊や地すべりが発生した状況が確認されており、震源断層近傍での強震動による斜面崩壊が推測される。
土石流が確認された山王谷川では崩壊地が広範囲に分布していることから、崩壊土砂が流動化して土石流が発生したと考えられる。隣接渓流においても流域内で比較的多くの崩壊が発生しており、不安定土砂が渓流内に残存していることから、土砂の二次移動による土石流発生が懸念される。
【おわりに】
株式会社パスコでは地震発生翌日の4月15日から空中写真等の撮影活動を実施し、亀裂や崩壊地の場所、建物・道路等の被害状況を判読して、国・県などの関係機関に情報の提供を行い、その一部をホームページに掲載した。今回の熊本地震では、震度6弱以上の地震が4月14日から16日にかけて7回発生し、それに伴い被災状況が変化したことから、航空機による広範囲且つ機動性の高い情報取得は、災害対応において有用であると考える。