日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG20] 宇宙科学・探査の将来計画と関連する機器・技術の現状と展望

2016年5月24日(火) 09:00 〜 10:30 203 (2F)

コンビーナ:*吉川 一朗(東京大学)、笠原 禎也(金沢大学総合メディア基盤センター)、座長:石坂 圭吾(富山県立大学工学部情報システム工学科)、笠原 禎也(金沢大学総合メディア基盤センター)

10:00 〜 10:15

[PCG20-05] SS-520-3号機観測ロケット実験の概要と期待される成果

*斎藤 義文1小嶋 浩嗣2小川 泰信3 (1.宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究所・太陽系科学研究系、2.京都大学 生存圏研究所、3.国立極地研究所)

キーワード:観測ロケット実験、電離大気流出、カスプ

電離大気の加速・流出現象は、地球のみならず火星、水星を含む他惑星や月を含む衛星周辺でも起こる普遍的な現象であることが最近の国内外の観測で次第に明らかとなってきた。しかしながら、その流出機構については、それぞれの天体の条件で様々に変化するため、それらの機構を理解することは天体周辺大気の変遷を理解・予測する上で必要不可欠である。SS520-3観測ロケット実験は、地球で主要な電離大気流出が起きている極域カスプ周辺領域において、電離大気流出の原因として理論的に想定されている波動ー粒子相互作用を、人工衛星ミッションに向けて新たに開発された観測装置を用いて世界で初めてその場で検出、解明するミッションである。
SS520-3観測ロケット実験が解明を目指す波動ー粒子相互作用は極域カスプ上空800km付近から効率よく働いていると予測されており、本実験には800km以上の高度まで到達できるSS520の使用が必須となる。更に、カスプ上空にSS520を打ち上げる事のできる射場は、スピッツベルゲン・ニーオレスンを除いて他には無い。
SS520-3観測ロケットには、デジタル方式フラックスゲート磁力計(DFG)、全磁力を計測するCoupled Dark State Magnetometer (CDSM)、低周波波動解析システム(LFAS: Low Frequency Analyzer System)、熱的イオン分析器(TSA: Thermal ion Spectrum Analyzer)、低エネルギーイオン/電子計測器 (LEP: Low Energy Particle experiment)、低エネルギーイオンエネルギー質量分析器(IMS: Ion Mass Spectrometer)、高速ラングミュアプローブ(FLP:Fast Langmuir Probe)、針状ランングミュアプローブ(NLP:Needle Langmuir Probe)、高周波プラズマ波動・インピーダンスプローブ(PWM:Plasma and Wave Monitor)の各観測装置と、姿勢決定のための太陽センサー(SAS:Sun Aspect Sensor)を搭載する。このうち、CDSMはオーストリア、NLPはノルウェーから提供される、国外の観測装置である。また、LFASとTSA/IMSの双方で取得されるデータを高速にメモリに保存し、メモリーに保存されたデータを地上に送って解析することで、これらの観測装置は、WPIA(Wave Particle Interaction Analyzer: 波動粒子相関器)として機能する。このWPIAを用いることで、地球電離圏における電離大気流出につながる、電離大気の加熱、加速メカニズムの解明にブレークスルーをもたらす計画である。
SS520-3観測ロケット実験を実施するにあたり、EISCAT スバールバルレーダー(ESR)との連携及び、同時観測は必須である。ESRのリアルタイム観測データは、観測ロケット打ち上げ時に流出現象が起きていることのモニターとして必要不可欠である他、ロケット観測データの解釈に必要となる熱的イオンの時空間分布の情報を与えてくれる。ESRは数10kmオーダーの平均的な描像を得ることができるのに対し、観測ロケットはロケット軌道上のその場の詳細な情報を得ることができるため、同時に異なるスケールで観測されたデータを取得できる。このこともイオン流出現象の理解のために、非常に役立つと言える。
SS520-3観測ロケット実験では、打ち上げタイミング決定の条件である「観測ロケットの軌道が観測対象とするカスプ領域の上空を通過するかどうか」の判断には、主に地上からの光学観測のリアルタイムデータが重要になる。これらの観測はロケット射場のあるNy Alesund ではノルウェーのオスロ大が行っている他、約100 km離れたスバルバード島内のLongyearbyenではオスロ大、The University Centre in Svalbard(UNIS)の他、日本も極地研のグループを中心にオーロラ分光器や全天カメラを用いた観測及びリアルタイムデータ公開を継続しており、国内及びオスロ大、UNISの研究者を通じて、ロケット実験時の支援を期待できる。
北欧Ny Alesundからの宇宙研の観測ロケットの打ち上げは、SS520-2号機に続き15年ぶりである。この大変貴重な機会を最大限に生かして、電離大気流出の原因として理論的に想定されていながら未解決のままとなっている、波動ー粒子相互作用の検出に是非とも成功してそのメカニズムを解明したいと考えている。