16:00 〜 16:15
[PPS11-09] 鉄合金へのクレーター形成:温度と衝突速度の影響
キーワード:鉄、クレーター、衝突
はじめに:初期の太陽系は主にガスやダスト粒子で構成されており、46億年の間に衝突合体などを繰り返し、現在の惑星系が形成されたと考えられている。惑星成長過程において直径20km以上に達した微惑星は溶融分化により鉄質コアが形成される(Moskovitz and Gaidos,2011)。鉄質コアの形成は、CAI形成の30-60万年後に起こる始原的な出来事であり、初期の惑星進化過程を理解する上で非常に重要な出来事である。鉄質コアの調査について小惑星16Psycheが注目され、次回のNASAのディスカバリーミッションの候補にその探査が挙げられている。我々は、鉄質コアの調査に関して、その表面での衝突現象を理解するため、鉄へのクレータリングに関する基礎データ収集及び、シミュレーションで用いる標的物質の強度パラメータの調査を目的とし、標的温度・衝突速度を変え鉄同士の衝突実験及び衝突シミュレーションを行った。結果、低速域において低温標的のほうが室温標的よりクレーターが浅くなることがわかり、その温度依存性をもたらすいくつかの強度パラメータを決定した(小川他、北大低温研衝突研究会2016)。
今回の実験では、弾丸物質にも着目し、強度パラメータが既知の銅弾丸を用いて衝突実験とシミュレーションを行った。さらに、鉄同士で行った室内実験スケールの衝突シミュレーションを実際の天体規模まで拡張し、両者の違いを調査した。
実験方法:立方体の鉄質標的へ銅球を速度2.0-6.5 km/sで衝突させた。弾丸の加速には宇宙科学研究所にある横型二段式軽ガス銃を用い、チャンバー内を0.5-5 Paに減圧して実験を行った。クレータリングへの温度の影響を調査するため、液体窒素で150 K以下に冷却した標的と室温の標的に対し、同じ衝突条件においてクレーター形状の変化を観察した。衝突シミュレーションについてはShock physics codeであるiSALEを用いて行った。衝突実験との比較のため、実験と同じ衝突条件を設定し計算を行った。本シミュレーションでは金属に対する強度モデル”Johnson-Cookモデル”に着目しており、鉄合金標的には我々の先行研究で決定したSS400のモデルパラメータを用い、そして銅弾丸のパラメータには無酸素銅の値(Johnson and Cook, 1983)を用いた。そして、鉄同士の衝突について天体スケール (弾丸直径: 数百m-数百km)のシミュレーションを行い、πスケーリングを用い室内実験スケールのシミュレーション結果との比較を行った。
実験結果:低速度域(2.0 km/s)では、室温標的に比べ低温標的のクレーター深さが浅くなったが、高速度域(4-6.5 km/s)においては、深さに温度依存性は見られなかった。さらに直径についても温度依存性は見られなかった。つまり、温度はクレーター深さに影響し、さらにその温度依存性は衝突速度によって変化することが考えられる。
鉄は低温にすると強度が増加することが知られている (e.g. Petrovic, 2001)。そのために低温でのクレーター深さが浅くなった可能性がある。さらに、各実験でクレーターへの弾丸の付着が見られたため、その影響も考えられる。高速度の場合にはクレーター深さに温度依存性がみられなかったことから、クレーター深さへの影響について、弾丸の付着など、低温による強度の増加以外の要因を調査しなければならない。
シミュレーション結果:実験と同条件下でシミュレーションを行ったが、低温と室温でのクレーター深さは誤差の範囲内で一致しており、実験で見られた温度依存性は再現されなかった。原因としては銅の降伏強度、歪量、歪速度に関するパラメータが鉄の約1/3-1/5であることが考えられるが、原因特定のためにさらに詳しく調べる必要がある。また、鉄同士の衝突シミュレーションについて、πスケーリングによる比較を行ってみると、低速度域において室内実験スケールよりも深くなる結果となった。さらに、室内スケールでは見られたクレーターサイズの温度依存性が見られなかった。今後はシミュレーションを通して衝突規模の影響を調査し、さらに実験について、クレーターの断面から弾丸の付着などを調査する必要がある。
謝辞:iSALEの開発者であるGareth Collins,Kai Wunnemann,Boris Ivanov,H.Jay Melosh,Dirk Elbeshausen の各氏 に感謝致します。
今回の実験では、弾丸物質にも着目し、強度パラメータが既知の銅弾丸を用いて衝突実験とシミュレーションを行った。さらに、鉄同士で行った室内実験スケールの衝突シミュレーションを実際の天体規模まで拡張し、両者の違いを調査した。
実験方法:立方体の鉄質標的へ銅球を速度2.0-6.5 km/sで衝突させた。弾丸の加速には宇宙科学研究所にある横型二段式軽ガス銃を用い、チャンバー内を0.5-5 Paに減圧して実験を行った。クレータリングへの温度の影響を調査するため、液体窒素で150 K以下に冷却した標的と室温の標的に対し、同じ衝突条件においてクレーター形状の変化を観察した。衝突シミュレーションについてはShock physics codeであるiSALEを用いて行った。衝突実験との比較のため、実験と同じ衝突条件を設定し計算を行った。本シミュレーションでは金属に対する強度モデル”Johnson-Cookモデル”に着目しており、鉄合金標的には我々の先行研究で決定したSS400のモデルパラメータを用い、そして銅弾丸のパラメータには無酸素銅の値(Johnson and Cook, 1983)を用いた。そして、鉄同士の衝突について天体スケール (弾丸直径: 数百m-数百km)のシミュレーションを行い、πスケーリングを用い室内実験スケールのシミュレーション結果との比較を行った。
実験結果:低速度域(2.0 km/s)では、室温標的に比べ低温標的のクレーター深さが浅くなったが、高速度域(4-6.5 km/s)においては、深さに温度依存性は見られなかった。さらに直径についても温度依存性は見られなかった。つまり、温度はクレーター深さに影響し、さらにその温度依存性は衝突速度によって変化することが考えられる。
鉄は低温にすると強度が増加することが知られている (e.g. Petrovic, 2001)。そのために低温でのクレーター深さが浅くなった可能性がある。さらに、各実験でクレーターへの弾丸の付着が見られたため、その影響も考えられる。高速度の場合にはクレーター深さに温度依存性がみられなかったことから、クレーター深さへの影響について、弾丸の付着など、低温による強度の増加以外の要因を調査しなければならない。
シミュレーション結果:実験と同条件下でシミュレーションを行ったが、低温と室温でのクレーター深さは誤差の範囲内で一致しており、実験で見られた温度依存性は再現されなかった。原因としては銅の降伏強度、歪量、歪速度に関するパラメータが鉄の約1/3-1/5であることが考えられるが、原因特定のためにさらに詳しく調べる必要がある。また、鉄同士の衝突シミュレーションについて、πスケーリングによる比較を行ってみると、低速度域において室内実験スケールよりも深くなる結果となった。さらに、室内スケールでは見られたクレーターサイズの温度依存性が見られなかった。今後はシミュレーションを通して衝突規模の影響を調査し、さらに実験について、クレーターの断面から弾丸の付着などを調査する必要がある。
謝辞:iSALEの開発者であるGareth Collins,Kai Wunnemann,Boris Ivanov,H.Jay Melosh,Dirk Elbeshausen の各氏 に感謝致します。