日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT27] 地球惑星科学データ解析の新展開:データ駆動型アプローチ

2016年5月22日(日) 13:45 〜 15:15 A04 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*桑谷 立(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、駒井 武(東北大学大学院 環境科学研究所)、宮本 英昭(東京大学総合研究博物館)、小池 克明(京都大学大学院工学研究科 都市社会工学専攻地殻環境工学講座)、堀 高峰(独立行政法人海洋研究開発機構・地震津波海域観測研究開発センター)、長尾 大道(東京大学地震研究所)、座長:宇野 正起(東北大学大学院環境科学研究科)、洪 鵬(東京大学大学総合研究博物館)

14:15 〜 14:30

[MTT27-03] 隕石の近赤外波長域を含む反射スペクトルの主成分分析および岩石学的分類との比較

*綿引 ゆり杏1新原 隆史2洪 鵬2斎藤 侑輝3,4福水 健次4,3 (1.東京大学大学院、2.東京大学 総合研究博物館、3.総合研究大学院大学 複合科学研究科、4.統計数理研究所)

キーワード:主成分分析、隕石、近赤外波長域、小惑星、スペクトル

小惑星の分類は地上および宇宙望遠鏡によって観測される反射スペクトルに基づいており,小惑星の構成物質に制約を与えるために多くの研究がなされてきた.Tholen [1]は,初めて小惑星を主成分分析に基づき,8色の反射スペクトル(波長域0.33-1.1μm)を用いて13種類の型に分けた.DeMeo et al. [2]も主成分分析によって41色の反射スペクトル(波長域0.45-2.45μm)を用いてさらに詳しく27種類の型に分けた.隕石が岩石学的にGroupレベルで45種類に分類されていることを考慮すると[3],Tholen [1] からDeMeo et al. [2]にかけて小惑星の型が増えたことは,小惑星を岩石学的特徴が既知の隕石と対応させるために重要である.このことは,反射スペクトルの分類において用いるデータの波長範囲と波長分解能が重要であることを意味している.
Britt et al.[4]は,Eight Color Asteroid Survey(8色)で得られた103個の小惑星の反射スペクトル(波長域0.33-1.1μm)と,室内実験で測定された411個の隕石の粉末試料のスペクトル(波長域0.33-1.1μm)について,主成分空間上で比較を試みた.その結果,V型小惑星とHED隕石は比較的よく対応したが,小惑星と隕石の大部分を占めるS型小惑星と普通隕石,およびC型小惑星と炭素質隕石の対応関係は良くないと報告している.しかし,Britt et al.[4]では反射スペクトルを1.1 μm までしか用いておらず,主要構成鉱物であるかんらん石と輝石の違いが明瞭となる2 μm 付近の強い吸収[5]を用いていないため,隕石の分類すらできているのか不明である.本研究では,隕石のより広い波長帯,高い波長分解能(41色)の反射スペクトルデータを用いて主成分分析をおこなうことで,隕石の反射スペクトルと従来の岩石学的な分類との対応関係を明らかにする.
隕石のスペクトルデータは,ブラウン大学のRELABのデータベース[6]から,分類が定まっている709個の隕石を利用する.波長0.45~2.45 μm の範囲の反射スペクトルのデータを使用し,主成分分析を行った.PC1における最大・最小値は炭素質コンドライトとオーブライトであったが,オーブライトはPC1上では幅広く分布している.PC1の分散に寄与しているのは0.9 μm付近の吸収であり,輝石とかんらん石の吸収である.PC2は0.9 μmと2 μm付近の吸収の寄与が大きい.PC1をみると始原隕石のうち,普通コンドライトとユレライト隕石と炭素質コンドライトは近接しているが,普通コンドライトと炭素質コンドライトの間にユレライト隕石が存在しており,PC1は隕石の始原性を表していると考えられる.太陽系初期の情報を持つ始原隕石と,大規模な溶融・分化を経験した分化隕石(HEDおよび火星)がPC2において優位に区別することができた.それぞれの隕石の主な構成鉱物は輝石やかんらん石であるが,鉱物の比率や粒形,化学組成は大きく異なっており,吸収スペクトルにおいても反射率や吸収の位置が大きく異なる.特に2 μm付近に観察される吸収は輝石のみに由来するため,PC2の分散は輝石の量比が大きく寄与していると考えられる.今回の波長範囲を伸ばした隕石のスペクトル分析により,PC1およびPC2を利用することで,岩石学的分類[3]のうち主要な隕石種(e.g., C, O, Achondrite)に関してはClass以上の部分の見分けが可能である.

引用文献: [1] Tholen, 1994.Ph.D thesis. [2] DeMeo et al. 2009. Icarus 202. [3] Weisberg et al., 2006. In: Lauretta and McSween (Eds.). [4] Britt et al., 1992. Icarus 99. [5] Mochael J. Gaffey, 1976. JGR. [6] Pieters and Hiroi, 2004. LPSC.