15:30 〜 15:45
[MTT27-06] 小惑星のアルベドと可視近赤外反射スペクトルの関係:熱的過程への示唆
キーワード:小惑星、反射スペクトル、アルベド、隕石、結晶サイズ
小惑星の可視近赤外反射スペクトルはこれまで多くの地上および宇宙望遠鏡によって観測されており、得られた反射スペクトルの形状に基づいて小惑星の型が分類されている [1]。しかし黒い普通コンドライトと炭素質コンドライトが極めて似たスペクトルを示すことなどからわかるように、全く異なる種類の岩石であっても見かけ上は似たスペクトルが生じることがある [2]。反射スペクトルのこのような性質は、従来の反射スペクトルの形状のみに依存した小惑星の分類方法には限界があることを示唆している。小惑星のアルベドもこれまで数多くの観測データが蓄積されているが、反射スペクトルとの関係はよく理解されていない [3]。本研究ではアルベドを小惑星の分類体系に組み込むことによって、分類法の改善、およびスペクトル―アルベド間に潜在する物理量の抽出を目的とする。
まず我々は既存の文献から小惑星の反射スペクトルとアルベドのデータベースを構築した。反射スペクトルは主にIRTF Near-IR Spectroscopy of Asteroids [3] で得られた0.45 – 2.45 μmのデータを3次スプライン補間し、波長分解能が0.05 μmの形式に統一した。反射スペクトルは各々の平均値で引き算した上で、S型およびC型小惑星の平均スペクトルとの相関係数をそれぞれ求め、両者の差分をスペクトル型指数Rと定義した。アルベドは主にSupplemental IRAS Minor Planet Survey [4] で観測された幾何アルベドを収集した。合計261個の反射スペクトルとアルベドの組み合わせを収集した(一部の小惑星は複数回観測されているため、天体による重複あり)。
得られたアルベドとスペクトル型指数を図示すると、V、S、およびC型小惑星がそれぞれのクラスターに分離された。各クラスターの分散はV、S、Cの後者になるにつれて大きくなる傾向が見られた。さらにアルベドとスペクトル型指数の間に明瞭な関連性が見られた。このことは、アルベドがスペクトルに影響を与える重要な因子であることを示唆している。小惑星表面のアルベドに影響を及ぼす要素として例えば、(1)鉱物量比および元素組成比、(2)レゴリスの粒径、(3)宇宙風化、(4)岩石中の結晶サイズ、が考えられる。しかし我々は結晶サイズがアルベドに影響する最も重要な因子であると考えており、その理由として(1)隕石の分析によると、普通コンドライトと炭素質コンドライトはアルベドが大きく異なるが、両者の間の平均的な鉱物量比や炭素含有量には顕著な差が見られない、(2)破砕により細粒化された粒子ほどアルベドを高くする効果はあるが、小惑星間に見られる著しいアルベドの差を説明できるほど十分ではない、および(3)宇宙風化によってアルベドを低下させるためには還元鉄の生成が必要であるが、アルベドの低いC型小惑星がV型やS型に比べて還元鉄に富んでいるという観測的裏付けはない、ためである。以下では結晶サイズとアルベドの関連性、および熱的過程へと言及する。
隕石の薄片の観察によると、一般的に細粒の結晶を多く含む岩石ほどアルベドは低くなる。HED隕石の分析に基づくと、V型小惑星は集積後に分化と火成活動を経験したと考えられている。したがって母天体でのマグマ活動によりゆっくりとした冷却の結果、結晶が大きく成長し(~ mm)、アルベドが高いV型小惑星を生まれたと考えられる。一方で、S型とC型小惑星はそれぞれ普通コンドライトと炭素質コンドライトに対応していると考えられている。これらの隕石はコンドリュールを豊富に含むが、コンドリュールは原始太陽系円盤中で急速に冷却されたため [5]、コンドリュール中の結晶サイズはHED隕石に比べ極めて小さい(~ nm)。これがC型小惑星の低いアルベドの原因であると考えられる。一方コンドリュールの間隙を埋めるマトリックス物質は、普通コンドライトでは大きい(~ μm)。このことがS型とC型の間で大きなアルベド差を生む原因であると考えられる。
参考文献: [1] DeMeo F.E. et al. (2009) Icarus, 202, 160. [2] Britt D.T. et al. (1992) Icarus, 99, 153. [3] Bus S.J. and Binzel R.P. (2002) Icarus, 158, 146. [4] Tedesco E.F. et al. (2002) Astronomical J., 123, 1056. [5] Yurimoto H. and Wasson J.T. (2002) GCA, 66, 4355.
まず我々は既存の文献から小惑星の反射スペクトルとアルベドのデータベースを構築した。反射スペクトルは主にIRTF Near-IR Spectroscopy of Asteroids [3] で得られた0.45 – 2.45 μmのデータを3次スプライン補間し、波長分解能が0.05 μmの形式に統一した。反射スペクトルは各々の平均値で引き算した上で、S型およびC型小惑星の平均スペクトルとの相関係数をそれぞれ求め、両者の差分をスペクトル型指数Rと定義した。アルベドは主にSupplemental IRAS Minor Planet Survey [4] で観測された幾何アルベドを収集した。合計261個の反射スペクトルとアルベドの組み合わせを収集した(一部の小惑星は複数回観測されているため、天体による重複あり)。
得られたアルベドとスペクトル型指数を図示すると、V、S、およびC型小惑星がそれぞれのクラスターに分離された。各クラスターの分散はV、S、Cの後者になるにつれて大きくなる傾向が見られた。さらにアルベドとスペクトル型指数の間に明瞭な関連性が見られた。このことは、アルベドがスペクトルに影響を与える重要な因子であることを示唆している。小惑星表面のアルベドに影響を及ぼす要素として例えば、(1)鉱物量比および元素組成比、(2)レゴリスの粒径、(3)宇宙風化、(4)岩石中の結晶サイズ、が考えられる。しかし我々は結晶サイズがアルベドに影響する最も重要な因子であると考えており、その理由として(1)隕石の分析によると、普通コンドライトと炭素質コンドライトはアルベドが大きく異なるが、両者の間の平均的な鉱物量比や炭素含有量には顕著な差が見られない、(2)破砕により細粒化された粒子ほどアルベドを高くする効果はあるが、小惑星間に見られる著しいアルベドの差を説明できるほど十分ではない、および(3)宇宙風化によってアルベドを低下させるためには還元鉄の生成が必要であるが、アルベドの低いC型小惑星がV型やS型に比べて還元鉄に富んでいるという観測的裏付けはない、ためである。以下では結晶サイズとアルベドの関連性、および熱的過程へと言及する。
隕石の薄片の観察によると、一般的に細粒の結晶を多く含む岩石ほどアルベドは低くなる。HED隕石の分析に基づくと、V型小惑星は集積後に分化と火成活動を経験したと考えられている。したがって母天体でのマグマ活動によりゆっくりとした冷却の結果、結晶が大きく成長し(~ mm)、アルベドが高いV型小惑星を生まれたと考えられる。一方で、S型とC型小惑星はそれぞれ普通コンドライトと炭素質コンドライトに対応していると考えられている。これらの隕石はコンドリュールを豊富に含むが、コンドリュールは原始太陽系円盤中で急速に冷却されたため [5]、コンドリュール中の結晶サイズはHED隕石に比べ極めて小さい(~ nm)。これがC型小惑星の低いアルベドの原因であると考えられる。一方コンドリュールの間隙を埋めるマトリックス物質は、普通コンドライトでは大きい(~ μm)。このことがS型とC型の間で大きなアルベド差を生む原因であると考えられる。
参考文献: [1] DeMeo F.E. et al. (2009) Icarus, 202, 160. [2] Britt D.T. et al. (1992) Icarus, 99, 153. [3] Bus S.J. and Binzel R.P. (2002) Icarus, 158, 146. [4] Tedesco E.F. et al. (2002) Astronomical J., 123, 1056. [5] Yurimoto H. and Wasson J.T. (2002) GCA, 66, 4355.