日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM16] 大気圏・電離圏

2016年5月24日(火) 15:30 〜 17:00 106 (1F)

コンビーナ:*大塚 雄一(名古屋大学太陽地球環境研究所)、津川 卓也(情報通信研究機構)、川村 誠治(独立行政法人 情報通信研究機構)、座長:大山 伸一郎(名古屋大学 宇宙地球環境研究所)、横山 竜宏(情報通信研究機構)

15:30 〜 15:45

[PEM16-13] サブストーム回復相におけるオーロラパッチと下部熱圏風速変動

*大山 伸一郎1塩川 和夫1三好 由純1細川 敬祐2ブレントン ワトキンス3栗原 純一4津田 卓雄2クリストファー ファーレン3 (1.名古屋大学宇宙地球環境研究所、2.電気通信大学、3.アラスカ大学フェアバンクス校地球物理学研究所、4.北海道大学)

キーワード:オーロラ、熱圏、ファブリペロー干渉計、サブストーム回復相

地磁気活動に対する極域熱圏・電離圏の応答は長年研究されており、変動を発生させる代表的な物理機構としてジュール加熱や粒子加熱による熱エネルギー散逸、ローレンツ力による運動量輸送が提唱されている。これらの物理機構に関する研究はサブストームの主相ないしオンセット前後の現象の解析が主であり、回復相に着目した研究は少ない。しかし回復相はオーロラ電子の中で最高エネルギーを持つ粒子が降込む時間帯に相当し、電離圏密度は高度・緯度・経度の広範囲にわたり顕著に変動することが知られている。そこで我々は回復相に着目し、熱圏・電離圏の基本物理量(密度・温度・風速)の代表的変動を把握し、その発生機構の物理的解明を目的としている。
ノルウェーのトロムソにあるファブリペロー干渉計(FPI; 波長557.7nm)を用いた我々の観測研究によってサブストーム回復相のオーロラパッチ(AP)の出現に伴い一晩の中で最大の振幅を持つ風速変動が下部熱圏で測定された。一連のサブストーム活動中に蓄積・散逸されるプラズマエネルギーの収支過程では、回復相でのエネルギー散逸量は少ないと一般的には考えられているので、この観測事象は興味深い結果と言える。そこで本研究では、激しい風速変動が観測された3つのイベントについて、その時の太陽風・磁気圏・電離圏の観測値を用いた総合的な議論を行った。その結果、(1)APの縁あるいはAPに囲まれたオーロラ輝度が低い部分に風速変動が局在し、振幅と周期は最大で約20 m/s(鉛直成分の値)と約10分である、(2)電離圏対流電場は概ね小さい(< 15 mV/m)、(3)脈動オーロラを伴う、ということが分かった。これらのことから風速変動を発生させるエネルギー散逸はAP周辺に局在していると推定される。FPIで測定したオーロラ波長(557.7 nm)は電子の降り込みエネルギーに依存して発光高度が変動する。さらに主な発光高度領域である100km付近には風速の高度勾配がある。FPI風速値へのこれら高度分布の影響を推測するために、欧州非干渉(EISCAT)レーダー測定の電子密度と、Geophysical Institute, Univ. of Alaska Fairbanks が開発した電離圏モデル(SCIM)を用いた定量解析を行った。その結果、発行高度の変化は1.5kmかそれ以下であり、約20m/sに達する風速変動を発光高度の変化だけで説明するのは難しいと考えられる。電離圏対流電場は小さいことから、通常のジュール加熱やローレンツ力による大気加速も考えにくい。現状、主要な物理機構は未解明であるが、サブストームに伴う磁気圏からのエネルギー輸送過程と、中性大気へのエネルギー輸送過程をより理解するために、回復相における電離圏・熱圏応答の研究は鍵となるかもしれない。