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[MTT30-03] 統合物理探査結果の解釈テンプレートの作成
キーワード:解釈テンプレート、クロスプロット
土木分野、地盤工学の分野で物理探査をより効果的に適用するためには、物理探査から得られる物性を何か別の形に変換することが重要になっている。たとえば河川堤防の調査では、物理探査によって縦断方向の概略の土質区分だけでもできれば、空間的なデータ密度で劣るボーリングデータを補完する情報として非常に価値がある。
土質の違いや工学的に利用されている地盤物性を物理探査結果から得られる弾性波速度や比抵抗から推定するためには、物理探査結果を解釈するための理論的な背景、つまり物理モデルが必要である。仮にこの理論が完全であるとすれば、得られた物理探査結果から他の物性への変換は逆解析によって実現可能である。しかしながら地盤は非常に不均質で複雑であり、さまざまな要因が組み合わさった結果として、ある物性値が得られており、それらすべての要因を理論的に表現し逆解析によって特定の物性を得るということは容易ではない。それに対し、単純化した物理モデルの順計算によって、土質の違いや物性変化の傾向を予測した解釈テンプレートを作成しておき、解釈テンプレートと測定値とを比較することでおおよその物性値を推定するという方法がある。資源分野ではRock Physics Templateと呼ばれ、岩相や間隙流体の区分などに用いられている(Avseth et al., 2005)。この方法では、ある特定の要因だけを自由に変化するパラメータとし、その他の要因は一定とみなしていることになるが、使用するデータの条件を絞り込むことによって、十分実用的な方法になると考えられる。特に、測定によって得られる物性値の種類が少ない場合は、逆解析や統計的な手法の利点をそれほど生かすことができないため、このような実用的な方法が有効である。
現状の統合物理探査の解釈では複数の物性を用いたクロスプロットが用いられている。特に、河川堤防調査ではS波速度と比抵抗のクロスプロットが多く利用されている(土木研究所・物理探査学会,2013)。そこで、河川堤防を対象にS波速度と比抵抗のクロスプロットの解釈テンプレートを作成する。今回、対象とする物性は粘土含有率と間隙率とする。粘土含有率とは、地盤を砂と粘土の混合体と考えた場合の粘土の割合であり、0~1の連続的な数値で土質の違いを表す指標と考えることができる。間隙率は土の構成要素(固体、水、空気)の割合を示す重要なパラメータであるとともに、同じ土質だけでみれば緩みの指標とみなせる。
解釈テンプレートのベースとなる弾性波速度の物理モデルとしては未固結砂岩のモデル (Avseth et al., 2005) を用いる。未固結砂岩のモデルは、Hashin-Shtrikmanの下限式がベースとなっており、固体の弾性率をもつ媒質と、特定の間隙率と弾性率をもつ媒質が任意の割合で混合した場合の有効媒質の弾性率を算出するものである。特定の間隙率での弾性率はHertz-Mindlinモデルで計算されているが、浅層の地盤ではやや過大評価となることもあり、Waltonモデルが利用されることもある。いずれにせよ、固体の弾性率が粘土含有率によって変化することから、粘土含有率とS波速度が関連付けられる。
比抵抗のモデルは、比抵抗は並列回路モデルが一般的に用いられる。地下水以深では地下水の比抵抗の影響が大きくなり、土質の違いが顕著ではなくなるが、地下水位以浅では土質の違いが比抵抗に反映される場合が多い。そこで、並列回路の過剰導電率の項に粘土含有率と間隙率をパラメータとして導入することで、両パラメータと比抵抗が関連付けられる。
以上のようにして、粘土含有率と間隙率を自由なパラメータとして、すべての組み合わせに対してS波速度と比抵抗を算出し、その結果を用いて土質区分用と間隙率推定用の解釈テンプレートを作成することができる。その結果、それらを用いて堤防の縦断方向の概略的な土質や間隙率の分布を得ることができる。
現状では土質の違いと、各相(固相、水、空気)の体積割合のみが変化すると考えてS波速度と比抵抗を算出しているが、別途、土質を一定にした場合の飽和度の変化を解釈するテンプレートを作成することも可能である。また、現状は一定値として与えている物性を、不確かさを含む値として、つまり変動幅を与えて計算することで、確率的な解釈テンプレートの作成といった応用も考えられる。先に述べた通り、複雑な理論全てを取り込むことは難しいため、単純なモデルからうまく解釈テンプレートを作成して解釈を行っていくことは今後有用な手法と考えられる。
Avseth, P., T. Mukerji, and G. Mavko, 2005, Quantitative seismic interpretation: Cambridge University Press.
土木研究所・物理探査学会,2013,河川堤防の統合物理探査 -安全性評価への適用の手引き-,愛智出版
土質の違いや工学的に利用されている地盤物性を物理探査結果から得られる弾性波速度や比抵抗から推定するためには、物理探査結果を解釈するための理論的な背景、つまり物理モデルが必要である。仮にこの理論が完全であるとすれば、得られた物理探査結果から他の物性への変換は逆解析によって実現可能である。しかしながら地盤は非常に不均質で複雑であり、さまざまな要因が組み合わさった結果として、ある物性値が得られており、それらすべての要因を理論的に表現し逆解析によって特定の物性を得るということは容易ではない。それに対し、単純化した物理モデルの順計算によって、土質の違いや物性変化の傾向を予測した解釈テンプレートを作成しておき、解釈テンプレートと測定値とを比較することでおおよその物性値を推定するという方法がある。資源分野ではRock Physics Templateと呼ばれ、岩相や間隙流体の区分などに用いられている(Avseth et al., 2005)。この方法では、ある特定の要因だけを自由に変化するパラメータとし、その他の要因は一定とみなしていることになるが、使用するデータの条件を絞り込むことによって、十分実用的な方法になると考えられる。特に、測定によって得られる物性値の種類が少ない場合は、逆解析や統計的な手法の利点をそれほど生かすことができないため、このような実用的な方法が有効である。
現状の統合物理探査の解釈では複数の物性を用いたクロスプロットが用いられている。特に、河川堤防調査ではS波速度と比抵抗のクロスプロットが多く利用されている(土木研究所・物理探査学会,2013)。そこで、河川堤防を対象にS波速度と比抵抗のクロスプロットの解釈テンプレートを作成する。今回、対象とする物性は粘土含有率と間隙率とする。粘土含有率とは、地盤を砂と粘土の混合体と考えた場合の粘土の割合であり、0~1の連続的な数値で土質の違いを表す指標と考えることができる。間隙率は土の構成要素(固体、水、空気)の割合を示す重要なパラメータであるとともに、同じ土質だけでみれば緩みの指標とみなせる。
解釈テンプレートのベースとなる弾性波速度の物理モデルとしては未固結砂岩のモデル (Avseth et al., 2005) を用いる。未固結砂岩のモデルは、Hashin-Shtrikmanの下限式がベースとなっており、固体の弾性率をもつ媒質と、特定の間隙率と弾性率をもつ媒質が任意の割合で混合した場合の有効媒質の弾性率を算出するものである。特定の間隙率での弾性率はHertz-Mindlinモデルで計算されているが、浅層の地盤ではやや過大評価となることもあり、Waltonモデルが利用されることもある。いずれにせよ、固体の弾性率が粘土含有率によって変化することから、粘土含有率とS波速度が関連付けられる。
比抵抗のモデルは、比抵抗は並列回路モデルが一般的に用いられる。地下水以深では地下水の比抵抗の影響が大きくなり、土質の違いが顕著ではなくなるが、地下水位以浅では土質の違いが比抵抗に反映される場合が多い。そこで、並列回路の過剰導電率の項に粘土含有率と間隙率をパラメータとして導入することで、両パラメータと比抵抗が関連付けられる。
以上のようにして、粘土含有率と間隙率を自由なパラメータとして、すべての組み合わせに対してS波速度と比抵抗を算出し、その結果を用いて土質区分用と間隙率推定用の解釈テンプレートを作成することができる。その結果、それらを用いて堤防の縦断方向の概略的な土質や間隙率の分布を得ることができる。
現状では土質の違いと、各相(固相、水、空気)の体積割合のみが変化すると考えてS波速度と比抵抗を算出しているが、別途、土質を一定にした場合の飽和度の変化を解釈するテンプレートを作成することも可能である。また、現状は一定値として与えている物性を、不確かさを含む値として、つまり変動幅を与えて計算することで、確率的な解釈テンプレートの作成といった応用も考えられる。先に述べた通り、複雑な理論全てを取り込むことは難しいため、単純なモデルからうまく解釈テンプレートを作成して解釈を行っていくことは今後有用な手法と考えられる。
Avseth, P., T. Mukerji, and G. Mavko, 2005, Quantitative seismic interpretation: Cambridge University Press.
土木研究所・物理探査学会,2013,河川堤防の統合物理探査 -安全性評価への適用の手引き-,愛智出版