16:45 〜 17:00
[PPS11-12] 衝突点近傍の掘削流: “干渉領域”からの高速放出物
キーワード:天体衝突、衝突放出物、火星隕石
天体衝突は天体表層物質を掘削・放出し, 物質の再分配を引き起こす. 天体衝突が惑星表層のあるいは天体間の物質輸送に果たした役割を探るため, 実験的にも理論的にも衝突放出物の速度-質量関係を求める研究が盛んに行われてきた. 特に放出物の質量の大部分を占める低速の放出物についてはスケーリング関係式が確立され広く用いられている. ところが衝突点近傍かつ, 標的表面付近から放出される高速成分についてはあまりよく理解されていない. 高速成分の衝突放出物全体に占める質量は小さいため, あまり重要視されてこなかったことが理由だと思われる. しかし, 衝突による惑星間, 惑星-衛星間, 衛星間の物質交換や, 放出物と惑星大気の相互作用といった問題に取り組もうとすると, 達成される最大速度についての理解が必要になるであろう. これは放出物が宇宙空間に飛び出すため, あるいは空力加熱によって物質が熔融したりするためには, ある閾値を超える速度が必要だからである.
衝突点近傍・標的表面付近からの衝突掘削を扱う際の困難は, (1)衝突天体が標的へ貫入していく途中で発生する衝撃波によって掘削流が駆動されるため, いわゆる点源近似を用いることができないこと, (2)自由表面から発生する希薄波が衝撃波と干渉し, 複雑な流れ場(これを“干渉領域”とよぶ.)を形成すること, (3)非線形現象のため解析的に解くことができないことである. Melosh (1984)は近似を用いて, “干渉領域”の厚みや放出速度を解析的に求めているが, 衝突点から衝突体直径程度の衝突点近傍にまで結果を外挿するのは危険であると述べている.
そこで我々はiSALE shock physics codeを用いて, 衝突点近傍の流れ場を可視化し, 標的からの最高放出速度を求める試みを開始した. 以下に計算条件をまとめる. 今回は簡単のため垂直衝突のみを扱う. 計算座標系は二次元円柱座標とした. 衝突体と標的はともに花崗岩であると設定し, 対応するTillotson EOSを用いた. 衝突体半径は便宜上10 kmとしたが, 物質強度及び重力を考慮していないので, 適当な規格化を施せば計算結果はサイズに依存しない. 衝突速度は火星への典型的衝突速度程度の12 km/sとした. 標的の計算格子に追跡粒子を挿入し, 各時間ステップにおける位置, 圧力, エネルギー変化を記録した. 衝突体が標的に貫入するための特徴時間のおよそ1.5 倍に対応する衝突3秒後までに放出された追跡粒子について解析を実施した.
衝突点近傍・標的表面付近からの追跡粒子は, Melosh (1984)で解析的に推定されたものと定性的にはよく似た挙動を示した. 特に重要なのは衝突点近傍・標的表面付近の追跡粒子には衝撃波がほぼ動径方向から, 希薄波が上方向から入射する点である. 衝撃波によって動径方向に加速された後, 希薄波によって上方へ更なる加速を受ける. 衝撃加熱によって不可逆的に蓄えられた内部エネルギーは上方への運動エネルギーに変換されている. このとき放出速度はRankine-Hugoniot関係式から求められる最大衝撃圧に対応する粒子速度の2倍が上限となる. 数値衝突計算を用いることで, 衝撃波と希薄波が干渉する場合でも, ある場所における粒子が経験する最大衝撃圧を計算することができる. 今回の衝突条件における最高放出速度は~5.5 km/sで衝突速度のおよそ半分であった. 今回の衝突条件で5 km/sを超える放出速度を得た物質は最大衝撃圧が40 GPaを超えており, その質量衝突天体の~0.1 wt%程度であった. 自由表面から~5層程度の粒子がそれを超える粒子速度を得て放出されることを確認したが, 数値誤差による可能性が排除できておらず, 更なる解析が必要である.
今後は様々な衝突条件に対して数値衝突計算を実施し, 干渉領域からの高速放出物についての速度-質量関係式を得る予定である.
謝辞
iSALE の 開 発 者 であ る Gareth Collins, Kai Wünnemann, Boris Ivanov, H. Jay Melosh, Dirk Elbeshausenの各氏に感謝致します.
衝突点近傍・標的表面付近からの衝突掘削を扱う際の困難は, (1)衝突天体が標的へ貫入していく途中で発生する衝撃波によって掘削流が駆動されるため, いわゆる点源近似を用いることができないこと, (2)自由表面から発生する希薄波が衝撃波と干渉し, 複雑な流れ場(これを“干渉領域”とよぶ.)を形成すること, (3)非線形現象のため解析的に解くことができないことである. Melosh (1984)は近似を用いて, “干渉領域”の厚みや放出速度を解析的に求めているが, 衝突点から衝突体直径程度の衝突点近傍にまで結果を外挿するのは危険であると述べている.
そこで我々はiSALE shock physics codeを用いて, 衝突点近傍の流れ場を可視化し, 標的からの最高放出速度を求める試みを開始した. 以下に計算条件をまとめる. 今回は簡単のため垂直衝突のみを扱う. 計算座標系は二次元円柱座標とした. 衝突体と標的はともに花崗岩であると設定し, 対応するTillotson EOSを用いた. 衝突体半径は便宜上10 kmとしたが, 物質強度及び重力を考慮していないので, 適当な規格化を施せば計算結果はサイズに依存しない. 衝突速度は火星への典型的衝突速度程度の12 km/sとした. 標的の計算格子に追跡粒子を挿入し, 各時間ステップにおける位置, 圧力, エネルギー変化を記録した. 衝突体が標的に貫入するための特徴時間のおよそ1.5 倍に対応する衝突3秒後までに放出された追跡粒子について解析を実施した.
衝突点近傍・標的表面付近からの追跡粒子は, Melosh (1984)で解析的に推定されたものと定性的にはよく似た挙動を示した. 特に重要なのは衝突点近傍・標的表面付近の追跡粒子には衝撃波がほぼ動径方向から, 希薄波が上方向から入射する点である. 衝撃波によって動径方向に加速された後, 希薄波によって上方へ更なる加速を受ける. 衝撃加熱によって不可逆的に蓄えられた内部エネルギーは上方への運動エネルギーに変換されている. このとき放出速度はRankine-Hugoniot関係式から求められる最大衝撃圧に対応する粒子速度の2倍が上限となる. 数値衝突計算を用いることで, 衝撃波と希薄波が干渉する場合でも, ある場所における粒子が経験する最大衝撃圧を計算することができる. 今回の衝突条件における最高放出速度は~5.5 km/sで衝突速度のおよそ半分であった. 今回の衝突条件で5 km/sを超える放出速度を得た物質は最大衝撃圧が40 GPaを超えており, その質量衝突天体の~0.1 wt%程度であった. 自由表面から~5層程度の粒子がそれを超える粒子速度を得て放出されることを確認したが, 数値誤差による可能性が排除できておらず, 更なる解析が必要である.
今後は様々な衝突条件に対して数値衝突計算を実施し, 干渉領域からの高速放出物についての速度-質量関係式を得る予定である.
謝辞
iSALE の 開 発 者 であ る Gareth Collins, Kai Wünnemann, Boris Ivanov, H. Jay Melosh, Dirk Elbeshausenの各氏に感謝致します.