日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG59] 海洋底地球科学

2016年5月25日(水) 13:45 〜 15:15 301B (3F)

コンビーナ:*沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)、田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)、石塚 治(産業技術総合研究所活断層火山研究部門)、土岐 知弘(琉球大学理学部)、高橋 成実(海洋研究開発機構地震津波海域観測研究開発センター)、座長:山本 揚二朗(海洋研究開発機構)、山下 幹也(海洋研究開発機構 地震津波海域観測研究開発センター)

14:15 〜 14:30

[SCG59-03] 大規模海流域における海底地殻変動の解析法

*安田 健二1田所 敬一1松廣 健二郎1谷口 颯太1 (1.名古屋大学大学院環境学研究科)

キーワード:海底地殻変動、海中音速構造、黒潮

名古屋大学では、南海トラフ軸近傍(熊野灘の南)にトラフ軸を挟むように海底地殻変動の観測点2点(TOA・TCA)を2013年から設置している.この観測点直上では、しばしば黒潮が流れている.黒潮は、流れに直交する方向に温度差が存在し、水深1000m程度まで温度差が続いている.海中音速はDel Grosso [1974]の経験式によって変化しており、温度変化に大きく依存する.現海底局位置決定の際に海中音速構造は、水平成層構造と仮定している.そのため、実際の海中音速構造が水平不均質となっている場合、局位置決定はバイアスを含んで決定してしまう[Muto et al. 2008].そこで本研究では、黒潮のような軸に直交する方向に温度差が存在する(傾斜構造のような)場合に対応した海底地殻変動の解析法を提案する.
本研究では、Ikuta et al. [2007]の海底地殻変動の解析法に水平不均質を考慮した音速構造モデルを適応する.本研究で用いる音速モデルは以下の式によって表される:
S(X,x,z)=S0(z)+dS(A(z)×tan(q(X,x)-R(X)).
S(X,x,z)はスローネスの時空間変化、S0(z)はCTDによって推定された音速の鉛直方向のプロファイル、dSは水平方向のスローネスの変化率.A(z)は海底局から深さzまでの鉛直距離、R(X)は傾斜軸から観測船までの距離、q(X,x)は海底局と船の入射角、R(X)は傾斜軸から海底局までの水平距離、Xは海底局位置、xは船の位置、zは水平不均質が存在する深さ.傾斜(水平不均質)の大きさと軸の方向は、数値実験[Yasuda et al., 2015 in SSJ fall meeting]より推定可能であることが示された.この数値実験では、傾斜構造を含んだ音速構造の海域での海底地殻変動解析において、走時残差に周回1周の半分の周期が残り3局の海底局とも位相がずれることがわかっている(図1).この走時残差の振幅と三局の初期位相から傾斜の大きさと軸の方向が推定可能である.本研究では、推定された傾斜の大きさと軸をもとに誤差の範囲内でグリッドサーチを行うことにより、走時残差の残差二乗和が細小になる時の傾斜の大きさと軸を最良の音速モデルとして解析に取り入れた.
新しい解析に使用したデータは、TOA、TCAの全観測である.どちらの観測点も4回の観測が行われており、すべての観測で観測点直上を黒潮が流れていることが確認されている(三重県水産研究所のNOAA海面水温データより).新しい解析を適応した結果、すべての観測で南−南東方向に最大の音速差が存在することが示された.これは、観測日当日に観測された海面水温データ(三重県水産研究所)と調和的である.走時残差のRMSはTCA観測点の2015年5月の観測において最大の低減である0.27 msほど低減した.また4回の観測の海底局位置のRMSは元の解析と比較すると、TCAの南北成分で0.46 mから0.06 mと0.40 m低減し、東西成分で0.10mから0.11mと0.01m増加した.また、TOAの南北成分で0.46mから0.08mと0.38m低減し、東西成分0.22mから0.05mと0.17m低減した.本研究の解析法を適応した結果、黒潮の影響による系統誤差は大幅に低減することができた.