日本地球惑星科学連合2016年大会

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[O-04] ジオパークへ行こう

2016年5月22日(日) 13:45 〜 15:15 国際会議室 (2F)

コンビーナ:*渡辺 真人(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、座長:渡辺 真人(産業技術総合研究所地質情報研究部門)

13:45 〜 14:15

[O04-01] 室戸ユネスコ世界ジオパークへ行こう

★招待講演

*白井 孝明1 (1.室戸ジオパーク推進協議会)

キーワード:ジオパーク、ジオツーリズム、室戸ジオパーク

高知県東部の室戸半島に位置する室戸ユネスコ世界ジオパーク.ここでは,地震隆起を続ける大地と共に,たくましく生きてきた人々の歴史や文化が今も色濃く残っている.海岸近くにそびえ立つ大きな海食崖と,それに続く広く平坦な段丘面.この海成段丘こそが,室戸の大地を象徴する地形である.この地形をつくりだしたのは,更新世の氷河性海水準変動と,平均約 2m/kyr という地震性隆起である.最も広い最終間氷期に形成された段丘面は,高いところで標高が 200m にも達し,室戸の大地の隆起量の大きさを物語っている.室戸の地域の特徴は,大地隆起という地球活動が人々の暮らしの中に入り込んでいることである.先の段丘面は,水はけの良い地質と日当たりの良さを活かした農地として広く利用されている.海に目を向ければ室戸半島の東側,陸からわずか3km程度の海底に深海約1000mにまで続く深い崖が壁のようにそびえ立っている.これは隆起を生み出す原因の一つの断層と考えられている.海底断層崖に沿って湧き上がる海洋深層水は陸上取水によって飲料水や化粧品,海藻の陸上養殖や野菜の栽培などに広く活用され,また湧昇流によって育まれた豊かな生態系は絶好の漁場をつくり出し,定置網漁の発展につながっている.このように室戸の人々は,変動する大地の特性を理解し,その中で生きる術を模索してきた.室戸世界ジオパークの最大の魅力は,そういった大地の成り立ちから人の営みまでのストーリーへと地元住民がガイドとなっていざなってくれることである.室戸世界ジオパークでは,現在,3つのジオガイドツアーを体験することができる.<室戸岬ガイドツアー> 太平洋に突き出た室戸半島の先端,室戸岬には,海岸沿いに遊歩道が整備されている.ここでは,プレートテクトニクス理論を世界で初めて陸上で実証した四万十帯付加体地質に,間近で触れることができるほか,暖流,黒潮の影響によって育まれた亜熱帯性植物群落および海岸植物群の中を散策するガイドツアーを 365 日,体験することができる.<段ノ谷山ガイドツアー> 室戸世界ジオパークの北部に位置する段ノ谷山サイトでは,幹周りが 10mを超す天然杉の巨木が数十本自生している.地域住民の手で守り継がれてきたこの森には,スギの他にも温暖性の常緑樹が多く自生するほか,シカやサルといった野生動物も多く生息し,付加体でできた大地の上で育まれる豊かな生態系を観察することができる.<吉良川まちなみガイドツアー> 西部に位置する吉良川まちなみサイトでは,重要伝統的建造物群保存地区に指定された,土佐の古き良き町並みを見ることができる.明治時代から土佐備長炭の生産によって繁栄を築いてきたこの町には,激しい雨や風が多い室戸の気候の 中で生きるための人々の知恵が随所に見られる.室戸岬ガイドツアーでは室戸の大地の成り立ちを,段ノ谷山ガイドツアーではその大地の上で営まれる豊かな生態系を,そして吉良川まちなみガイドツアーでは大地と人の共生の姿を体感することができる.変動する大地を受け入れ,利用し,しなやかに紡がれてきた室戸の人々の生きざまは,地震・火山大国である日本で,私たち日本人がこの先生きていくための術を教えてくれる.