日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT27] 地球惑星科学データ解析の新展開:データ駆動型アプローチ

2016年5月22日(日) 15:30 〜 17:00 A04 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*桑谷 立(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、駒井 武(東北大学大学院 環境科学研究所)、宮本 英昭(東京大学総合研究博物館)、小池 克明(京都大学大学院工学研究科 都市社会工学専攻地殻環境工学講座)、堀 高峰(独立行政法人海洋研究開発機構・地震津波海域観測研究開発センター)、長尾 大道(東京大学地震研究所)、座長:五十嵐 康彦(東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻)、桑谷 立(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)

15:45 〜 16:00

[MTT27-07] 機械学習による含水マグマの熱力学モデルの構築

*上木 賢太1桑谷 立1岩森 光1 (1.独立行政法人海洋研究開発機構地球内部物質循環研究分野)

キーワード:機械学習、熱力学、含水メルト、相平衡

地球深部の高温・高圧条件下のマグマに水が含まれる場合、物性や、融点などの相平衡が大きく変化するため、含水マグマの物理化学特性を正確に予測することは地球内部のマグマプロセスを知るためにきわめて重要である。これらを解明するには高温高圧実験が有効で、これまで多くの研究がなされている。高温高圧実験は、特定の化学組成をもつ出発物質を用い、決められた温度、圧力で行われる。一方、天然のマグマプロセスでは、温度・ 圧力・化学組成が連続的に変化する。そのため、普遍的な議論を行うには、実験結果を補完する数値計算モデルを確立する必要がある。
含水マグマの相平衡の計算モデルの構築とはすなわち、含水マグマの自由エネルギーを記述する式及びその係数を決定する問題となる。モデル化においては、ミクロな構造などの情報を制約として適切な数式を用いることが重要となるが、高温高圧下での含水マグマの構造や物理特性には未解明な点が多い。モデル構築の制約となる実験の点数は限られる一方、含水マグマの相平衡は非線形性が強いほか多成分系であるため、パラメーターの数も多い。また、マグマを扱う場合は、想定される温度、圧力や組成の幅が非常に広くかつ連続的である。このような条件でのパラメーター決定には、従来地球科学で良く用いられてきた解析的な方法や経験に基づいた方法とは異なる手法を用いる必要がある。本研究では、機械学習の手法を用いて、データ駆動で、含水マグマに関して、自由エネルギーを記述する関係式と多数の熱力学パラメーターの決定を行う。
離散的で温度、圧力、組成の幅も限られる実験データから広い条件に適用できるパラメーターを決定する必要があるため、本研究では機械学習の手法であるクロスバリデーション法を用いた。クロスバリデーション法(交差検証法)とは、データセットを2分割し、一方を使用してモデル決定を行い、もう一方を使用してモデルの妥当性(汎化性能)の検証を行う手法である。モデル構築の制約となる訓練データ(すなわち実験データ)の点数が少なく離散的である本研究のような場合でも、普遍的に用いることができるパラメーターを制約することができる。本研究では、全体の実験データのうち1つをテストデータとして、残りを訓練データとして用いる、leave-one-out cross-validationという方法を用いた。モデル式に関しては、パラメーターの全数組み合わせ探索を行い、異なる組み合わせのパラメーターを用いた場合の汎化性能を比較することで、最も妥当性の高いモデル式の選択を行った。
基礎モデルとして、上部マントルを構成する主要鉱物である、かんらん石と含水マグマの間の相平衡に着目して開発を行う。モデル決定に用いる実験結果としては、マントルかんらん岩の無水及び含水融解実験 (e.g., Hirose and Kushiro, 1993; Hirose and Kawamoto, 1995)で決定されている温度、圧力、含水量を含むメルト組成、かんらん石組成を使用した。モデリングに必要な比熱、かんらん石の非理想性パラメーターに関しては先行研究を参照し、メルトの非理想性パラメーターの係数の決定を機械学習を用いて行った。非理想性に関しては正則溶液を仮定したが、先行研究結果によって強い非線形性が予想されていたH2Oに関係するパラメーターに関して、特に1次の項に加えて2次の項を考慮して検証を行った。全数探索で、様々なマーゲラスパラメーターの組み合わせで汎化性能を比較した結果、H2Oに関して2次の項と1次の項を両方とも考慮するよりも、1次の項のみを用いたモデルの方が、幅広い条件の実験結果を再現することが分かった。決定されたモデル式とパラメーターを用いてフォワード計算を行った結果、新しいモデルは実験の溶融条件を良く再現することが分かった。本研究で示された機械学習を用いた熱力学モデリングの手法はモデルとパラメーターの推定、モデルの検定を同時に行うことが可能であり、より多数の端成分が関与した複雑な化学反応のモデル化や、ケイ酸塩メルト以外の様々な鉱物の熱力学モデル化にも適用可能であると考えられる。